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●刑事控訴審に関する講義・下

 次は控訴審での公判期日の審理等についてです。

 そう言うと、「☓出頭義務(390本)」、「例外・出頭命令(390但、390の2)」、「弁論能力・弁護人(弁護士のみ)」、「事実取調べ(393)・・・事後審」とホワイトボードに書き付ける。


 被告人は、身柄拘束を受けていようがいまいが、原則、刑事控訴審の公判期日への出頭義務はありません。刑訴法390条本文。例外として、裁判所が、被告人の権利保護のため重要だと認めて被告人に出頭を命じたとき、保釈等をされている被告人につき判決宣告期日への出頭を命じたときには出頭義務が生じます。刑訴法390条但書、390条の2です。


 被告人側からの控訴の場合で、さほど大きな事案ではないとき、控訴審の公判期日の一般的な進行は、第1回公判期日が、被告人に対する人定質問、弁護人による控訴趣意書の陳述、検察官の答弁、弁護人による事実取調べ請求、検察官の意見、裁判所の採否、採用されたらその取調べ、判決宣告宣告期日の指定で、第2回公判期日が、人定、判決宣告、上訴権告知となります。


 検察官及び弁護人は、控訴審では、控訴趣意書に基いて弁論をしなければならないため、その場の思い付きで好き勝手に言えるようにはなっていません。刑訴法389条です。

 そして被告人には刑事控訴審の公判期日での弁論能力がないため、控訴趣意書の陳述は弁護人が行うことになります。この控訴審の弁護人は弁護士しかなれません。刑訴法388条、387条です。ただ、控訴趣意書は陳述されなくとも、撤回や不陳述の態度を示さない限り、控訴裁判所においてこれに応答する義務があるため、この点では公判廷でアピールできないというだけになります。刑訴法391条です。

 そうはいっても、被告人の弁論能力を認めなかったその規定は、専門性が要求される控訴審で、被告人のトンチンカンな言動に振りまわされないための、有用な条文といえるでしょう。


 答弁について、控訴の相手方が検察官の場合、大した問題がない事案であれば、口頭で、控訴の理由がなく控訴は棄却すべきことを述べて終わらせます。答弁書は無くても答弁できる範囲と考えられています。ただ、控訴趣意書に対して応答すべきと判断した場合や裁判所から答弁書の提出を求められた場合には答弁書を提出することもあり、この場合、答弁書に基づいて弁論をすることになります。


 事実取調べ(じとり)については、先ほど述べたとおり、その請求は、控訴趣意書の提出と同時に、証拠の種類によっては、公判期日の直前にするのが通常かと思われます。


 控訴裁判所の証拠の採否のうち、当事者からの請求に対し義務的取調べとなる証拠もありますが、それは、㋐量刑不当又は判決に影響を及ぼすべき事実誤認を証明するもの、㋑一審弁論終結前にやむを得ない事由によって取調請求ができなかった証拠又は一審弁論終結後に生じた事実を立証する証拠、㋒その証明をするのに欠くことができない、をすべて満たす場合に限定されています。刑訴法393条1項ただしがきです。

 確かに、刑訴法393条1項本文は、調査に必要であれば請求又は職権により、事実の取調べができるとが定めています。しかし、刑事控訴審の事後審的性格を徹底する現在の実務傾向では、裁量的な取調べをするのは、一般的にはかなり例外になると言えるかと思います。なお、例外的に職権で実施する場合、控訴裁判所が真に職権で調査に必要な証拠に把握するのは容易とは限らないので、当事者からの事実取調請求がその手掛かりとなることも多いです。

 この刑訴法393条1項本文の解釈に関しては、完全無制限説、修正無制限説の対立があるとされていますが、省略します。


 事実取調べの採用手続について。原判決に瑕疵=控訴の理由があるかどうかを調べることは、訴訟法的事実の判断であるので、本来的には自由な証明、主に伝聞証拠に対する相手方の同意があるかどうかに縛られないところに意義がある、で行えます。

