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●刑事控訴審に関する講義・上

 本日は刑事裁判の控訴審についてです。


 まず、刑事裁判に対する控訴制度が成立する過程について簡単に確認しましょう。

 フランスでは、比較的早くから発達したと言われています。中世に権力の階層性を前提として存在した「裁判拒絶の上訴」、「誤判の上訴」の伝統に加えて、ローマ法起源の控訴、国王への「判決修正の申立」を認めた1270年のルイ9世の布令集などが相俟って成立したものと見るべきであり、いずれにせよ、14世紀始めには、フランス全土で、今日的な意味での控訴制度が成立していたことが認められているというのです(注1)。


 同じヨーロッパでも、ドイツでは、ドイツ刑事普通法の基本的な法源であったカロリナ法典(1532年)は、上訴に関する規定を全く持っていませんでした。その立法当時、一部の領邦では控訴が行われており、各領邦内における控訴については禁止されていなかったが、17世紀には控訴は許されないとの解釈が一般化し、多くの領邦の立法は明示的に領邦内での控訴を禁じた、というのです。もっとも、そこでは、控訴に代わる権利保障として「再度の弁護」、これは有罪判決を受けた被告人が申し立て得るもので、本来の形態は、移審や執行停止の効果はもたないが、申立期間が限定されず、何回も申し立てられるものですが、が一般的に承認され、領邦の立法にも明記された、ということです。その後も様々な不服申立て制度が採用され、19世紀には改革された刑事訴訟の中で控訴を認めるものから認めないものまでいくつかの態度がとられ、1877年に成立した、控訴制度を有するライヒ刑訴法に流れ着くと思われます(注2)。


 ひるがえって、近代以前の日本では控訴制度は存在しませんでした。ただ民事訴訟では、裁判の既判力や一事不再理といった概念が整理されていないこともあって、再訴することで裁判の変更を求めることが行われていましたが、刑事裁判ではそのような形もなく、裁判に対する不服申立てが整備されていくのは明治期以降です。

 つまり、日本での刑事控訴審というものは150年程度の歴史しかないということになります。


 と、歴史的な話をしていても、現実の役には立たないので、ここからは、現代日本の刑事訴訟法とその解釈、それらに基づく運用について述べていきたましょう。


 刑事控訴審の存在意義は、誤った一審裁判の是正であり、国民側から見れば裁判を受ける権利の手厚い保障でもあります。


 日本での不服申立てを担当する裁判機関は一番上に最高裁判所、次いで高等裁判所です。刑事裁判では、地裁・簡裁の判決に対する控訴は高裁が担当します。その所在地は、札幌高裁、仙台高裁とその秋田支部、東京高裁、名古屋高裁とその金沢支部、大阪高裁、広島高裁とその岡山支部及び松江支部、高松高裁、福岡高裁とその宮崎支部及び那覇支部となります。

 3審制を採用している日本では、最高裁と高裁の役割分担として、最高裁が基本的に法律審の最終審として機能するのに対し、高裁は全般的なチェックであり、とりわけ事実認定の最終審として機能する側面が強いと言われています。


 ここで、控訴審の審理及び判決書の特徴を何点か挙げると、審理では、原審(第一審)と異なり起訴状一本主義的なものは取られておらず、原判決を、控訴申立書や控訴趣意書も踏まえて原審記録等によって調査し、検討の上で期日に臨んでいます。証拠調べは限定的であり、刑訴法392条に定められた調査をし、必要があるとなれば事実の取調べをします。このような運用を支えるのは刑訴法393条の解釈運用であり、義務的証拠調べの範囲が限定的に解釈され、裁量的証拠調べの範囲も限定的に運用されています。判決では、原判決を論難する控訴趣意書に対する応答がおもとなります。なお、控訴審の審査の第一次的な対象については、原判決であるか、控訴趣意書であるかについて、議論があります。

 このように、日本の刑事裁判の控訴審の性格は、原判決の当否・不合理があるかどうかを審査するという事後審が基本です。他の控訴審のあり方としては、日本の民事裁判の控訴審として言われるのが、一審からの審理を継続するという続審であり、刑事控訴審でも国民参加制度を取っているような国では、審理を最初からやり直すという覆審を取っていたりします。


 さて、控訴のスタート地点は一審判決の成立です。原判決の宣告以後につき、刑事訴訟法に定められた流れについて、以下、概略した図に沿って説明していきたいと思います。そう言って紙を配付する。


[一審での有罪判決・無罪判決・公訴棄却判決]

