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高レベルの魔物をサクッと討伐



 

 「くそっ!囲まれた!お互い背中を合わせて陣形を組むぞ!!」

 「おい!魔法使いは陣形の中へ!」

 「こいつらをいなしながら、ゆっくり後退するぞ!」


 剣士のブルズエルは仲間に指示を出していた。


 現在、ブルズエル達が率いるBランクパーティとモンシェ率いるCランクパーティの合同パーティはアイスウルフの団体に囲まれていた。


 剣士や斥候の前衛を外に、魔法使いや弓使いを内にして陣形を立てていた。


 コイツらは始め五匹しかいなかったから、大丈夫かと思った。しかしアイスウルフにつられて奥まで行って、気づいたら三十匹の集団に包囲されていた。


 あの五匹は集団への誘導係ってわけか。アイスウルフの狡猾さを忘れていた。

 完全な俺の判断ミスだ。

 ブルズエルは内心悪態をつく。

 

 反省をしながらも、なんとかブルズエル達の合同パーティは陣形を保ちつつ、上の層へ続く道へと向かっていった。

 ダンジョンには複数の層があり、それぞれの層に現れる魔物はその層でしか活動することが出来ない。


 だから違う層に行ってしまえば、アイスウルフに襲われることはなくなる。

 しかし数の多いアイスウルフに噛みつかれないように移動するのは至難の業だ。

 

 ミナトはアイスウルフの事を数が多いが、雑魚であると評していたが、アイスウルフの最も恐ろしいところは氷の牙だ。

 あの牙に噛みつかれると、冷気が体内に入り込んで、低体温症になってしまう。

 最悪の場合、体が凍り腐って壊死してしまう。

 

 だからブルズエル達は噛みつかれないように細心の注意を払わなければならなかった。


 「ん?」


 しかし、そんな時ブルズエルはふと視界の端に白い物が入り込んだ事に気がつく。

 戦闘中と分かっていても、ついつい白い物が気になって、視線を動かす。


 ここから少し遠いところに、黒髪の少年が見える。気のせいではない。

 視界に入った白い物は少年が身に付けていたマントだった。

 少年は俺達を見て、ゆっくりと近づいているように見て取れる。


 ……それにしても妙だ。


 着ている服装は失礼だが、ボロいのに、マントは純白でとても綺麗。

 そもそも、こんな"高ランクの冒険者が"活動するような中層に少年が一人でいる事自体おかしい。


 「なぁ、あれ。子供じゃないか?」

 「おい、ブルズエル!!よそ見すんな!!」

 「あ、いや…あそこに少年が」


 仲間から叱責が飛んでくる。


 少年のことは気になるが、仲間の言うことも一理ある。

 俺は仕方なく視線をアイスウルフに戻す。

 前衛は剣や盾で守りつつ、内側の魔法使いや弓使いの後衛は遠距離攻撃でアイスウルフを削っていく。


 経験でわかる。

 俺達の陣形とアイスウルフ達のせめぎ合いはもう保つことが出来ない。

 均衡が崩れたのは、そう考えた直後だった。


 「しまった!くそっ、いってぇ!!」

 「な?!噛まれたか?!」


 Cランクパーティの斥候の一人がアイスウルフに噛みつかれる。

 まずい!低体温症になる。急いで引き剥がさないと!!


 皆んなもそう思い、すぐに近くの仲間がアイスウルフを引き剥がそうとする。

 だが、それによって陣形が崩れてしまった。


 それを見逃すアイスウルフではなかった。

 すぐさま、陣形が崩れたところを中心に襲いかかる。前衛は後衛をなんとか守ろうと陣形を整えようとするが、余計に陣形が乱れる。


 ブルズエルはそれによって、注意力が散漫になってしまった。


 「は、早く陣形を整えるんだ!!このままじゃ全滅す……」

 「ブルズエル!前!!」

 「え?……あっ」


 当然だ。注意力のなくなり、大きくよそ見までしだす人間をアイスウルフが襲わない理由はない。

 前を見たら、口を多く開けたアイスウルフが目の前に迫っていた。そのまま氷の牙で喉を噛み破る気だろう。


 反撃はもう間に合わない。

 死んだと思い、小さい声しか上げられなかった。


 ああ…俺の人生終わった。Aランクになる夢が。 目を硬く閉じて、来たる痛みを待つ。


 「………」


 しかしどれだけ待っても全く痛みは感じる事はなかった。


 ザンッ!