 しかし、実務の運用としては、その後に証拠として認定の用に供せるように、厳格な証明、すなわち刑訴法に規定された手続にのっとって行われています。

 そこで、控訴審でも第一審同様、当事者からの証拠請求があれば、反対当事者が証拠意見を述べ、控訴裁判所がその採否を決することになります。同意があれば後は控訴審特有の要件をクリアするかどうかの問題になります。他方、不同意の場合、伝聞例外の根拠を挙げて請求したり、証人尋問を請求したりしないと、第一審同様、控訴審でも採用することはないということになります。


 職権による事実取調べの範囲については、当然個々の控訴裁判所の裁判体ごとにバラツキはありますが、採否基準あるいは傾向としては次のような点が指摘されています。注3

 ①新証拠を取り調べることが、将来一般的にその種証拠の提出について、当事者の第一審集中主義を軽視する風潮を助長する結果にならないか、

 ②実体的真実の発見、具体的妥当性の追及の面で、その証拠を取り調べないことによって第一審のどのような誤りが看過されることになるか、

 を比較検討して、証拠の採否を決することになろう。控訴審も法律審という面より事実審という性格が強く、個別具体的事件の救済が要請されていることを考えると②のほうに主眼があるというべきか、

 ということです。公判前整理手続の導入や事後審制への傾倒を考えると、今はさらに限定的かもしれません。


 続いて、量刑不当に関する原判決後の情状。刑訴法393条2項は、「控訴裁判所は、必要があると認めるときは、職権で、第一審判決後の刑の量定に影響を及ぼすべき情状につき取調をすることができる」と定めています。

 ここにいう「必要がある」とは、当該証拠の立証趣旨からうかがえる内容と原審記録とが相まって量刑を変動させると思われるものというのが素直な理解です。一審判決後に、被告人が被害者に対してそれなりの金額について金銭を支払い、示談したという示談書が事実取調請求された場合は量刑に影響を及ぼしうると考えられるため、「必要がある」ものとして採用されることが多いと思われます。

 そしてこの点を率直に考えれば、原判決を受けての単なる被告人の反省、原判決を受けて監督を約した情状証人などは事案との兼ね合いもあるでしょうが、ほとんどは量刑を下げるほどの情状を持つものではないとして、控訴裁判所は取調べ請求を却下することになるでしょう。他方で、理屈的には多少難はありますが、事件の大半を占める量刑不当での当事者のガス抜きとして、原判決後の情状としての若干の被告人質問、第一審とは重複にならずかつ時間を掛けない情状証人や陳述書を、許容する立場を取るものも見られます。現在は前者のほうが多数を占めるようです。


 控訴審での事実調べが終われば、取り調べた証拠に基づく弁論、すなわち当事者の主張が行われることがあります。事実認定が強く争われていて、意味ある証拠調べが行われた時などが考えられ、行う事件は相当少ないでしょう。


 これらが終われば、控訴審判決です。

 そう言うと、

「被告人側控訴」

 「控訴棄却」

 「未決勾留→控訴申立日以降につき裁定算入」

 「訴訟費用→当審分」


 「原判決破棄」「自判」「差戻」

 「未決勾留→法定通算」

 「訴訟費用→原審及び当審」

とホワイトボードに書き付ける。


 判決の基礎となる証拠として、原審で適法に調べられた証拠能力ある証拠はそのまま控訴審での証拠として用いられます。刑訴法394条。これに控訴審で取り調べた証拠も合わせて判断されます。


 まず、控訴棄却。刑訴法396条。裁判形式は判決です。


 主文について。

 原判決に、控訴理由として規定された事由がなければ、判決主文で控訴が棄却されます。

 勾留されている被告人については、控訴審段階の未決勾留日数について裁定算入がどのくらいされるかの判断も主文で示されます。刑法21条。算入の考え方は第一審同様であり、まことしやかに言われる話では60日が控訴審を行うために必要な期間であって、これを超える勾留については未決として算入するというものです。算入しない場合には主文に表れません。なお、これは被告人側の控訴申立を前提とした説明であり、検察官が控訴した場合には法定通算で全日数が未決勾留日数に算入されます。刑訴法495条2項1号です。

