第85話 永年留年…業が深すぎる…
『ふふふ、もうすぐですよ?』
『はぁーそうですな全く…』
『今回の手配はだいぶ苦労を掛けましたね?
コモンズ・デイライト哨戒独行艦司令部長官?』
「あれ?」
「空気がだいぶゆるいですぅ」
「ふむぅ先陣の筈だが?」
『えぇえぇ、全くもってその通りですよー』
『参加艦班員の士気はどうです?』
『悪くはありませんな、むしろ高揚しすぎとも言えますな?』
『彼らにとっては久々の戦場ですからね』
「なるほど、普段は哨戒任務だもんな」
「戦場になってないですものね」
『まぁ的は置物ですからな、その上、2隻を充てているのです、
それはそれは気楽なものです』
『破壊後の退避についても?』
『30光日も離れているのですよ?
なんら問題はありませんな、
そして彼らをすぐに戻して良いのですな?』
「ん?戻すんだ?」
「非番組を投入してるんですよね?」
「隻数的にそうなんだろうとは思うのだが?」
『えぇ、そうです、彼らに損失が出るのは避けたいですからね』
『そうですなー割と彼らは貴重な存在ですからなー』
『えぇ、そうです、あの単調な任務を数百年』
『それを苦痛に感じることなく、楽しみさえする彼らは』
『えぇ、そうです、今後はさらに貴重な存在になることでしょう』
「あーそっかー」
「性質的に貴重といえば貴重なわけか」
『でしょうなー、おそらくは貴方の事だ、
そこらへんも手抜かりはないのではないですかな?』
『えぇ、そうです、50年前から艦隊練成時の懲罰任務に
星系哨戒任務2週間を加えました、
とてもとても効果的でした』
「それを懲罰にするとは…」
「他が猛訓練している最中にソレをさせるのか…」
「なるほど…なんとえぐい…」
『それはそれは、全く貴方らしい事ですなー
1週間ではなく2週間というところがまた絶妙ですなー
血気に逸る者等には良い薬となったことでしょうな』
『えぇそうです、そしてそれを数百年こなす彼等に、
確かな敬意を払うようになりました』
「ほんとに手抜かりないな…」
「先の懸念点を先じて潰していくスタイル…」
『そして管制を置いていく、
任務上それが当然ではありますがな?
相変わらずそちらもそつがない事ですなー』
『えぇそうです、帝国にはもう揺り籠がありますからね、
その役目はもう終えているのですよ』
「そしてしれっと制度構造上の問題も…」
「すでに解決されることが決まっていた…」
「残っているのは後始末だけなのか…」
『揺り籠はーたいそう増えるでしょうなー』
『えぇ、そうですね、増える事でしょう』
「「「「「「「「「………」」」」」」」」」
『我らも後を揺り籠に託し前に出ねばなりませんな?』
『えぇそうです、だからこそソレを淡々とこなせる彼らが貴重なのです』
『安全であることを保証するのが我らの仕事ですからなー』
『えぇそうです、ゆえにコマイン検知システム…
完成の暁には最初に装備するのは彼等です』
「なるほど…」
「帝国はソコを重視しているんだな…」
「…だからすぐに戻すんですね」
『その為に払う代償、帝国は贖いきれますかな?』
『その為の50年です、
地上軍が宣言通りソレを成し、
強襲独行艦が暴いたのです、
これ以上の好条件など望みようもありません』
「やるしかないと…」
「いまが最良で…後はないと…」
『ですなーなればあとは成すのみと、ところで検証公?
しれっと探査独行艦に何を探させているのですかな?』
『ふふふ、やはり貴方は気づくのですね?
