第74話 なに、すぐに終わりますよ?無数に、山のように、いくらでもあるでしょうから
『雑木林576号の転移から168時間』
『やはりか…』
「ついに観測結果がえられたのか…」
「667番星系ガス雲防衛網…」
「どんな姿なのか…」
『ガス雲は巨大ガス惑星第6公転軌道の外』
『第6とー第7のー間がー最終防衛球面ー』
『第7と第8の間が第12次防衛球面』
『第8の外に第11次防衛球面』
『1光日から0.25光日ごとに3.5光日まで10層の防衛球面』
「この規模で全13層…」
「そりゃ鉄壁な訳だ…」
「これを網羅するゲート通信観測点…」
「そりゃあの数の砲弾に負けない量になるわけだ…」
『傾斜軌道交点位置は?』
『全層特定はしたようだけど…』
『ん?…これか…』
『えぇ、散布拠点は直径約500kmの要塞のようね…』
『反対側にもーあるー』
「うへぇ13層かける2で要塞26基も追加された…」
「そんなとこにまで…」
「強い意志を感じますね…」
「強襲独行艦は…絶対入れない…という意志…」
『やはり対策されていたか…』
『ガス雲の公転軌道交点…』
『そこなら観測不能な筈だったが…』
『やはり太陽風に乗るしかないか…』
『まぁ必要になるのは脱出時だ』
「そこに要塞がある理由がもう強襲独行艦の為だけ…」
「そうとうに嫌われていますね…」
「そりゃそうだよなぁ」
『雑木林576号の転移から240時間』
『ガス雲は転移から120時間後、迎撃第1射を1号が観測したあたりの姿ね』
『星間輸送と思わしき次元震も多数確認され始めているわね』
『平常時の量に戻っているな』
「そうか、コマインにも日常はあるのか…」
「そしてそれを始めて確認できるかもしれないんだな…』
『デコイが全て撃墜されてから24時間は経過したからな』
『教官は0.5光日までは抜いた』
『さすがだよな』
「記録更新してる…」
「あの仕様でそこまで行けるとは…」
『だが…』
『そうだな…』
『雑木林組の所見は?』
『即時調査開始が4割』
『576号転移から264時間待機が2割』
『288時間待機が2割』
『360時間待機が1割』
『420時間待機が5分』
『480時間待機が5分よ』
『雑木林組は5M級以下だったな…』
『えぇ…彼らは知らないわ』
『奇しくも5分か…』
『えぇ同期50年配属10M級到達率…5分と同じよ』
『指し手と相対する時、時間を惜しむな』
『その警句をどれだけ実践しているか』
『一目瞭然の結果よね』
『そうだな、残りの9割5分の批判を受け流しつつ』
『風呂に入りながらゆっくり待つとしよう』
『卵を脱ぐ場所も決めないといけないわよ?』
『……だったな…それもあった』
「生死を分ける判断…」
「ソレに対する姿勢か…」
『動きがあったわ』
『転移後からなら360時間の1時間前』
『ガス雲は転移から239時間後、デコイ全撃墜23時間後の姿ね』
『指し手なら念のために…の行動ですら見過ごせば致命的になる』
『第2第3第4を除く…全天体に』
『ガス雲のー展開ー確認したー』
『やはりか…我らを知らぬ…雑木林も知らぬ…その想定でも』
『これくらいはしてくるからな』
『9割5分は黙ったわ』
『これを良い教訓にしてくれるといいんだがな』
『そうね、普段であればソレを知る時は死を意味しているのだから』
『さて…あと121時間待つか』
「8割が…死ぬ判断…」
「1割が…死の境界線上の判断…」
「5分が…からくも回避できる判断…」
「5分が…正解…」
『天体周辺でのガス雲の展開止まったわね』
『雑木林の最後の転移後きっかり480時間後』
『ガス雲は転移から360時間後の姿ね』
『その理由は5光日』
『それのみであるが、それをするのが指し手』
「常にこのレベルで慎重さが求められるのか…」
「それでいて必要時には果断でなければ…」
「生き残る機会を何度も失っていますわね…」
『そしてこのタイミングで止めるのなら…』
『我らと雑木林の存在は…』
『知られていないようだな…』
「逆説的にそうなるのか…」
「なるほど…」
『さて…初手は第3でよいか?』
