第48話 …そんな状況下で…長考するんですの?
『さて、残すは戦果確認と直後動向確認のみだが?』
『そうだ、ここからが本番だ、通常であれば、
前回と同じく15光秒位置で0.001光秒に減速する訳だが?』
『あぁ通常であればな?』
「通常ではないと?」
「不穏な突撃艦行方不明か?」
『そうだ、コマイン小艦隊の戦列砲艦と突撃艦は?』
『一隻もー沈んでないよー』
「たしかに艦隊攻撃戦力は傷ひとつない」
「全くの無傷ですね」
『そいつらの狙いは?』
『我ら風林火山』
「まぁ」
「ですよねぇ」
『あいつ等が仕掛けてくる罠は?』
『まったくわからんわからん』
「わからんわからん」
「んだんだ」
『けど行かねばならん』
『アンテナの為にも!!』
「士気の為にも物欲は大事か…」
「罠承知で行かねばならんのならなぁ」
『ということでな、135光秒位置で0.001光秒にまで減速する』
『なんでそんなことをー?15光秒位置まで37時間かかるよー?』
「さらに慎重な選択を?」
「37時間を放り捨てると?」
『戦術的な意味は一切ない、前にも減速プランを説明した時も言ったが、
その方向性をさらに強くしたプランだ』
『どんな罠かわからんでも、罠の前提条件を大きく外しておこうと』
「…なるほど」
「…コンドーが言ってたのと同様の考えか」
そっか第2分隊長クロカゼ中尉…そう言われれば同じ方向性なのか。
『そうだ、突撃艦が行方不明なのがあまりに不穏だからな』
『むーたしかにー絶対なんかあるー』
『むしろ、あるぜ?挑戦状は受け取った、さぁ勝負だ来い!!と言ってるまである』
ウタさんシンさんコンビは常にゆるいなぁ…
「そういう意味では隠したことを隠してないと」
「相当に自信がある?」
「そしてその必要がある?」
「突撃艦全艦を使う必要が?」
『そうだな、姿は隠していても必ず近傍まで第4衛星を見に来ると
そう判断しているコマインがこれ見よがしに突撃艦を潜伏させてる訳だからな』
『そして、演出上、我らは、相手に見える格好で、
かつ逃げ切れる状態で第4衛星を見ていた事を示さなければならんのか』
『むー指し手とガチ思考戦かー前回と同じ位置だとー詰むのかー』
「詰将棋かよ…」
「下手を打てば…即強制投了ですわね…」
迂闊な手を打てば気付いたときには光球に呑まれていると…
『そうだ、そして最低でも詰まないように観測系に影響が大きく出ない速度で』
『ゆっくりー近づきー何を企んでるーか?明らかにー?』
「そのための猶予距離がプラス120光秒距離か」
「めっちゃ慎重」
『方向性はそういうことだ、相手次第だからいきあたりばったりなプランだがな』
『むー是非もなしー2交代やろー』
『だなぁ、やったるー』
『相手が相手だ、慎重であるべきだろう』
『時間以外代償無しゆえに』
「たしかに、時間以外は損失はないのか」
「ならそうすべきだと」
『でだ、減速終了2時間前からの6時間は全員であたり
以降は特に異常がない限り12時間2交代でいこうと考えてる』
『妥当』
『問題ない』
『いいよー』
『それでー』
「なるほどですぅ」
『じゃぁコレでいこう、各自時間までゆっくりしてくれ』
『『『『『あいあいさー』』』』』
「そして、その時がきた」
『減速終了10秒前』
『アンテナ1ー、8光秒先追従にー異常なしー』
『アンテナ2、8光秒後追従に異常なし』
『3,2,1、減速終了、対光速度0.001光秒』
『艦0G、艦姿勢0度に戻すぞ、回頭開始』
『んー?んんー?』
「ん?どうしたんだ?」
「なにか気づいたっぽいですね」
「えっいきなり?」
『回頭終了、艦姿勢0度、ウター?どうした?』
『まずー?思考加速10倍ー』
『何がある?』
「えっ?もう思考加速?」
「はやない?はやない?」
「えっ直後ですわよ?」
『まってーアンテナ位置変えるー
アンテナ1右60度8光秒ー
アンテナ2左60度8光秒ーシーン』
『了解』
「なんか始めましたね」
「どうしたんだ?」
『んむむー次ー
アンテナ1右120度8光秒ー
アンテナ2左120度8光秒ーシーン』
『了解』
「めっちゃ唸ってる」
「なんだなんだ?」
『うぬぬー次だー
アンテナ1上150度8光秒ー
アンテナ2下150度8光秒ーシーン』
『了解』
「唸りボルテージが…」
「だんだんと…」
『うぬぬぅぅー次だー
