第44話 超田舎だからーインフラも超貧弱ー
『概ね、こんな感じか』
『そうね、ついでに第2便の意趣返しも』
『やったろー』
「ユルユルなまま作戦計画が固まったいきますね…」
常識人の第4分隊長ナカニワ中尉には衝撃が大きいようだ。
『軌道修正は現状不要だな、ヤマト?』
『あぁスラスタ配分は慣性100、重力0にしておいた』
『さっそく50Gにしておくぞ』
慣性スラスタの光さえも黒にしてくれる電磁波吸収ジェネ…優秀だな。
『タケル気をつけてよ?ここも慣性制御は50Gまでなんだから』
『やらかしたのだいぶ前に1度だけだろぅ』
「当然ながら生活空間も慣性制御機能が使える」
「使えないとうっかりで死人が出るもんな…」
『信頼喪失と信頼回復は等価交換じゃないのよ?』
『だからってぼったくり過ぎだろう』
つまりタケル班長は生活空間に班員がいるのに、
うっかり56G出して生活空間に5G掛けてしまったと…
そりゃナナキ副長さんに叱られるわけだ…
『諦めろ、はしゃぎ過ぎたんだ』
諫める機関手ヤマト大尉さんが正論だよなぁ
『そりゃはしゃぐだろう?懐かしき50Gなんだぞ?
とその50Gに到達だ』
懲りないタケル班長さん…
『対光速度0.5光秒まで72時間ね』
諦めるナナキ副長さんであった…
しかし超高機動砲艦搭乗時代を懐かしめる年齢か…
『じゃぁそれまでは色々粗探ししてくれ、
特にウタ?期待してるぞ?』
『期待されたー』
ユルさNo1の観測手ウタ大尉さん…
「緩いですねぇ」
「これから単艦襲撃に向かうとはとても…」
「それもこれも0.5光秒慣性航行を強いられてるからだな」
「どういうこと?」
「基本的にな~んもすることがない、警戒する必要性すらない」
「宇宙塵とかは?」
「電磁波吸収フィールドが最低限やってくれる、
アレは瞬雷公の作品と同じ方向性で対象を微小粒子や波に絞り、
圧倒的に下がったマナコストで、
異方向つまり全周に対応させるため、
現界ではなく専用の異界を通して、
恒星内部に放り投げてるだけだからな?」
あぁマナ転化で同じことすると魔法的に光っちゃうのか…
だから別方式で全てを黒にする迷彩なのかぁ。
「対応できないサイズは?」
「そのための8光秒先追従モードアンテナだな、
そして自動で回避される」
そういやなんで1本増やして2本にしたんだろ?予備?
「もしかしてアンテナだしてないと潜航装置とほぼ同じ?」
「そうだ、アンテナがないと何も見えない、
そして潜航状態ではアンテナは出せないが」
「電磁波吸収フィールドなら出せると」
そっか本体には電磁波届かなくなるのか…
2本ないと本体自体が死角生んだりするからか?
距離8光秒もあればそんな死角に意味はない気がするが…
「指し手の待ち伏せは?」
「無いとは言わないがとても考えにくい」
ほうぅ?そうなのか。
「それはどうして?」
「亜光速慣性航行中の艦との宇宙戦はとても困難だからだ」
あっ物理的に非常に困難だな…それは。
「というと?」
「0.5光秒の速度のコマインの大砲の砲弾で
先に発射された同じ砲弾を追いかけるようなものだからな」
「なるほど…」
「取れる手は障害物を置いて直撃狙いくらいのものだ」
「それも8光秒先のアンテナで?」
「自動回避なわけだ、さすがのコマインも
16秒もの回避可能圏にデブリを敷き詰める事は不可能だ」
合計相対速度光速になる正面衝突コースでも、
それくらいの時間があって50Gの加速力があれば…
回避は容易ということか。
「結果」
「暇だ」
「どうりでオフモードな訳だ」
「そうだ、減速した上でフィールドをオフしない限り?」
「基本的に交戦はないと」
「一部に例外はあるが、それは帝国のアドバンテージだしな」
「帝国にはあると?」
「アンテナが有るからできる事だがな?ではご覧いただこう」
おっ仮想空間上の艦橋か?リビングでも起動できるのか…
『ウタ?なんかネタはあったか?』
『この星系のコマイン情報重心はー
第7の第3衛星にあるっぽいよー』
『直径3000km級の岩石衛星か』
「この星系のコマイン本拠地であると」
「えぇぇぇ、今そこに向かってるんですよね…」
「なのにこの軽さ」
『目標の第4衛星のお隣だねー』
『内部海天体はコマインにとっても生命線ということか』
『低重力下にある方から採集する。当然だな』
副観測手であるシン大尉さんの補足見解。
「それもとなりかよぉぉ」
「いっぱいいそう」
「うむ、最低でも1個小艦隊は各星系に常駐してるぞ?」
「うへぇ、どんくらいになるんだっけか?