えぇ、少し探してもらっているのですよ、二つの適地を』
「また暗躍してる…」
「さすがの永年留年」
『そこに恒星はなかったかと思うのですがなー』
『ふふふ、コマインの向こう側、
そろそろ始めておかねばなりませんからね?』
『………なるほどー』
『幸運に恵まれた…で済ますには些か問題がありますからね』
『これは探査独行艦司令部の先々の苦労が思いやられますなぁ』
「あぁ…そこも手をつけていくのか…」
「そっかーそうだよなー」
『さて、そろそろ時間ですね』
『0オクロックセカンドゲート星系、
667番星系、
そして水鏡範囲内4200星系、
その上下各1基、
計8404基、
その全てに2隻を充て、
1撃で全てを破壊する、
なかなかハードなオーダーでしたなー』
『えぇ、そうです、ですが貴方方はやり遂げた、
独自色の強い強襲独行艦班員では成せなかったでしょう』
『まぁそうでしょうな、それぞれの持ち味を出していかねばならんでしょう』
『えぇ、そうですね、先は途方もなく長いのですから』
「よく考えると…」
「これタイムスケジュール管理…」
「緻密すぎて地獄のような…?」
『時間ですな』
『………そして終わりましたね』
『あっけないものですなー』
「…え?」
「おわった?」
「まじか…」
「今の間で?」
「秒あったか?」
「たぶん切ってますわ…」
『えぇ、しかしその意味は絶大です』
『そうですな、これであの機械神もどきは半身を失ったも同然ですなー』
「たしかに…一瞬で星間通信インフラ全損となったのか…」
「それは…たしかに絶大な意味を持つな…」
『えぇ、そうです、代替として戦列砲艦を使うのでしょうが』
『その戦列砲艦も水鏡によりすぐに特定されるでしょうなー』
「あっそういうことか!」
「ソレをする度に戦列砲艦の位置が暴かれるのか!」
『えぇ、そうです、そしてそれも総数は105大艦隊としても?』
『今は4200星系にそれぞれに分散した5個小艦隊に過ぎないですな?』
「あぁっ!そうだった!それをする戦列砲艦は…」
「まさに細切れになっている…」
『えぇ、そうです、集まろうにも72時間で5光年、我らは50光年です』
『そして我らは0時第2帝国門から3000光年を一瞬で跳べるのですからなー』
「そうか…跳べてしまう…」
「あの40個本土艦隊は…」
「3000光年先に…跳べてしまう…」
「まさか…跳ばすのか…3000光年も奥地に…」
『えぇ、そうです、つまりは結節点4346番星系から我らは始められるのです』
『そしてそれを次元境界面潜航装置とマナドライブ、
それらを使用可能になった強襲独行艦が支援するのですからなー』
『えぇ、そうです、これでガス雲は概ね無効です』
「跳ばされるのは…40個本土艦隊だけではない…」
「3000光年先から外征を始めるのか…」
「いや…もう第2陣は跳んでいるのか…?」
「あぁ、哨戒独行艦も…第1陣も…リプレース…だった」
「つまり、4346番星系付近にいた…付近にいる…」
「水鏡範囲外との結節点…タウ星から5000光年…』
「0時第2帝国門…太陽から1987光年…」
「4346番星系…0時第2帝国門から3000光年先…なのか…」
『そして第1第2第3防人統合艦隊が前線基地となるわけですな?』
『えぇ、そうです、各所恒星中間点を周遊してもらいます』
「あの3個防人統合艦隊も…」
「3000光年先へ…?」
『あの3個艦隊の拠点艦は50m以下級汎用作業船を各130隻でしたか?』
『えぇ、そうです、倉庫区画を一部格納庫に転用して積み増しています』
『20km以下級星間航行憑依式無人艦載機母艦専用一時拡張パッケージ?』
『えぇそうです、憑依式無人作業船23隻を詰め込んだ拡張パッケージです』
『コレも各拠点艦が20個積みこむのでしたかー』
『えぇそうです、母艦2隻分、計600隻相当、3個本土艦隊分相当です』
『運用可能な憑依式無人作業船は一時的に144000隻にもなりますなー』
『えぇそうです、これに拠点艦の作業船が63000隻ですね』
『前線基地としては充分以上ですなー、代償はその輸送量でしたかな?』
『えぇ、そうです、概ね半減ですね』
『しかして、その代償は帝国門投射で代替可能ですなー』
『えぇ、そうです、そういうことです』
「それが…次の任務…」
「3000光年先で…全てを支える任務…」
「イーリング・リバーブレイト准将の…次の任務…」
『ところで、初戦侵攻ルート上のアレは置いておいて良いのですかな?』
『えぇ、そのままで構いません、回収します』
『ほう?あれは中々に大きかったはずですが?いわば前線監視拠点ですからな』
『基幹輸送船をベースに回収船を用意しました』
「ほんとに手広くやっとる…」
「永年留年超働き者…」
「影の支配者ロールが楽しくて仕方がないと言っていた…本人言だ…」
『回収はそれで良いとしても制圧は?』
『この50年の戦訓を結実した特殊作戦群を地上軍に創設しようかと』
『あーアレですかー目玉のアレがまだ完成しとらんでしょうに?』
『えぇ、そうです、その目玉をオミットしての実戦投入です』
『……地上軍が泣きますぞ?』
『仕方がありません、アレの完成にはまだ戦訓が足りませんから』
『管轄は地上軍でよいので?』
『えぇ構いません、最終的には宇宙軍に内包することになるでしょうから』
『そうですな、アレが完成すれば必然となりますな』
『えぇそうです、そしてアレさえあれば彼らは喜んでソレを受け入れてくれるでしょう』
『まったく…そつがない事ですなー』
「そして重ねる暗躍…」
「アレがなんなのか…」
「わかってしまいますぅ…」
「アレを…宇宙にだそうというのか…」
「永年留年…業が深すぎる…」




