●裁判員裁判(法的な評価等に争いのある事件)の問題編
人定質問から最終陳述までの刑事裁判手続を傍聴した参加者に対して、どの程度手続を意識して見ていたかを確認するとともに、刑事裁判に触れたことをきっかけにいろいろと考えてもらうため、まとめとして小テストを出題することとした。出席点で基本的には単位に届くようにした上での、加点要素ということになる。
第1(記憶問題)今回の裁判員裁判の内容について
問1 どのような内容の事件が起訴されていたか、次の選択肢から選べ。
ア 被害者に灯油を掛けて火を付け焼き殺そうとした事件
イ 被害者に対して灯油を掛ける暴行を加えた事件
ウ ストーカーによる被害者に対する嫌がらせの事件
エ 店舗の賃貸借契約に基づく店舗明渡請求事件
問2 今回の事件の被告人には弁護人が何人いたか。
問3 検察官による起訴状朗読の直後に、裁判官から被告人に対して告げられた権利の内容は何か、記載せよ(文言でも単語でも構わない。)。
問4 証拠調べの前に行われた当事者それぞれの事件の見立ての主張を何というか、次の選択肢から選べ。
ア 冒頭手続
イ 冒頭陳述
ウ 準備書面
エ 最終陳述
問5 次の選択肢から今回の事件の主な争点2つを選べ。
ア 実行の着手(未遂)
イ 責任能力
ウ 緊急避難
エ 故意
オ 正当防衛
カ 正当業務行為
問6 検察側の証人として来たのは誰か、次の選択肢から選べ。
ア 被告人の従兄弟
イ 被害者が経営する店舗の店長
ウ 被害者
エ 被告人
問7 弁護側の証人として来たのは誰か、次の選択肢から選べ。
ア 被告人
イ 被害者
ウ 被告人の従兄弟
エ 被告人の元妻
問8 証人尋問の大まかな進め方はどうだったか、次の選択肢から選べ。
ア 人定質問(氏名等の確認)→宣誓→偽証罪の告知→裁判所側からの尋問→請求当事者側の尋問→反対当事者側の尋問
イ 偽証罪の告知→宣誓→人定質問(氏名等の確認)→請求当事者側の尋問→裁判所側の尋問
ウ 人定質問(氏名等の確認)→請求当事者側の尋問→裁判所側の尋問→反対当事者側の尋問→宣誓→偽証罪の告知
エ 人定質問(氏名等の確認)→宣誓→偽証罪の告知→請求当事者側の尋問→反対当事者側の尋問→裁判所側の尋問
問9 憲法82条1項は「裁判の対審及び判決は、公開法廷でこれを行ふ。」と定め、今回の刑事裁判も公開の法廷で行われていたが、その全てを明らかにしなければならないという意味ではない。今回の裁判で隠されていたと考えられる事項は何か、次の選択肢から選べ。
ア 被害者の住所地
イ 被告人の身上経歴
ウ 傷跡等の、証拠を見る裁判員に精神的な打撃を与えかねない証拠
エ 被告人の犯行動機
オ 裁判官・裁判員の人相その他の身体的特徴
問10 (裁判長の司会進行を除き)審理を終える一番最後の段階で述べた者は誰か。
ア 検察官
イ 被害者参加人代理弁護士
ウ 主任弁護人
エ 被告人
第2(思考問題)刑事裁判の手続その他について。
問1 公判審理は、大まかに、冒頭手続→証拠調手続→被害者の心情意見陳述→弁論手続の流れに分けられるところ、なぜ、被害者の心情意見陳述は、証拠調べと弁論手続の間で実施されているか。その理由として、明らかに「誤り」となる選択肢がある場合にはその全てを選び、ない場合には「オ」を選べ。
ア 心情意見陳述は、証拠調手続で採用された証拠と異なり、事実認定に用いることができないから。
イ 心情意見陳述は、論告・弁論という当事者の主張の前提とすることができるから。
ウ 被害者の出廷の負担をできるだけ少なくできるから。
エ 被告人の言い分その他裁判手続に現れた内容を踏まえて心情意見陳述を行うことができるから。
オ アからエまでのいずれもが明らかな誤りとはいえない。
問2 通常の刑事裁判の場合、国選弁護人が就くのは1名だが、裁判員裁判では往々にして2名就くことがある。その理由として、明らかに「誤り」となる選択肢がある場合にはその全てを選び、ない場合には「オ」を選べ。
