裁判員裁判(法的な評価等に争いのある事件)0日目
参加の手引というペーパーを室内にいる全員の手元に届けてもらった。
教員「今回の夏休みの特別講座は、近くの裁判所で、ひとまとまりの期間、裁判員が参加する刑事裁判を行うことから、この事件を傍聴して、レポートを提出してもらうとともに、関係する基本的な法的事項について講義をし、最後に小テストを出すので回答してもらうという、ひとまとまりのものを予定している。」
若さに溢れた男女15名ほどと教室で向かい合っている。彼ら彼女らは、これまで、裁判的な事柄について特別な知識がないものが大半だろう。積極的な関心があるものもいれば、やむにやまれず申し込んだものもいると思われる。例外としては、前の講義を受講した者が物好きにも今回の特別企画に申し込んでいる、といったところだ。今日は簡単なオリエンテーションのようなものなので、飽かず倦まずに簡単なところで話を済ませてしまおう。
教員「さて、今日は、傍聴に当たっての日程確認、心構えや傍聴をより意義のあるものにするための前提知識を、簡単に話しておこうと思う。」
教員「本番の傍聴は現地集合なので、間違えずに、配布した日程表どおりの日時全てで、初日は午前9時半であるが、に山河地方裁判所の正門前に集まってほしい。」
教員「さて、『参加の手引』を見てもらうと、その目的は、刑事裁判の傍聴を通じて、法的な知識理解を深める、というものになる。」
教員「そもそも刑事裁判とは、検察官が起訴した被告人について、起訴された犯罪事実が認められるか否か、全部ないし一部が認められたときにどのような刑罰を与えるか、という国家作用である。公開されていて自由に見られるようになっているのは、刑罰が好き勝手に濫用されていないことを制度的に保障するためのものと言えるだろう。」
教員「もし、これまでに傍聴をしたことがないのであれば、ぜひしっかりと傍聴してもらって、良い経験にしてもらいたい。」
教員「では、傍聴に当たっての身支度や心構えを伝えたい。『参加の手引』では、傍聴に当たっての注意事項という項目になる。基本的な項目を確認しておきたい。」
教員「服装は今着ているような私服で問題ない。多少気になるなら、法廷の厳粛な雰囲気を損なわないためには落ち着いた服装が望ましいとの説明もあるので、そこを一つ参考にしてもらったら良いと思う。」
教員「裁判所の入り口では荷物検査があるので、無用のトラブルを避けるため、荷物には、カッターなどの刃物類は持っていかず、筆記用具やメモ帳等の必要最低限のものとするように。昼食は庁内に食堂があるところなので、支障がなければ初日はそこで取ることにしようと思う。」
教員「続いて、傍聴席でのマナーを説明する。まず、固定席以外での立ち見はできないので、念のため、少し早めに行って、席を取ってしまいたい。何故立ち見が駄目かという、裁判官その他の裁判所職員からからしたら、傍聴席の様子が把握しにくくなるし、咄嗟の挙動に備えなければならなくなる。裁判の公開は制度的保障といえるが、個々人に傍聴の権利を付与しているわけではないということになるだろう。」
教員「ファッションであったり、当日の天候次第で、帽子をかぶってくる者もいるかもしれないが、傍聴席では脱ぐことになっているので、あらかじめ予定しておいてもらいたい。礼儀作法という面もあるが、どちらかといえば傍聴人の目線あるいは表情などが見えやすく把握しやすくするため、という実際的な意味が大きいように思われる。」
教員「また、今回の傍聴予定の事件は、傍聴券交付が予定されていないため、途中の退室・入廷が可能だろうが、満席に近いような状態になったときはむやみに席を立たない方が良い。大勢の人が傍聴に来るとは思われないが、万が一人の出入りが多い場合、元の席を他の人に座られた上に、他に席がなく再入廷できないとなるかもしれない。その間の事件の概要は、私のほうから別途伝えたいと思うので、通路の椅子にでも腰掛けて待機してもらい、他の人が退席し入廷可能なところで入って傍聴を再開してもらいたい。」
教員「次に、携帯電話の電源は切る。法廷では、口頭主義及び直接主義ということで、声や音なども用いて審理をしているわけだから、音が鳴ってしまうと邪魔になる。それ以外にも、最近は、法廷内の様子を写真撮影したり、ネット配信するなどの許されない行動の予防策という側面もある。ただ、メモを取ることは基本許されているので、メモ帳・筆記用具を出し、気になったことや大事なことを書き留めておくことは問題ない。」
