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第5話 オレとお前がいれば、王城を落とすことくらい分けないだろうに

「おい! 本当にレーティの身は安全なんだろうな!?」


 レーティ様が王都へと旅立ったその日、騎士団長室に呼び出されたジル(ぼく)は、クリスに問い詰められます。


 っていうかこのやりとり、もう何度目になったでしょうか……


 だからぼくは、わざとらしくため息をついてから言いました。


「はぁ……なんども説明したでしょう? レーティ様には精霊の加護を付けていますから絶対に安全です」


「本当だな? 本当に安全なんだな!?」


「だから、本当の本当ですよ。以前、その実演を見せたでしょう? レーティ様の許可なく肌に触れようものなら、その痴漢はボンッですよ、ボンッ」


 さらに色々と魔法の仕組みを説明して、それで一応の納得をしたらしいクリスは、室内のソファに腰を下ろします。


 その向かいに座りながら、ぼくはクリスに言いました。


「そんなに心配するなら、せめてレーティ様とお別れの挨拶をすればよかったでしょうに。顔を見るだけでも気が休まるでしょう?」


「……今のオレにそんな時間はないし、そもそも別れでもない。だから挨拶など不要だ」


「はぁ……あなたも融通が利かない人ですねぇ……」


 クリスとの付き合いも今年で三年になりますし、あの石頭は、今に始まったことではないのですけどね。


 どうせ、レーティ様のハーレム入りが気に食わなくて()ねているだけでしょう。


 まぁ今回の場合では、ハーレム入りとは名ばかりで、実際は下働き的な扱いになるとは思いますが。王族が、地方貴族のレーティ様を抱くとも思えませんし。


 つまり暴君王は、自身のハーレム入りを餌にして、レーティ様を呼び出したということなのでしょう。ハーレム入りを喜ぶ女性のほうが珍しいと思いますが、そこに気づかないのが暴君王らしいです。


 ですがレーティ様の場合、下働き的な作業はそつなく出来るので心配ないでしょう。


 なぜレーティ様が呼び出しを受けたのか? 暴君王の魂胆は定かではありませんが、もしかしたらぼくたちが原因なのかもしれません。


 王家や中央貴族は平民も毛嫌いしてます。そんなぼくたち平民が騎士に抜擢されるなど本来あってはならないことのはず。


 だからこそ、こんな不条理な世界をひっくり返すために、ぼくとクリスは密かに動いていたわけですが……


「なぁ、もう準備とやらは十分だろ」


 向かいに座るクリスは、苛立ちを隠すことなく言ってきます。


「そもそもオレとお前がいれば、王城を落とすことくらい分けないだろうに。それをなぜ、ここまで時間を掛けるんだ」


「それも以前に説明したでしょう?」


 クリスの言うとおり、確かに、ぼくの魔法でクリスを強化して突貫させれば、王城を攻め落とすことは可能です。


 クリスの剣技はまさに一騎当千のごとき強さですし、そこにぼくの強化魔法が加われば、近衛兵の数や王城の防御力など関係ないでしょう。


 ですが──


「──例え王城を落としたとしても、王都周辺は、王家と懇意にしている中央貴族がいます。彼らに攻め込まれたら、王都は火の海となり、平民まで犠牲になるんですよ。ぼくたちが勝ったとしても」


「………………」


 クリスは、むっつりしたまま目を逸らしました。


 近年では有名無実化していますが、本来の貴族は戦いを生業とします。だから戦死するのは仕方がありません。ですが平民は違います。平和を愛する木訥(ぼくとつ)とした人達なのです。


 そんな平民の血が大量に流れたとあったら、レーティ様が悲しむのは言うまでもないでしょう。


 現実的な側面を考えても、王都を戦場にするのは得策ではありません。なぜなら国力が大きく低下してしまうからです。そうなると今度は、近隣諸国に付けいる隙を与えてしまいます。


 だから王都を火の海にしないために、王城を落とした後も、中央貴族には自領に留まってもらう必要があります。


 それを行うには、クリスとぼくではさすがに手数が足りません。


「それでジルよ、地方貴族をまとめる工作は上手くいっているのか?」


「ええ。それに関しては、ちょうど完了したところです」


 中央貴族を自領に留まらせるためには、地方貴族の協力が不可欠になります。地方貴族ならラファエリ家と同胞ですし、何しろ王家憎しの感情を持っていますから適任ではあるのですが……


 とはいえ王家にバレたら即極刑ですから、その工作は隠密に進める必要がありました。中には、王家に尻尾を振るだけの地方貴族もいますし。


 だからぼくは、この三年間、地方貴族と腹の探り合いをし続けるハメになりました。まったくもって面倒くさかったですねぇ……


 地方貴族の問題はもう一つあって、どこの地方貴族も疲弊しているということです。例え一致団結できたとしても、反旗を翻すほどの体力は残っていません。明らかに戦力不足でした。


 なので戦力に関しては、ぼくが開発した魔法兵器を貸与することにしました。


 そのことを、ぼくがクリスに説明します。


「地方貴族が魔法兵器を扱えるようになるのに、もうしばらくの時間が掛かりそうなんですよね」


「どのくらいだ?」


「最短でも……一カ月くらいでしょうか」


「一カ月もか……!?」


「仕方がないんですよ。魔法なんて、今やほとんどの貴族が扱えませんし」


「……くそっ!」


「確かに、レーティ様がハーレム入りされるのは予想外でしたが、先に言ったとおり、レーティ様の身は安全です。それにレーティ様が王城にいた方が、攻城戦を有利に進められるかもしれませんし」


「どういうことだ? レーティには戦う力はないんだぞ?」


 クリスのその問いに、ぼくはニヤリと笑ってみせました。

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