『えぇ…まずは首都星を確定しておきたいわね』
『卵を脱ぐ場所あるか…とても怪しいな…』
『仕様通りの太陽投棄…厳しそうだものね…』
『やっぱりーむりーだたー』
「最優先任務優先と」
「制約を外したいだろうしな」
「現状、恐ろしく貴重な機会ですものね…」
「そりゃ有効活用したいよな…」
『知られていない…圧倒的なアドバンテージだな…』
『なんの問題もなく第3から7光秒、第3の影の位置につけたわ…』
『さて調査を始めよう、ウタ?』
『おうよーまずはー15光秒でー早期警戒展開ー8光秒2本でー地表調査だー』
『頼む』
「知られてさえいなければ…」
「だが…そのために恒星突入…」
『これ…風紋だな…』
『だねー赤道上均等4か所にー中心がーあったーぽいー』
『これは軌道エレベーターの基部…なのか?かなり大きいが…』
『エレベーター部以上が倒壊した後はないな…』
『ここから急激に大気を抜いたのか…』
『なら遺骸は遺る筈だが…』
『それらしいのはー軌道上位置からはー見えないねー』
『気になるのは無数の轍だな…』
『今も残っているというなら大気を奪われた後…』
『轍が集約している箇所が何か次第か』
『使い魔おくってみるー』
「いろいろ矛盾した状況が浮き彫りに…」
「5000万年前になにがあったんですぅ…」
『これは…ごみ処理場か…』
『ほう…興味深い』
歴史公に…
『これはこれは…そういうことですか』
検証公か…
『歴史公に検証公…きたか』
『首都星の判定をしに来ましたよ』
『我はこの日をずっと待っていたからな、
しかしそうか、やはり雁字搦めなのだな』
『どういうことだ?』
『ふむ、ソレを確認するためにも…ウタ?』
『ほいよー』
『使い魔を透過モードにして地下を探ってくれ、
探すモノの特徴は大型、広大なエアロックタイプの地下構造物だ』
『おけー』
「…ごみ処理場…」
「…運んだんですか…」
「…処理しちまったのか…」
「…わざわざ…」
「そして探偵役は歴史公…」
「助手は検証公だったんですね…」
『みつけたーけどー気密はーやぶれてるーふしぎー損傷してなさそーなのにー』
『想定内だ、適当に内壁を見てみろ』
『わっ!?なんかいっぱい刻んである!?』
「うっわこっわ」「怨念が渦巻いてそうですぅ」「うへぇこれはまた生前でもこんなんは…」
元刑事のクロカゼ中尉でもドン引きの光景か…
『確定だな、ここが首都星だ、そしてコマインの最初の蜂起地で処刑地だ』
「なんだってー!?」
「名探偵歴史公…」
『そういうことか…』
『うむ、一瞬にして全インフラを取り上げられ、
その後、餓死しない間で大気をも取り上げられたのであろう』
「民主の星と…」
「どっちが凄惨なのか…」
「判断つきかねますわね…」
『ソレをするなら…』
『そう首都星だ、もっとも効果的な奇襲目標だ』
「たしかに…」「そうだ…初撃としては最上…」
『綺麗な理由は…』
『ごみ処理場に鎮座していたな?
無数の輸送作業機械が?
コマインは有機生命体をとても疎んでいたのか?
大気を抜いた後にも全部処理してしまう程に?
エアロックタイプの構造物の気密に事前工作までして?
ゴミ処理施設もそうだ、何故無大気で処理できた?
そして綺麗にはしても刻まれた後は修復できない?
いや修復する必要が無いと判断したのか?
認可が無いと立ち入れない置けない代替もできない?
誰の認可?政府?行政?役人?所有者?
つまり遺骸は後にゴミと判定できたから処理できた?
ふむ、これはこれは思っていたより…』
『という事のようですよ?』
「名探偵スイッチ入る…」
「そして迷探偵化…」
『……一応…特定任務…は完了でいいのか?』
『念のためあと4か所ほど、ここと似たような場所を探しましょうか』
『あぁ…了解した』
『なに、すぐに終わりますよ?無数に、山のように、いくらでもあるでしょうから』
『コレが…我らが探し求めてきた…遺物…』
『そうです、この壁という壁一面に刻まれた跡が、
この全てが、我らが探し求めてきた遺物です』
「さすが同レベル案件の当事者…」
「コレを目にしても何ら動じない…」