アンテナ1上150度1光秒ー
アンテナ2下150度1光秒ーシーン』
「上がってきて…」
「わすわねぇ…」
『了解』
『うぐぬぅーまじかぁーやられたー
いまーアンテナ1の加工した赤外線画像だすー
みておどろけーぜつぼうしろー』
『ん?これはっ!?』
『航跡かっ!?』
『ウタ!!これは!!』
「これ中央が風林火山?」
「…めっちゃ長い黒い尾を引いてるけど?」
『水素分子の超うっすいガスーの熱放射だー』
『航跡は電磁波吸収フィールドに喰われた後か!?』
「潜伏バレっ!?」
「それも位置バレ!?慣性情報も!?」
『そーだー8光秒でー0Gならーギリギリ検出できたー』
『加速がかかっていては8光秒以遠でも見えない?』
『たぶん1光秒でもー見えなくなるー』
「遠くにいてもダメ!?近くても動いていたらダメ!?」
「うわっ普通にしてると見えないのか!」
『分布はどうだ!?』
『第7惑星のー公転軌道面上のー上下10万キロー
軌道面水平方向ではーここから8光秒以内は全部ー
たぶん先は見えてないだけー』
「うっわマジかよ…」
「そんな規模で罠を!?」
『いつからだ!?』
『上下の拡散程度をみるとー9日前ー前回襲撃直後ー』
『戦列砲艦の主砲で撒いたか…』
『こんだけ薄いと総量はさしたる量にはならん…』
『第3の裏に退避していたときか…』
「そんな時にかよぉぉぉ」
「はやいはやいはやいって」
『…ウタ、全長1000m超の物体は3光秒以内にいくつある?』
『ガス雲外上下に5ー』
『8光秒以内なら』
『全部ガス雲外上下に20ー』
『アプローチ軌道上なら?』
『全部ガス雲外上下にー約300ー500は超えないねー
微妙に外れた位置にーいるのをいれてもー』
「うわぁうわぁうわぁ」
「3光秒以内って…」
「レーザー戦艦の危険距離…」
「レーザー戦艦も行方不明だったのか…」
既に危険距離内で囲まれているとか…
マナドライブという名のワープで逃げられない…
『同じ順番で200mを超えるのは?』
『約700ー』
『約2800ー』
『約5万と8万ー』
「ぎゃぁぁぁそれもかよぉぉぉ」
「なんで冷静でいられるんですぅぅぅ」
本命はやはりの…突撃艦か…
『大多数は15光秒位置か…』
『そうみたいだー』
「これでもマシ!?マシなんだってかぁぁ…」
「うっそだろ…あんだけ慎重に行動してコレ…」
『1000m超のヤツをーがっつり観測したー
おそらくー?低出力レーザー通信っぽい?
輝線が?でているかも?たぶん?
現状でも殆ど?見えないけど?』
『当然、戦列砲艦に向けてか…』
『方向的にはーそうーたぶん?』
「真っ黒…」
「もう真っ黒…」
『救いはコマインにとっても想定外の位置で減速を終えたことか』
『現在位置は先端の観測隊をちょいと超えたあたりになるんだろう』
『たぶんレーザー戦艦がー観測役でー突撃艦はー護衛ー』
『艦の設計仕様からも妥当』
「役割分担…」
「…突撃艦…余計なモノ載せられないから…」
『ナナキ?第2便は?』
『えぇ、第9惑星2度目の襲撃時よ』
「あぁぁ第2便もこれにやられたと」
「あぁぁそっかぁ同じなのかぁぁ」
『司令部に至急報を頼む』
『今、用意できたわ、確認してくれる?』
『あぁ…問題ないコレで頼む」
「当然の報連相…」
「そりゃ至急報なる」
『15光秒位置だったら第2便と同じ目にあったろうが、
速度0.5光秒駆け抜けだったらどうなっていたと思う?』
『突撃艦の自爆で壁を作られ避ける間もなく呑まれたか、
向こうの同時着弾を打ち込まれたか、
おそらくはそのあたりだろうな』
「それも詰み手なのかぁぁ」
「それもより悪いですわね…」
『135光秒の位置はそれらに比べれば悪くない』
『そして、我らの居場所を突き止めた筈のコマインが動きを見せないのはわかる』
『そうだな、罠に掛かるのをゆっくり待つつもりだろう』
『こちらが気づいたとわかる動きを見せれば…』
『即座に周囲にいる連中が襲い掛かってくる』
「うはぁぁ」
「きっつぃ」
『さて、この囲みをどう抜け出すか?
連中に見られながらゆっくり考えようじゃないか?』
『『『『『あいあいさー』』』』』
「…そんな状況下で…長考するんですの?」
「…たっふい…たっふいよ…この人たち…」
「…まじかぁ…まじかぁ」
「これが…生き残る人たち…」