 ↓

〈控訴申立〉

 │  ↓※明らかに控訴権消滅後

 │ [控訴棄却決定](375)

 ↓

[一審から控訴審への記録送付]

[控訴審での記録受理・事件の分配]

 │  │※控訴申立が法令上の方式に違反し、

 │  │ 又は控訴権の消滅後にされたのが

 │  ↓ 明らかなもの

 │ [控訴棄却決定](385)

 ↓

[控訴趣意書の差出し最終日の指定及び通知]

 │  ↓※最終日までの提出なし

 │ [控訴棄却決定](386Ⅰ)

 ↓

〈控訴趣意書の提出〉

 │  │  │※趣意書の法令規則の方式違反、

 │  │  │ 必要な保証書・資料添付なし、

 │  │  ↓ 控訴理由の記載なし 

 │  │ [控訴棄却決定](386ⅡⅢ) 

 │  │

 │  ↓※難しい判断対象が含まれるとき

 │ 〈答弁書の提出等〉

 ↓  ↓

[公判期日の指定・実施]

 │  │  

 │  ↓※事実取調請求があり採用されたとき等

 │ [〈事実の取調べ〉]

 │  │  │

 │  │  │※当事者が事実取調べを踏まえた

 │  │  ↓ 主張を必要とするとき

 │  │ 〈弁論〉

 ↓  ↓  ↓

[控訴審による判決宣告]

 ↓

〈上告申立〉以下省略


 [ ]は裁判所の判断や作業、〈 〉は当事者の訴訟行為をそれぞれ示します。


 控訴申立についてみます。

 そう言うと、「地裁・簡裁判決(372)」、「14日以内(373)」、「控訴申立書、一審提出(374)」、「原審棄却(375)」、「控訴の利益」とホワイトボードに書き付ける。


 控訴は地裁又は簡裁の第一審判決に対して行うことができます。刑訴法372条です。

 提出期間は一審判決の翌日から14日以内です。刑訴法373条です。

 控訴の申立ては書面で行うことになっており、控訴申立書の提出先は一審裁判所です。刑訴法374条です。口頭での申立てを許さないのは手続上の明確性を損なわないためです。また、控訴審で審理判断をするには一審裁判所にある記録が必要であり、その記録を一審から高裁に送付しなければならないため、一審裁判所が控訴申立書の提出先となっています。

 なお、控訴の申立が明らかに控訴権の消滅後にされている場合、一審裁判所は控訴棄却決定をすることになっています。刑訴法375条です。高裁にそのような申立てを届ける意味もなく、その判断に原審の裁量は入らず容易に認定できるものだからです。上訴権回復の請求という制度の説明は省略します。

 控訴の対象・範囲としては全部控訴と一部控訴がありますが、複雑な事件を除いて全部控訴しかないので、この点の整理については省略します。


 ところで、法文にはないですが、控訴の申立てには控訴の利益が必要です。多くの場合は問題になりません。被告人側なら有罪を無罪に、重い量刑を軽い量刑に、というように、主文で宣告された内容をより自己に有利なものに変更してほしいというのであれば、控訴の利益としては問題ありません。

 しかし、被告人側が、より重い主文を求める控訴(責任能力による減免が納得できないのでより重い認定をしてもらいたいなど)、理由中の判断の誤りを是正してもらいたい控訴(責任能力がないということで無罪となったが正当防衛により違法性阻却事由があるとして無罪を求めるなど)は、控訴の利益がないとして控訴棄却の判断がなされることになります。最高裁昭和37年7月22日決定でも被告人は無罪判決に対して上訴できないとの判断を示しています。


 明らかに控訴権消滅後になされた控訴以外、すなわちほぼ全部の普通の控訴がなされたとき、一審裁判所は記録を整理して高裁に送付します。刑訴規則235条。高裁がこれを受け付けて事件番号を振るなどの受付事務を行い、所定の配分に従い、事件を割り振ります。

 割り振られた後、高裁の期日を開くまでの間に、その控訴の申立につき、法令上の方式に違反し、又は控訴権の消滅後にされたことが明らかだと把握されたときは、高裁で、口頭弁論を開くことない書面審査の段階で、控訴棄却決定をします。刑訴法385条。


 続いて、控訴趣意書及びそこに記載される控訴理由についてみます。

 そう言うと、「期間の定め(376Ⅰ、規236)」、「添付(376Ⅱ)」、「絶対的控訴理由(377、378)」、「相対的控訴理由 訴手(379)、法適(380)、量刑不当(381)、事実誤認(382)」「再審事由(383①)」、「刑の廃止変更(383②)」とホワイトボードに書き付ける。


