第73話 しばらく、この卵は脱げそうにないわね…
『遮熱フィールド転移量急減、光球を出て彩層に入ったようね』
『といってもすることはたいしてないという…』
「この面々でも精神的にツライ状況か…」
「外はとんでもない環境ですからね…」
『その数少ない事をしておくか、
加速出力30Gから28.5Gに、実加速0.5Gに』
『そして光球を出た以上、それを確認することもできないわね』
「それもツライとこだよなぁ」
「転移後に確たることは外は地獄絵図」
「それだけしか言えない訳だからなぁ」
『現位置さえ明確ではないからなぁ』
『緯度40度を狙って転移した筈』
『それも確認できないわね』
「うへぇ、全ては筈…」
「こえぇなぁ」
『生前時代の潜水艦以下である』
「あぁ…似てはいるが…だな…ほんとにそれ以下の状態か」
「音自体は在るんでしょうけど…」
「通したら蒸発…」
『そして現代の最新鋭潜水艦は盾ナグール…なんだよなぁ…』
『あの着ぐるみ有能過ぎよねぇ…』
『帝国地上軍の全てを変えた…着ぐるみ…だもんなぁ』
『全部アイツでいいじゃんを体現してしまった…』
「海空陸対応でしたね…海中も含まれていたとは…」
あっ海中対応可って宇宙でも対応できるんじゃ…
『ほぼゼロだった贖罪兵宇宙軍から贖罪兵地上軍への転属希望者…』
『大隊創設が叶う程、増えたらしいわねぇ…』
『通常地上軍の師団増強用の独立精鋭大隊と同じ扱いらしいな』
『まぁ無理もないな…生前の夢が叶えられるとあらば…な』
「たしかに…人によっては…か」
「選ぶ人…いますよね…」
『教官たちも地上軍指向者は選別時にもう別けているらしいわ』
『だが宇宙軍に一定期間は留めおくという話を聞いたぞ』
『班ごと転属希望するケースが出てくるのでしょうね』
「ふむ、拠点艦での初期教育と帝国に慣れさせる為か…」
「確かにその方が全体的には効率がいいのかもですわ」
『建前上は贖罪兵地上軍だが…』
『実質通常地上軍扱いね…』
「なるほど、召喚獣ではなく、宇宙軍と同じ扱いか」
「それはそうよね、召喚獣には誰もなりたくはないでしょうし」
『彼らの生活の場となるフネは?』
『戦死者遺族生活困難者救済用の星系初期開拓特化軍属都市船…アレにするようね』
『あぁ、あの拠点艦をベースにした皇宮のフネか』
「へぇそんなフネがあるんだ」
「なるほど、例の管制独行艦の改善策か」
気付かなかった、鋭いなイクサバ中尉。
『えぇ、艦首砲と主砲を外し、円筒コロニーを25kmに延長、
搭載艦もスーパーどんがら8隻、ドンガラ24隻、
50m以下級汎用作業船400隻、超高機動砲艦80隻、
アンテナとマナ転化と汎用術式ユニットはそのままのアレよ』
『我ら贖罪兵の枯渇後に防人となるであろう彼らの故郷か…』
「あぁ…そういう…」
「だいぶ先を見据えた…フネなんですね」
『各船にスーパーどんがら1隻1個大隊配属の予定よ』
『名誉退役贖罪兵宇宙軍枠も教導役で1個編隊の予定だったな』
『アレの操船もそうだったわね…指揮は継承権持ち皇族…』
『雑木林もーここにー?』
『たぶんな…スーパーどんがらが入るなら…あらかたの強襲独行艦も入るな…』
『地上軍辻斬り運用艦構想…アレもスーパーどんがらサイズだったな…』
「おおぅもうソレって…」
「民主の星と…同じ方向性ですわね…まずは環境を用意すると…」
「加えて次世代防人艦隊の雛型でもあるわけか…」
『我らの屍の山を踏みしめて前に進む準備は』
『しっかりとやってくれているようだな』
『なんとも頼もしい子孫たちよね、我らが後代は』
『まったくだ』
「諸君らは有限の存在だ、
だからこそ諸君らが遺して逝くものを帝国は継承していく、
その価値があるともう充分に知っているからな」
「「「「「「「「「………」」」」」」」」」
『遮熱フィールド転移量急減、彩層を出てコロナ帯に入ったようね』
『光球に約1分、彩層に約12分、実時間にすればそんなもんだが』
『ながかったーとてつもなくーながかったー』
「実時間はそんなものなのか…」
「心理的に…という事なんでしょうね」
『ウタ、低感度光学センサで上下を確認たのむ』
『ほいさーしたー現状でー問題なしー』
「彩層をでないとできなかった事か」
「なるほど」
『そいじゃ15光秒アンテナ展開位置で現在位置を確認だな』
『でたぞーほぼ予定通りーデーター送ったー』
「そしてようやっと安心してアンテナをコロナ外に展開できると」
「そこから逆算して現位置を確定するということですわね」
『問題ないな、このまま44G加速でコロナ帯を抜けよう』
『あとは667番星周辺で雑木林組のガス雲分析待ちね』
『5日かかるんだなぁソレが…』
「そういや5光日地点でしたね…観測位置…」
「ここでも待機か…」
『光球にー1分滞在ーするよりー100個ー大艦隊のがーましー』
『ほんとだよ…まったく…』
「相当に堪えるっぽいな…」
「この先輩等がこうまで言うとは」
『おそらくは太陽風観測用の微小次元震箇所が多少はあるだろうから、
まずはソレの確認からだな、そのあとこのガワを投棄する場所を決めよう』
『『『『『あいあいよー』』』』』
「あぁそれもあると…」
「そこは100個大艦隊に囲まれている地ですものね」
『コロナ帯を抜けたわね』
『667番星周辺のー人工物は18基だー』
『0度方向に6基、±45度方向に各6基』
『半径20光秒位置か…死角はなさそうだな…』
『しばらく、この卵は脱げそうにないわね…』
「うへぇ」
「やっぱりあるんだぁ」
『+40度、半径30光秒位置で667番星についていくとするか』
『衛星軌道をとるのはムリだものね』
『トランジットで見つかるわけにはいかないもんなぁ』
「トランジット?」
「日食の月の代わりを風林火山がする…ということですよ~」
「なるほどですぅ」
『内から潜り込むこと自体稀だからなぁ』
『さすがにこれだけ近いと迷彩モードは厳しいものね…』
『消費マナが一桁増えてしまうそうだからなぁ』
『まぁこれだけ近くて、このサイズだからトランジットしても、
まず見つかることはないだろうがな』
『この卵の実証試験中の検証も苦労したみたいね…』
『正解がわかっていても実際にはトランジットを捉える間が殆どないようでな…』
『どうやってトランジットさせるのか検証実験に一時期なったらしいからな』
『結果としてはまずもって大丈夫だが』
『まぁ念のためにしないようにしておくってわけね』
「いろいろと試行錯誤と苦労が多い作戦だな…」
「それだけこの星系の防備が鉄壁である…」
「そういうことなのだろう…」




