第68話 そうついにその時は来たのだ
「この先輩等は…」
「それが目的で…」
「うむ、拠点艦でっかいどう生存者全員での名誉退役、
その為に強襲独行艦に乗っている。
強襲独行艦に贖罪兵が多くいる理由だな」
「そらまたなんとも英雄的なことで…」
「そしてソレを成そうとするだけの理由があると…」
「そして検証公がソコを有効活用しないわけがない…」
「おい…まて…ハム公…それはどういうことだ…?」
「ソコを有効活用する…だと…?」
「まさか…ですよね…?」
「風林火山は帝国では超有名人だ…
ウタなんて超々有名人だ…」
つまりは…プリプリ劇場と同じく…
「…検証公…」
「…なんてことを…」
「…ノンフィクション英雄物語…」
「…辻斬り…白兵戦至上主義者の…」
「…その精神を射撃戦で体現した英雄…」
「…映像はアンテナで艦内でCIC内で常に…多角的に残っている…」
「…検証公…」
「地上軍にもかなりファンは多い…
いや地上軍だからこそ多いというべきか…
白兵戦至上主義の発展系…
その可能性を見せたがゆえに…」
「なるほど」「納得の理由だ」
「そういえば地上軍では辻斬りは採用しなかったのですか?」
第4分隊長ナカニワ中尉の当然の疑問。
「その話も幾度か出てはいるんだが…
毎回同じ理由で頓挫している」
「ほぇ?こんだけ実績あるのにですかぁ?」
「どんな理由なんだ?」
導入意欲ものっそい高そうだが?
「結局は辻斬りは強襲独行艦の一部なんだ、
切り離して評価すると恐ろしく使いにくい高コスト機体になるんだ」
「えっそうか?」
「なんでそんな評価に?」
そんなに評価悪くなるのか?
「まずは母艦の問題だな?
撃ち落されやすいフネに載せる時点で問題がある、
そのままだと母艦から2光秒圏内でしか動けないからな」
「あっ確かに、生半可な船には載せられないな…」
「星系内で活動できる正規品を載せられる、
拠点艦や本土艦隊旗艦やギリギリ艦載機母艦くらい?」
「この時点で星系内慣性航行時の機動性が極端に落ちる、
地上軍の足は出力20Gのスーパーどんがらだからな?
そこに宇宙戦をするわけでもなく5Gの巨艦と一緒になるわけだからな?」
「たしかにそれは…」
「だいぶ…」
スーパーどんがらは拠点艦に入らないサイズでもあるか…
「ならばと地上戦時の根拠地となる拠点艦に、
一時的に載せたとしてだ?今度はアンテナの問題が出る。
この機体は隠密時、母艦のアンテナに頼る部分が大きい、
そして母艦の隠密性については絶望的な差が出る」
「隠密時の目を別所属に頼らないといけない訳か」
「それも最も目立つ巨艦を母艦にしてか」
「そも地上軍のみでは運用できないと」
1機に付き1本必要と考えると…
「そして数を用意するにはあまりに高コストだ、
その上、求められる技能は遠隔操作技能と
地上軍の兵種ではあまり馴染みのない技能だ」
「むぅ…それはまた」
「人材育成の面で見てもか」
難題がポコポコでてくるなぁ…
「それらを無理して採用したとして、
得られるのは隠密性を大きく減じる拠点艦に間借りし、
そのアンテナ支援を前提とした、
地上軍に馴染みのない遠隔操作兵器、
となるわけだ?
そして比較されるのは数百年家族として、
共に戦ってきた面々で運用される本家だ」
「ぬぅぅ厳しすぎるな」
「本家が本家だけに…」
「ならばと数が用意できそうな耐50G素材で
というのもどうなるか?は辻斬り開発時に判明している」
「強度不足か…」
「機動性は80Gに対し30Gか…」
「それでもと隠密性を諦め地上軍用の30G機体を用意、
したとしても、今度は憑依式の制御システムが問題になる。
宇宙軍でもコストが高い…と載せる艦を限定してるくらいだからな?
2光秒に制御範囲を落としてはいても高いは高い、
そもソレはサイズ対策で落としている面が高いからな」
「コストは超高性能機からそこまで落ちずに…」
「性能は比較にならないほど落ちると…」
「それも最も必要としている部分の性能が大きく落ちると…」
「そうだ、先の映像で分かる通り、
必要とされているのは火力ではない、
火力は充分すぎるほどに足りているのだ、
指し手の盤面をひっくり返すのに必要なのは耐久性、
それも最も有効なのは機動力だ、30Gではあの融合弾の中を
駆け抜ける事はできないだろう」
「なるほどな、納得の理由だ」
「たしかに厳しいですね」
「とはいえ地上軍の辻斬り獲得の試みは終わらない、
姿を変え形を変えれども、その試みは常に続けられている、
彼らにとっての目標であり夢だからな…辻斬りは」
「だから超々有名人…」
「そうだ、
いつの日か超えるべき遥かな高み…
それが地上軍にとってのウタだ」
「軍神武神の類の扱いなんすね…」
「他班の辻斬り運用と比較しても
圧倒的な差で破格の功績を残しているからな、
そして…
そんな彼等だからこそ…
その任務が依頼された…
見てもらおう」
『0.1M級、0.5M級、2M級、5M級の順だ、
4隻連続で偵察に失敗し、4隻とも戦没している』
『経緯は?』
『0.1M級は主星から3.1光日公転軌道上に
リプレースした直後に突撃艦に突っ込まれ消失』
『直後か…』
『直後だ…』
最悪の結果…
『0.5M級は4光日公転軌道上にリプレース後
3光日公転軌道上横断後に1光日公転軌道上付近にて
戦列砲艦同時着弾射撃と思われる、
4億発の異方同時射撃にて消失』
『ガス雲もかー』
『…だろうな』
4億発の同時着弾…万発ではなく億発…同時に…
『2M級は公転軌道面に対し斜め上方+45度の方向から
アプローチしたが0.5M級と同じ目に遭い消失』
『球状か…』
『…おそらくは』
そんだけ外しても引っかかる…
『5M級は頻繁に回避機動をとることでアプローチを試みたが、
251波目で、400億発の異方同時射撃を躱しきれず消失』
『大艦隊かー』
『それも複数が球状に…だろう』
400億発…そんなもんどう避けりゃいいんだよ…
『以降、35年間、偵察は行われていない』
『だが…行かねばなるまい』
『遺構調査結果と水鏡の分析からも…』
『ほぼ確実だろうからな…』
「そう…ついにその時は来たのだ」
「始まりの星…」
「そして始まるのか…」