 記録が届いた高裁では、速やかに控訴趣意書を差し出すべき最終日の指定と控訴申立人やその弁護人への通知を行います。刑訴規則236条です。最低でも3週間は確保できるように送達翌日から起算して21日目以後の日を最終日とすべきであり、違反していたら21日目の日を最終日とみなすと定められています。このため、最終日については、余裕をもって最終日の指定をする日から4週間程度先の日を指定することが多いようです。事案の複雑さなどから最終日をより先にすることもあるようです。

 また、私選弁護人の選任がない場合の国選弁護人の選任をし、通例、高裁所在地以外で勾留中の被告人につき移送依頼を行います。


 指定された控訴趣意書を差し出すべき最終日は、卒論提出期限と同様に極めて大事な締め切りです。守れなければ控訴審での審理を受けられずに控訴棄却の決定を受けることになります。刑訴法386条です。

 卒論の締め切りと違うのは、遅延がやむを得ない事情に基づくものと認められれば期間内に差し出したものとして審判することができるとの定めがあります。刑訴規則238条です。

 また、高裁の裁量となりますが、作成期間をさらに必要とする正当な理由がある場合には最終日の延長を受けられたり、概括的な控訴趣意書の提出後に、その趣旨に収まる控訴趣意補充書を差し出せば同補充書の内容も含めて判断してもらえます。つまり、最終日より少し前には控訴趣意書を差し出すべき最終日の延長申立てをする、あるいは、概括的な控訴趣意書は最終日までに出しておくという対処法があります。


 控訴趣意書に記載されるべき控訴の理由のうち、絶対的控訴理由では、不確かな主張をした場合には裁判所侮辱ともなりかねない刑訴法377条の、裁判所の構成に誤りがあることや公開原則違反については、検察官又は弁護人の保証書を要求し、被告人がただ主張したとしても、判断しなくてよい制度設計になっています。

 他方、絶対的控訴理由のうち、刑訴法378条は原審の訴訟記録や取調べ証拠に現れた事実の援用を求めています。こちらは、管轄の問題、不法の公訴受理・不受理、審判の請求を受けた事件について判決をせず、又は審判の請求を受けない事件について判決をしたこと、理由不備又は理由齟齬です。詳細は省略します。


 続いて、相対的控訴理由について見ます。ここでいう「相対的」とは、控訴理由があっても、それが判決に影響しなければ原判決の破棄事由とならないという意味です。

 刑訴法379条、訴訟手続の法令違反。具体的には、証拠の採否判断、訴訟行為の許可・不許可の誤りや、手続的な権利の大きな侵害などが挙げられます。

 刑訴法380条。法令適用の誤り。事実関係に争いはなく、訴訟手続に法令違反がないとしても、適用すべき法令の解釈適用に誤りがあったケースということになります。

 刑訴法381条。量刑不当。被告人側からすれば主文が重すぎる場合、検察官側からすれば主文が軽すぎる場合で、犯罪事実の成立は争わず、事実誤認に属さない量刑事実に関する誤り、主には(量刑の理由)の項での事実認定の誤りや事実評価の誤りを指摘することになります。原審には量刑に関する裁量がありますから、その裁量の幅を逸脱する不当性が指摘される必要があります。

 刑訴法382条。事実誤認です。例えば、罪となるべき事実(犯罪事実)の認定に誤りがあって、有罪が無罪になるとか適用すべき刑が軽いものに変わるとか犯行動機等の犯情が変わるような場合、この事実誤認の控訴理由に分類されます。

 

 以上の相対的控訴理由については、法令適用の誤りを除けば原審の訴訟記録や取調べ証拠に現れた事実を援用した上で、違反や誤りや不当や誤認の指摘をし、かつそれが判決に影響することを控訴趣意書で示す必要があります。

 なお、刑訴法382条の2で、量刑不当と事実誤認につき、やむを得ない事由により第一審の弁論終結前に請求できなかった証拠によって証明することができる事実及び、第一審の弁論終結後判決宣告前に生じた事実は、援用することができるとされています。この条文では、訴訟手続の法令違反が外れており、学説には訴訟手続の法令違反にも同規定が準用されるべきだという説もありますが、基本的に高裁の受け入れる解釈とはなっていないはずです。したがって、ある主張がどの控訴理由に分類されるかは一定の実益があるということになります。


