第55話 何を言ってるんですかね?いったい…
「うむ、じつはな?
オレ等魂魄式AIに課されている禁足事項の一つに、
”人類にできることに無闇に手を出してはならない”
というのがあるんだ」
「なんでまたそんな?」
「かなりキツめの制約ですわね?」
「ふむ、
"人類を依存させるな、人は自らの足で立っているべきだ"
という遺志によってだな」
「あぁ、自分はならなかった方か」
「うむ、そうだ、なので欠員が出ない限りは、
あのように艦船直接操作はできないのだよ?
オレの敵中単身煽り屋稼業も、人ができない、で通してる」
「まさか…満面の笑みの意味は…」
「アヤツは元々は宇宙艦隊配属志望だったんだよなぁ、
上位存在案件に捉まるまでは?」
「艦仕様変更申請受付で審査なんて言われるほど拘るのは…?」
「まぁなんだ…自身が操作する可能性があるからだなぁ」
「あのロマン溢れる仕様リストもなのか…?」
「それも…自身も使う可能性あるからだなぁ」
「拠点艦開発や艦隊編成更新で頻繁に顔を出すのは…」
「宇宙軍内で…影響力を保持するためだなぁ」
「その趣向の方向性はどういう内容ですの…?」
「単艦高機動宙間戦闘…なんだよなぁ」
「…だから…強襲独行艦…」
「まぁ?そうやって検証公に鍛え上げられているのが?」
「4号を使える検証派独行艦…」
「特に贖罪兵は最初から…だからなぁ」
「故に満面の笑み…」
「オレ等の若いの、成り立ての奴がよくこうなるんだ、
なかなかに万能感溢れる感覚だからな?」
「…厨2病なんすか…」
「…そう厨2病なんですね…」
「まぁアヤツは長年堪え忍んだせいではっちゃけて?
ずっとライフワークのようにしてるから卒業見込みはないようだ」
「厨2病永年留年…」
「落ち着く気はないと…」
「なので?これから見せるのは魂魄式AIが指揮する、
帝国でも珍しい単艦戦闘になるぞ?
というか検証公しかせんな」
「タケル班長は無事だけど?」
「実質指揮官だろう?精神的に?」
「確かに」
「ほぼ最上位にいますね」
「では残る4名の苦闘を見るとしよう
なお、シートから10倍加速付思考入出力機能でウタとシンも観戦してるぞ?」
「班員は家族だからか」
「そういう機能もあるんですね」
「そこらへんは検証公がきっちりとやっているからな」
「なるほど、付き合わせるからこそですか」
「うむ、次の映像は第五陣のレーザー戦艦を
殲滅しつつ戦列砲艦主砲斉射第99射を超えたあたりからだ』
「99回…」
「週間番組の放送回の数字みたいですわね…」
「祝100回とでも?」
『16』
『はい皆さん祝100回ですよ?主砲の準備はよいですね?』
「言われてる」「言われてるな」
”3基とも歪曲砲モード!艦首軸線!秒間10射マナクリスタル直結ブースター準備よし!!』
「これは?」
「根源マナを圧縮直結直接使用することで単位時間当たりの攻撃密度をあげる手法だ」
「…燃費は?」
「帝国的には最悪だ、なので相応の権限がいる…まぁアヤツが乗ってるから意味ないが」
”1番には4号装填!”
”残弾42弾も準備良し!”
『タケルももう慣れましたね?100回目のステップはこうですよ?』
『弾道予測線問題なし!回避余裕!!』
「慣れの問題なのだろうか…」
「違うと思います…」
『15』
『問題はここからです。
コマインは大砲100隻の0.5光秒前に照明400隻の球形陣を組み、
さらにその前に6光秒を中心とした、
半径0.1光秒の半球包囲陣を矛約6万隻で組んでおり、
その半球は我らの上下加速に追随しています。
後方からは観測隊の生き残り矛6千が追随してますが、
その距離は約10光秒あります』
「なんだこの布陣?」
「意味がわかりませんね?」
『14』
『4号対策に照明400隻が
6万隻の必要分の起爆を担うつもりですね』
『想定してた中でも最も迎撃率の高い布陣』
「はぁ?爆破役なの!?照明が?」
「4号が及ばない6光秒後ろから?」
「物理的に起爆する気なのか…」
『そうです、このままでは我らは詰みますね?』
『だからこそ!30光秒の距離で!!ここで5秒を稼ぐ!!』
「んん?なんでまた?」
「なにをしでかす気なんですぅ」
「また非常識なことを…」
『13』
『35秒あれば!!我らは光になれる!!』
「「「「「「「「「あっ」」」」」」」」」
『半光速の質量融合弾でさえ!!』
「「「「「「「「「あぁっ!」」」」」」」」」
『迎撃できなかった照明が!!』
「「「「「「「「「ソレがっ!」」」」」」」」」
『我らを狙い撃てるかものか!!』
「「「「「「「「「あった!」」」」」」」」」
『とはいえ減速中の後半7.5秒間は半光速以下です』
「そうだ」「そうでした」「結構長い」「そしてたぶん遅い」「どうすんだ」
『12』
『だがその7.5秒間の行程は距離約2光秒弱でしかない!』
「短い?」「思っていたより?」「だいぶ」
『そして被弾した瞬間速度は0.01光秒だ!』
「あっそうだった」「いきなり戻るんでしたね」
『被弾した瞬間に以降のレーザーは外れる!』
「たしかに」「そうなるのか」
『では?我らが目指すべきは?』
『11』
『大砲の上方射界外!だからここまで降りてきた!いっきに下から上にだ!!』
「途中に砲弾がいないか?」「いる筈だよな…」
『照明の2光秒前!途中で止められても大砲が確実に入る!』
「敵中突破して敵中に出ます」「何を言ってるんだ?いったい…」
『むしろ止めてもらわないと困る!!減速完了直後に集中射が入ると即死だ!!』
「敵に当ててもらわないと即死」「何を言ってるんですの?いったい…」
『だが!!コマインはまだ知らない!!この仕様を!!』
「だからって…」「敵に命を預けるとか…」「何を言ってるんですかね?いったい…」
『10』
『では心の覚悟はよいですか?』
『『『『『おうよ』』』』
”おうよー”
”おぅよぉ”
「やるんだ…」「やるみたいですね…」
『9』
『第100射回避確定!!』
”アプローチ姿勢をとる!!”
『8』
『マナドライブフィールドジェネレーター起動準備よし』
”いつでもいいわ!!”
『7』
『6』
『艦0G!アプローチ準備完了』
”いいぞ!!”
『マナドライブフィールドジェネレーター起動!!』
「やっちゃった」「やっちゃいましたね」