ア 裁判員裁判には国民の関心を惹くような重大な事案が多いから。
イ 裁判員向けに訴訟行為を分かりやすく行うための準備をするには弁護人が多く必要だから。
ウ 裁判員裁判対象事件では被疑者段階の国選弁護人の人数を必要に応じて1名増やせる(刑訴法37の5)ところ、被告人についても同様にすべきであるといえるから。
エ 連日開廷等の集中審理を実現するためには弁護人の負担を分担させることが望ましいから。
オ アからエまでのいずれもが明らかな誤りとはいえない。
問3 事実認定に関する次の文章の各空欄に当てはまる言葉を選択肢の中から選べ。
「事実認定を行うに当たっては、証拠構造を意識することが望ましい。例えば、犯行内容に争いがある事案において、検察官が主張するような犯行内容を目撃したとする目撃者の証言がある場合には、その目撃証言が信用できるかどうかがその事実を認定できるかどうかを分ける。他方、犯人性を否認する被告人について、犯行場所に被告人の痕跡があること、犯行動機があること等、いくつもの犯人性を推認させる事実の推認力を考え合わせて、被告人が犯人であるとしないと説明しがたい事実があるかどうかを考え、その犯人性を認定するといった間接事実の積み上げによる類型もある。前者の証拠構造を【 a 】、後者の証拠構造を【 b 】という。具体的には、殺意の存否が争点となっている場合、被告人の内心や認識に関するものであるので、直接証拠となりうるのは被告人の供述である。今回の裁判員裁判には殺意を認める【 c 】が証拠として出てきていないため、直接証拠型の争点ではない。間接事実型として考えたとき、争点が認められる方向に働きうる積極的間接事実としては、例えば、【 d 】、無言で駆け寄って点火棒を近付けていることなどが考えられる。逆に、認められない方向に働きうる消極的間接事実としては、例えば、【 e 】などが考えられる。」
ア 凶器に灯油が用いられていること
イ 強い動機がうかがわれないこと
ウ 被告人と被害者が近隣に居住していること
エ 直感的推理型
オ 直接証拠型
カ 間接事実型
キ 被告人の供述
ク 目撃者の供述
ケ 被害者の供述
第3(その他知識問題等)
問1 裁判員に選任されるに当たっては、その権限と義務についての説明とともに、裁判長から「事実の認定は証拠によること、被告事件について犯罪の証明をすべき者及び事実の認定に必要な証明の程度」の説明を受けることになっている(裁判員法39条、規則37条)。これらに関する説明について、正しいものには◯を、誤っているものには✕をせよ。
a 裁判員には、法令に従って公平誠実に職務を行う義務、公判期日や判決言い渡しの期日などに出頭する義務がある。
b 裁判員は、評議において、争点に関して投票する義務はあるが、意見を表明する義務まではない。
c 事実の認定は証拠による、という言葉には、法廷で取り調べた証拠で事実を認定するという意味の裏返しとして、法廷での当事者の主張のみでそのまま事実として認定をしたり、法廷外での報道等を元に事実の認定をしてはいけないという意味を含む。
d 「疑わしきは被告人の有利に」という法格言は、被告事件について犯罪の証明をすべき者、が検察官であることと関係するものである。
e 事実の証明に必要な証明の程度、の説明としては、学問的な表現では、合理的疑いを超える程度とか合理的疑いを容れない程度、などと言われ、裁判員向けのほぐした表現では、通常人がその事実が存在することを前提として考えたり行動したりすることができる程度、などと言われたりする。
f 立証の程度について、合理的な疑いを超えるものと証拠の優越とでは、後者の方が立証の程度としてはより高いものを要求している。
第4(意見・感想)
問1 今回の裁判員裁判での検察官の意見(論告)と弁護人の意見(弁論)のうち説得的だと感じた方に◯を付けよ。その理由も簡潔に記載せよ。
検察官・弁護人
理由:
問2 裁判員裁判を傍聴しての感想を自由に記載せよ。