 また、このほかに、再審事由がある場合、原判決後に刑の廃止・変更や大赦があった場合には、疎明資料を添付し、控訴理由とすることができます。刑訴法383条です。


 控訴の申立ては、以上の、絶対的控訴理由、相対的控訴理由、再審事由等の事由があることを理由とするときに限り、することができます。刑訴法384条です。限定列挙なわけですが、必要な控訴理由は網羅されていると理解されています。


 提出された控訴趣意書が、例えば、必要な保証書を添付しない場合、「原判決の量刑は不当である。」として具体的な事実の援用を欠く場合、「原判決の量刑は相当だが、原判決後の事情によれば、現時点では重過ぎて不当であるから原判決を破棄自判すべき。」として控訴理由を欠く場合等の問題を抱えているときには、法令上の方式違反として控訴が決定で棄却される可能性があります。実際には控訴審は、控訴趣意書の記載内容を広めに捉えて棄却せずに実体判断を下すことが多いと考えられますが、形式的に切られる可能性もあります。刑訴法386条2項3項です。


 控訴の相手方による答弁については、書面を差し出すことが必須とはなっておらず、7日以内に答弁書を差し出すことが許されています。刑訴規則243条1項です。検察官が控訴の相手方の場合、大した問題のない事案のときには、公判期日に口頭で「控訴の理由がなく控訴は棄却すべき」ことを述べるにとどまります。ただ、検察官が相手方の場合は、重要と認める控訴の理由について答弁書を差し出さなければならないとも定められています。刑訴規則243条2項です。裁判所が控訴の相手方に答弁書の提出を促すこともあります。刑訴規則243条3項には、答弁書を差し出すべきことを命ずることができる、と定められていますが、実際には命じてまで差し出させることはなされていないと思われます。なお、控訴裁判所は、答弁書を受け取ったとき、控訴申立人に送達することになります。


 控訴審は、控訴趣意書に包含された事項は、これを調査しなければなりません。刑訴法392条1項です。控訴趣意書に包含されない事項であっても、控訴理由の有無を職権で調査することもできます。刑訴法392条2項です。原審の各当事者から見過ごされた法令適用の誤りなどについては、被告人控訴の際に、控訴審の弁護人が控訴趣意書で触れていなくとも職権で調査され、原判決が破棄されることがあります。


 ところで、当事者は、控訴趣意書の提出以降、公判期日前に、当事者が裁判に必要と考える証拠について事実取調べ請求をしておきます。取り調べる要件を充足するかはさておき、控訴裁判所に対して、裁判の判断に必要な原審記録にない証拠があることを伝えて、何らかの形で採用してもらうよう努めるのが通例と考えられています。事実調べ自体に関しては、後ほど、詳しく述べます。


 控訴趣意書を踏まえ、特に掘り下げて検討すべき問題がなければ、通常、おおむね3〜4週間先に、高裁での公判期日(口頭弁論)が指定されるとともに、被告人には出頭義務がない召喚状が送られ、その期日が伝えられます。もし被告人の移送が当初の段階でなされていないときは、公判期日が指定されたことを受けて、検察官は、高裁所在地の刑事施設に身柄を移送しなければなりません。刑訴規則244条。


 控訴趣意書を踏まえて原判決を破棄しなければならないほどの問題がある場合はどうなるでしょう。その問題が絶対的控訴理由や最高裁判例に反する法令適用の誤りなど、破棄理由が明確に存在する場合で、破棄差戻しと破棄自判の振り分けが容易で、かつ後者の際の自判が容易であるのなら、問題がない場合と同様の期間で、高裁の公判期日(弁論)が指定されてもおかしくはありません。

 他方、破棄理由に事実認定が関わっていて認定が難しい場合などには、判決の結論や訴訟進行等について検討を要するために期日指定までに時間がかかることもあり得ます。単純に合議に時間を要するときもあれば、答弁書、これを踏まえた追加の主張などが期日前に応酬されて時間がかかることもあると思われます。例えば、軽井沢でのスキーバス事故は、一審長野地裁が令和5年6月8日に判決を宣告し、東京高裁での第1回公判期日はその約2年5か月後の令和7年11月17日に開かれ、次回公判期日は令和8年3月13日に指定されています。


 以上のとおり、控訴審では控訴趣意書、答弁書が差し出されると判決や進行についての検討が進められ、実際に公判期日を指定するときにはその見通しが立っているというのが通常だとされています。


注1・『刑事控訴立法史の研究』7頁(昭和62年)後藤昭 成文堂

注2・注1掲(後藤)59頁以下

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