教員「加えて、傍聴中は色々気になることが出たりするだろうが、質疑応答は別に機会を設けるから、周りの人とおしゃべりをしたりしない。また、喉が渇くなどの問題が起こるかもしれないが、飲食をしない。それらは音や匂いで審理を妨げたりしてしまうので。」
教員「この他、傍聴席の安全性の観点から長い傘は傍聴席には持ち込めないし、メッセージ性があったり、政治的アピールのようなニュアンスの服装やアクセサリー等は、裁判官や裁判所職員から、分からないようにしてほしいとか、外してほしいといった、指示を受けることがあるかもしれない。裁判所からの指示が出された場合は素直に従ってもらいたい。」
教員「それと、審理の開始と終わりで『起立』という号令が掛けられる可能性がある。そのときは指示に従い、起立して、裁判長の礼に合わせて礼をするように。」
教員「傍聴の注意事項は以上。いろいろ話したが、相手の迷惑にならないような、落ち着いた静かな行動をしていれば基本的には大丈夫。後、スマホ、タブレット、ケータイ、ノーパソ等の電子機器を使ってはいけないことは重ねて注意しておく。法廷前に貼られた開廷表等をメモ的に写真に取るようなことも許されていないので、不用意に撮影すると裁判所職員がすっ飛んでくるので、気を付けるように。」
最低限のマナーは伝えたが、参加の手引にも箇条書きで同様のことが書いてある。やらかしに基づく雑多な注意事項もあるところだが、この辺りは棚に上げて、何か意味のわからない校則が存在する中学校のようなものと思ってもらうしかない。
教員「続いて、『参加の手引』の裁判の進み方、というところを見てほしい。大きな4つの枠がある。第一審の裁判は、冒頭手続→証拠調べ手続等→弁論手続→判決、このとおりの順序で手続が進んでいく。」
教員「もう少しだけ詳しく見ると、冒頭手続では、人違いでないかの確認をする人定質問、どんな罪に問われているのかを明らかにする起訴状朗読、黙秘権告知に、起訴状に対する応答である被告人・弁護人の罪状に認否がある。」
教員「証拠調べ手続では、最初に、どんな事実を証明するのかを主張し、付加的に争点等にも言及冒頭陳述が検察官となされ、弁護人からも、裁判員裁判では必要的に同様の冒頭陳述がなされる。その後、裁判員裁判では必要的に、公判前整理手続で整理された争点の内容、証拠の整理結果や、進行予定について、裁判所の方から示される。その後は、実際の証拠調べが始まる。」
教員「ここに関連して要注意事項が3点ある。1つ目が、法廷で取り調べられた証拠が裁判の証拠であり、インターネットで見たとかの他所で得た知識・情報を元にして判断してはいけないということ。2つ目が、犯罪事実については、検察官が証明、すなわち常識に照らして間違いないと思う程度の立証しなければならならないということ。3つ目が、もし真偽不明となった場合には、疑わしきは被告人の利益に、という言葉のとおり、被告人は無罪になるということ。である。証拠調べには、証拠書類の読み上げや証人尋問、鑑定人尋問、被告人質問などがある。」
教員「なお、証拠調べ手続の『等』は、証拠調べ手続の後、被害者・遺族が意見陳述をすることもあるので、一応『等』と付けただけのことである。」
教員「弁論手続は、証拠調べを踏まえて、各当事者が改めて争点等に対する自分たちの主張を行うところで、検察官の主張は論告、求める刑の重さは求刑といい、弁護人の主張は弁論、被告人の言い分を最後に出すのが最終陳述という。順序は今述べたとおり、論告、弁論、最終陳述である。」
教員「皆さんも、今回の傍聴を通じて、裁判員になったつもりで、証拠調べで現れた証拠から、被告人の有罪・無罪や、量刑について考えてみてほしい。」
この後、質問を受け付けて簡単なやり取りをした。
教員「では、本日の事前準備はこれで終わりにする。『参加の手引』の日程に書かれているとおり、明日は午前9時半に遅れず、山河地裁の入口前に集まってほしい。」
そう締めくくって、事前準備を終えた。
〈参考文献等〉
傍聴のルール(横浜地家裁簡裁)
https://www.courts.go.jp/yokohama/kengaku/vcmsFolder_1625/vcmsFolder_1626/vcmsFolder_1719/vcms_1719.html