 また、私選弁護人ではなく国選弁護人が選任されたとき、事実取調で証人尋問が行われたときなど、訴訟費用が発生した場合には、控訴審での訴訟費用の負担についても判断する必要があります。刑訴法181条1項本文・ただし書。負担させる場合に限り主文に表れます。負担・不負担の判断基準は一審と変わらないと考えられています。この点も被告人側控訴の場合であり、検察官のみが控訴した場合において上訴が棄却されたときは、訴訟費用を被告人に負担させることはできません。刑訴法181条3項。


 理由部分について。

 趣意、論旨、所論という言葉の一般的な用法は、趣意が控訴の理由の表題、論旨が具体的な中身、所論が自己の主張を根拠付ける原判決の不合理の指摘や自説の積極的な理由付け、です。

 控訴の趣意及び重要な答弁について、その要旨を記載しなければなりません。刑訴規則246条前段。適当と認めるときは引用しても構いません。同条後段。

 一般的には、絶対的控訴理由から応答し、訴訟手続の法令違反、事実誤認、法令適用の誤り、量刑不当の順に応答するというのが通常です。ただ論旨次第で順番を前後させるものもおかしくありません。


 理由の具体的な中身・流れについて。

 量刑不当の場合、例えば、まず、事案の概要として窃盗や無免許運転などの犯罪事実の要旨を掲げ、本件控訴の趣意として量刑不当を示し、論旨として、原判決の主刑なり未決勾留日数なり追徴金額なりの対象となる数値内容を具体的に掲げて「重過ぎて不当である」というに留めるか、控訴趣意書で具体的に執行猶予を求めていたり、結論とすべき数値を出しているときは、「重過ぎて不当であり執行猶予を付すべきである」などと示すかということになります。

 次に、原判決の量刑の理由の要旨を示して、その説示ないし理由付けの評価、宣告刑なりの結論の評価が端的に結論として示されます。一例として、理由・量刑に問題なければ「原判決が量刑の理由で説示する内容は相当であり、その結論も妥当であって、当裁判所も是認できる。」、理由に一部問題はあるが量刑が裁量の範囲内にあるときには、「原判決が(量刑の理由)の項で説示する内容は概ね相当であり、その結論も重過ぎて不当とはいえない。」、理由は問題があって少なくない部分で採用できないが、結論自体は量刑裁量の範囲内にあるときは、「原判決の量刑は結論において重過ぎて不当とはいえない。」などと記す例が見られます。

 そして個別の主張である所論については、一対一対応で応答するものもあれば、所論の中に①②③などといくつか併記し、回答も①②③などと併記するものもあります。どうやら取るに足らない又は意味が乏しい主張は「など」にまとめて、「その他弁護人の主張を検討しても、原判決の量刑を左右するものはない。」などとまとめて回答したりすることがあるようです。

 量刑不当の所論として考えられるものを分類すると、明示された量刑事実の認定誤り、明示された量刑評価の誤り、黙示的な量刑事実・評価の誤りあるいは考慮欠落、量刑相場からの逸脱ないし共犯者の量刑との不均衡等があります。これに対する応答としては、そのまま端的に、誤りではないとか不合理ではないなどと応答するものもあれば、所論の前提事実が誤りであるとか、問題は枝葉末節であり量刑を揺るがすものではないといった切り方もあります。記録と主張がどういうものであるかに応じて、それぞれに合った説得的な応答を図っていると思われます。


 事実誤認の場合。例えば、まず、事案の概要として、原判決として第一審判決の認定した罪となるべき事実の要旨を掲げ、本件控訴の趣意として事実誤認を示し、論旨として、被告人は犯人ではないから無罪、故意がないから無罪、行為時に統合失調症により心神喪失又は心神耗弱であったから無罪又は減刑されるべきであるなどと示すことになります。これらの事情はいずれも判決に影響することが明らかなので、その旨明示されないこともありますが、基本的には、その要件についても論旨として示されていることが通常です。

