第51話 直線番長?
「宇宙艦というより…航空機…みたいな戦闘なんですね…」
「うむぅ、とても忙しない内容だった」
「そうだ、距離が近ければ近いほど、
小型であれば小型であるほど、
そして高機動であれば高機動であるほど
こういった戦闘になる傾向が強い」
「つまりは、超高機動砲艦も?」
「傾向はより強い、
それこそ定期便との戦いはその立場を逆にしただけだ」
「なるほど、この戦闘には通ずるものがあると」
「それゆえ、しっかりとした質疑と解説をしておこう、
まずは何が聞きたい?」
「4号は破格の効果をだしているのでは?」
「うむ、あの囲みを抜け出れるのは4号のおかげだな、
無くば抜け出ることは叶うまい、
おそらくは同じ40秒時点でマナ転化累積許容量を25%削られ、
秒間転化上限が16.5PJを下回り、
集中射でフィールドを抜かれて致命傷を負っていたろう」
「なるほど…5M級でも普通は抜け出れないと…
ではあれほどに効果的な4号が、
強襲独行艦全体で制式採用されていないのは?」
「あの効果的な運用法は言うなればチャンピオンデータだからだな」
「ほう?どういった意味でなんだ?」
「アンテナ運用において検証派きっての名手ウタ・キリサメ大尉が、
検証公の10個本土艦隊支援が可能なレベルに在る、
観測データ解析演算能力のほぼ全てを
ただ1艦の為だけに使った結果、生成されるリアルタイムデータベースを
判定選別において検証派有数の能力を持つシン・スズヤ大尉が、
選別優先順位付けしての行動結果だからな?
普通はああまで効率的な運用は不可能だ」
「ふむぅ、具体的には?」
「考えてみてほしい、4号は光だ、そして見た瞬間直撃を意味する」
「つまりは見れない、全ては発光時の座標位置と慣性情報から?」
「なおその反射光は無害だ、そして相手の座標位置と慣性情報から」
「光を抜けたか抜けてないかを判別すると」
「それもあの数とあのような高機動戦中においてだ」
「そして失敗してアンテナに直撃すると…」
「それは致命的にすぎる事になる」
「なるほど、検証公ありきの特別運用だと」
「ソレ抜きでは風林火山にも不可能だろう」
「では従来の運用は?」
「行動阻害付きの閃光弾にすぎない、当然アンテナは出さない」
「それでも有効的にすぎると思うのだが?」
「ソレに慣れすぎると艦隊支援が苦手になるんだ、どうしてもな」
「なるほど、単艦襲撃に経験が特化しすぎて、
逆に友軍のいる艦隊支援に苦手意識をもつと…」
「そんな環境では4号が使えないからなぁ、
ゆえに検証派独行艦の好む依頼は単艦任務ばかりだ」
「そういうことか」
「…バイタルイエロー?」
「身体損傷直前の状態だな」
「…オレンジ?」
「出血を伴う軽傷を負う状態だな」
「…レッド」
「生死に直結する重傷を負いかねない状態だな」
「…なぜ治癒魔法薬投与はオレンジで?」
「第三者治癒魔法薬投与は、
当人の意識がある状態でないと、
十全に効果を発揮しないからだ、
治癒参照イメージが充分に当人から
得られなくなる為と言われている」
「…何故ウタ・キリサメ大尉だけ?」
「後天的に体が弱いからだ」
「…後天的?」
「継続的鍛錬を苦手とする人格だからだ、
身体能力素質自体は概ね変わらん、
違いが出るとすれば理由はソコになる。
それを補って余りある異能の代償だ」
「…なるほど」
「スライドスラスト?」
「艦を上下または左右にスライドさせる
またその前後を逆に駆動させ艦を回転させる
その為の両用小型スラスタを使うことを意味する
艦種によってまちまちだが1Gから10Gの出力がある」
みんな矢継ぎ早に質問していくな~
当然か…未来の戦場風景に近しいと言われたのだしな。
「超高機動砲艦は?」
「10Gだ、つまり風林火山と同じだ
50G加速中に全力でスライドさせると51G近くになる。
その際に身体に掛かる負荷は2G近くだ。
諸君らの身体能力であれば、
鍛錬無しでも問題のない数値だが、
1Gではないことは覚えておくとよい」
高機動戦中は気付かぬうちに身体的に疲労する事になるのか…
「コマインのレーザー戦艦の攻撃力と命中率?」
「そうだ、5光秒においてさえ駆逐艦、超高機動砲艦では、
到底耐えられる筈の無い数字だ、3光秒だと巡洋艦でも危ない
これが掃射兵器集中運用の怖さだ」
侮ってうっかり近づくと撃ち抜かれるのか…
そりゃそうか超高機動砲艦のマナ転化出力は10TJしかない、
風林火山の22PJに対し0.01PJってことだからなぁ。
「秒間上限を抜かれやすい?累積許容量を削られて?」
「そうだ、一見低出力に見えるがな、
そこに常時照射によって累積を稼がれることの怖さが潜んでいる。
憶えておくとよい」
こえ~弱小雑魚艦だと思ってたわ…
「アンテナ1、2至近パッシブ三角測量モードとは?」
「艦本体からのアクティブ電磁波の標的からの反射を
0.1光秒以下の至近距離に展開した2基のアンテナで
パッシブで三角測量を行い測敵する手法だ」
「パッシブであるにも関わらずアクティブな観測もできると」
「パッシブであるがゆえに可能な至近距離からな」
「なるほど、それは大きいな」
「うむ、アンテナ2基のもつ選択肢の幅はとても広い、
単艦任務では大きな意味をもつ」
2本ある一番の理由はソレか…
アンテナ運用で名手と言われるほどに重要視されていると…
「単艦では?」
「友軍僚艦に頼れば済む話だからな、
艦隊戦隊編隊を前提とした艦には
1基しか積まないのはそういうことだ」
「積むだけ無駄であると」
「そういう事だ」
「直線番長?」
「うむ、加速追撃戦中の軌道の事を検証派ではそう呼ぶ」
「どゆこと?」
「いかに加速を稼ぐかが肝だからな?
一度定めた加速軸線は動かしたくない訳だ、
結果としてスライドスラスタによる、
横移動とロール機動が回避の中心となる。
その様をそう呼んでるだけだな」
「なるほど」
「さて他にはないか?では続きだ」