 それどころか何かが切れる…高い音が聞こえた。

 はて?そう思い、恐る恐る目を開ける。


 「……な?!こ、これは?!」


 そこには綺麗に両断されたアイスウルフの死体。

 アイスウルフは少しして、煙のように消えた。死んだって事だ。


 でも、誰が?!

 驚愕したのも束の間。


 ザンッ!ザンッ!ザンッ!

 先程聞いた高い音が何度も鳴る。


 「な、なんだこりゃあ?!」

 「アイスウルフが……一体全体何が?!」

 「真っ二つになってやがる……」

  

 仲間が続々と上擦った声で状況を説明する。

 なんと全てのアイスウルフが漏れなく両断されていたのだ。

 これは俺の知らないダンジョンの罠か何か?


 警戒して辺りを見渡していると、


 「すみません。通っていいですか?」

 「うおっ!」


 驚き、少し後ずさってしまう。

 いきなり、至近距離から話しかけられた物だから体がビクッとしてしまった。


 俺に話しかけた音源は……あの黒髪の少年!

 すぐ目の前にいて、何故だか不機嫌な顔をしていた。

 

 少年は顔を硬直させる俺を捉えて、眉根を寄せ、口を開く。


 「えっと…通って良いですか?」

 「へ?」

 「入り口……あなた達がいると、上に行く層への入り口が通りずらいんですけど」

 「あ、ああ!す、すまない。今退く!」

 

 少年が指差したのは上の層は続く入り口だ。

 俺達の合同パーティがいるせいで通りづらくなっている。


 アイスウルフの集団に囲まれた時は陣形を保ちながら、この入り口に向かっていたからな。

 ゴールは意外と近かったのか……。

 

 俺は仲間にも、少年に道を譲るように指示する。

 仲間はこんな場所に一人少年がいる事に、なんでここに少年が……思っているように目を見開く。

 うん…俺も同じ感想だ。


 少年が上の層への入り口に入る直前、


 「くそっ!腕が上手く動かねぇ!」

 「バン!どうした?低体温症か?」


 先程アイスウルフに噛まれたCランクパーティの斥候バンが腕をさすっている。

 彼の左腕は黒く変色している。


 これはマズイ!低体温症がかなり酷い。急いで応急処置を施さないと、最悪左腕が一生使えなくなる。

 火で湯を沸かして、ポーションをかけなければ手遅れになる。


 だが、ここでバンの痛烈な声を聞いた少年が足を止め、バンの方を見る。

 その顔は面倒臭そうな表情である。


 「はぁ……」


 そして一つため息をこぼし、何を考えたのか、バンに近寄る。


 「え?き、君は?」


 バンも突然少年がそばに寄ってきたから動揺をする。

 少年は動揺するバンを他所に黒く変色した左腕に触れる。


 「な?!おい!……………………は?こ、これはどう言う事だ?!」


 少年が何をするか分からないバンは反論の声を上げ、当然俺も流石に介入しようとするが………何とバンの左腕が湯気を出したかと思うと、元通りの肌の色に戻ったのだった。


 バンは左腕を見て、手を握ったり開いたりしているが、見たところ完全に低体温症は無くなったようだ。

 それを見届けた少年はその場を離れる。


 俺はバンに駆け寄る。


 「バン!平気か?」

 「あ、ブルズエルさん!俺は何ともないです」

 「すまねぇ!俺が判断を見誤ったばかりに」

 「き、気にしないでください。俺はこの通り何ともないですから。……多分あの子のおかげです」

 「ああ、そうだ!あの少年が何かしたんだ。礼を言わないと」

 

 俺は即座に少年がいた場所に振り向く。


 しかし少年の姿はもう、どこにもなかった。




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