 次に論旨に係る原判決の事実認定の補足説明部分を示して、その理由付けや結論についての評価を示すのが通例です。簡単なものだと「原判決が事実認定の補足説明の項で説示する内容は相当で、その結論は論理則、経験則等に照らして不合理な点はなく、当裁判所も是認できる。」、「原審記録によれば、被告人に心神喪失も心神耗弱もないことを前提として窃盗罪により処罰した原判決に、論理則、経験則等に照らして不合理な点はなく、是認できる。以下所論に即して若干補足する。」などと応答したりしています。

 所論としては、「所論は、グーグルのタイムラインの履歴によれば本件犯行があったとされる時間帯に少し離れたコンビニに滞在していたと認められるから被告人は犯人ではないという。」、「所論は、凶器の形状、怪我の位置・形状・個数のほか、被告人が前記包丁を選んで持ち出したこと、被告人が枢要部であるVの胸やその周辺に向けて何度も包丁を突きだしたことを根拠として被告人の殺意を認定している原判決に対し、被告人の原審公判供述のとおり、被告人とVが揉み合う中でたまたま包丁が複数回胸に刺さったものであり、Wの証言を信用し被告人の前記供述を排斥して行為態様を認定し故意を認めた原判決には事実誤認があるという。」などと要約されるかと思います。

 所論に対する応答は先ほど説明したとおりです。


 複数の控訴趣意がある場合には、事案の概要、控訴趣意、控訴趣意1の論旨・原判決の理由及び結論・控訴裁判所の結論・趣意1の所論及び応答、控訴趣意2の論旨・原判決の理由及び結論・控訴裁判所の結論・趣意2の所論及び応答、適用法令・結語といった流れとするものがあります。


 以上、控訴棄却の判決の一例です。


 続いて、破棄の場合。刑訴法397条。裁判形式は棄却同様に判決です。控訴理由として規定された事由がある場合は1項破棄、刑訴法397条1項と、控訴理由として規定された事由はないものの原判決後の事情を取り調べた結果、原判決を破棄しなければ明らかに正義に反すると認めるときは、判決で原判決を破棄できるという2項破棄、刑訴法397条2項があります。


 主文について。

 破棄した上で差し戻して第一審で改めて裁判をさせるか、控訴裁判所自らが判決する自判かの分岐があります。

 必要的差戻しとしては不法に管轄違を言渡し(刑訴法378条1号)、公訴棄却判決をした(刑訴法378条2号)場合です。刑訴法398条。条文にはありませんが、無罪の第一審判決について事実誤認を理由として破棄する場合、中核的な事実調べを控訴審で行っていなければ、自判することができないという判例もあります。最高裁昭和34年5月22日。なお、原審地裁で放火罪の訴因に対し失火罪を認定して管轄違を言渡したが、控訴審で放火罪を認定して破棄する場合には、この刑訴法378条1号に該当しますが、公訴事実につき審理が尽くされているときは、刑訴法398条の適用がなく、自判できるという解釈もあります。注4

 2項破棄の場合は自判が当然の前提となります。差し戻すか自判するかの判断は、その他の1項破棄において想定されます。自判するのにふさわしい状態を自判適状と言います。実務の運用上としては差戻しがむしろ例外であり、自判が圧倒的に多いとされています。

 実務において差戻しがなされる場合は、第一、破棄判決の効力として原審の訴訟手続の全部ないし一部が失効する場合、ただし一部が失効したにすぎないときには自判の余地があります。第二、破棄理由に審理不尽が含まれる場合は、原審において必要な審理を尽くす必要があるから、事件を差し戻すことになる、なお、審理不尽の言葉にはいくつかの用法がありますが、いずれの場合も同様です。第三、上記のとおり中核的な事実の取調べなく無罪を破棄する場合、となります。注5

 なお、控訴審での訴因変更など、わずかに手続を付加することで、自判適状に到達することは、訴訟経済・訴訟促進の観点から許されると考えられています。


 未決勾留日数については法定通算として、被告人側の控訴申立日以降の全日数が当然算入されるため、破棄判決の主文で未決勾留日数の算入について触れられることはありません。刑訴法495条2項2号。

 訴訟費用については差戻しの場合、終局判決が消滅したということになるので負担の問題はペンディングされ、自判する場合には原審及び当審の訴訟費用について負担の裁判をする必要があります。


 理由部分。

 控訴棄却と比べると書き方のバリエーションも広いように思われますが、事案概要、控訴趣意、論旨、原判決の判断要旨、控訴裁判所の結論、所論と絡めつつ理由を説明、結語ないし自判、となるのが一例かと思われます。


 補足として、職権破棄の場合。

 控訴趣意に対する判断との関係が問題となりますが、例えば、控訴趣意が事実誤認や量刑不当のとき、訴訟手続の法令違反で職権破棄する場合、事実認定等に差し障る内容であれば、控訴趣意を判断する意味がないから職権破棄を先立って判断することになります。最高裁昭和33年11月17日は、控訴審において、職権をもって、法令違反を理由として一審判決を破棄しあらためて有罪判決をした以上、量刑不当の控訴趣意に対し特に判断を与える必要はない、としています。

 もっとも、先に控訴趣意書に対する判断をした上で職権破棄事由に触れ、その後自判することもあります。例えば、控訴趣意書が量刑不当であるがその点で原判決に不備はなく、職権破棄の理由が法令適用の誤りであって自判を要するときには、先行して量刑不当の所論に応えておくことで、自判で原判決と同一の量刑をとった理由が自ずと分かることになるからです。

 この他、例えば、当該裁判体としては法令適用に関して原判決と異なる解釈を正当と考えるものの、その立場をとると原審は形式的な誤りではあるが差し戻さざるを得ないが最高裁の解釈がどうなるか必ずしも見通せず、訴訟経済上も誰にとっても利益にならないようなときには、職権判断は必ずしも義務的なものとは言えないので、そもそも職権判断をしないで見過ごすこともあるようです。


 破棄差戻し判決には拘束力があります。控訴審が破棄の理由とした原判決に対する消極的判断までもが再び論点とならないようにするためです。拘束力の範囲・限界などについては省略します。


 以上のような判決は、判決宣告期日で朗読されます。保釈中の被告人には出頭命令が出され被告人が在廷していますが、それ以外の事件は出頭が任意的ですから被告人不在でも判決はできます。判例の解釈に従えば、判決時に弁護人の出頭は不可欠ではないので、最悪、被告人も弁護人も不在で判決することも許されないわけではないということになります。

 とはいえ、勾留中の被告人や高裁が近くて意欲ある被告人の場合には出頭することが往々にしてあるので、控訴審での判決宣告期日では、人定質問、判決宣告、上告権の告知等がなされるのが通常です。


 以上、刑事控訴審の概要です。次回の講義はこちらの都合で休講といたします。本日の講義はこれで終了します。


 講義を終えると、普段から熱心に講義を聞いている女子学生がこちらに向かって来た。

 「すみません、今日の講義の部分で質問をさせてください。」と言うので頷いて先を促すと、「原判決前に存在する事実に関する証拠を控訴審で取り調べる要件である、やむを得ない事由、ですが、どういったものと理解したら良いのでしょうか。」と言う。

 「どのあたりが分からないですか。具体例として分かりやすいのは物理的不能で、第一審段階では逃亡中の重要人物の所在が明らかとなったので証人尋問をしたいといったものです。」と答えると、「はい、他方で、被告人が、訴訟戦略として、執行猶予が取れると思ったから事実を認めたけれど、実刑になったから、控訴審で弁解をしたいという場合がここに当たらないというのも分かるのですが、中間的な物理的不能と心理的不能の総合考慮という考え方なんですけれど。」とつっかえながらも尋ねてくる。

 「その辺りの具体的な基準は実務的なさじ加減だと思いますから、実務的な立場から個別の問題に当たりながらでないと基準となる理解は難しいかもしれません。」「ありがとうございました。」

 女子学生の後ろにも数人、質問に来たと思しき学生がいたことから、この日の彼女は早々に質問を打ち切って教室を後にした。


注3・小林充『刑事控訴審の手続及び判決書の実際』32頁(法曹会)

注4・石井一正『刑事控訴審の理論と実務〔第2版〕』436頁

注5・注4掲437頁以下参照。

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