「この頃なら突撃艦8万隻に100隻の戦列砲艦とレーザー戦艦1200隻か」
「それに単艦で強襲かぁ…」
『あぁそうだな、ヤマト』
『質量融合弾の在庫は1㎥1t弾で1000×5の5000発だ』
『内500を今から使うわけだ、この数でやれるのか?
相手は直径2500km級の氷結衛星だぞ?』
シン大尉さんから砲手担当でもあるヤマト大尉さんに再確認?
「えっ?1㎥で1t?質量融合弾って?」
「もしかして中身氷なんですか?」
「そうだぞ、マナ化して着弾後融合反応しやすいようには、
小細工してるが中身は氷だ」
「…超エコ弾」
「速度が0.5光秒乗ってるから、コマイン戦列砲艦の砲の10倍、
つまりは一発11.25ZJ、2.7Tt相当の融合弾だ、
ついでに着弾後の対象融合反応の着火剤でもある」
「そんなもんが500発」
「…そんなもんで何やるんすか先輩…」
『これ以上多くても少なくてもオーダーにはそぐわん』
『検算したが同じく』
副機関手であるシズネ大尉さんも同じ結論と…
『あとはコマインの迎撃力次第か』
『第3便の結果を見るに素通し』
「素通し見込み…」
「レーザー戦艦は無力だったのですか…」
「こういう時の為ではなかったのか…」
『さすがに、2か月では厳しいか』
『あぁコレが全軍で最初に使用されてからまだ、2か月だからな』
「わりと新戦術です?」
「かなり新戦術じゃ?」
『軌道と速度については?ナナキ?』
『問題ないわ、元々の攻撃目標だし、
着弾方向も進行方向に正対のままだわ』
「正面衝突コース?」
「ぽいなぁ」
『この攻撃で少なくとも第4衛星の地表半分は更地か』
『純水製造プラントとしては4割減といったとこー』
『星系レベルなら2割減になるわね』
『さすがコマインの端も端、監視小惑星終点なだけはあるな』
『超田舎だからーインフラも超貧弱ー』
「なんでそんなとこで?」
「それも新戦術まで投入して?」
「高額報酬の不穏依頼までして?」
何が狙いか全くわからん任務だな…
『地殻津波が起きれば星系としても5割減か』
『それは五分五分ー』
「えぇぇ衛星相手とはいえ、そういうレベルなのぅ」
『捲れるのはちょっと避けたいわね』
『だよなぁ、捲れると後が困るよな?』
『そうだ、おそらく失敗する』
「めくれると困る…スカートではなく天体地殻の話です…」
「そうなると失敗?」
そうっぽいなぁ第8分隊長クロノ中尉…
『なんとかたわむ程度で済んで欲しいもんだ、
第2目標の係留施設は通過後だったな?』
『あぁそうだ、まぁ努力目標だろう?』
『そうだ、命を懸けるほどじゃない』
『なら、これから行う観測結果しだいだろう、なぁウタよ?』
『そだねー流石に人工軌道施設はー
できるだけ近々の情報が欲しいよねー』
「意趣返し?」
「努力目標ってんなら?そうだろ」
依頼内容には無かった項目だしな…
『そろそろ射点よ?同時着弾射撃シーケンス開始10秒前』
「…始まるな」
「第4衛星さん南無なのですぅ」
「ん?同時着弾?」
『とはいえ、今更することもないんだがな』
『全部自動だもんねー』
「ないんだ」
「見てるだけ?」
『3、2、1、開始』
『定点アンテナ観測開始、第1定点展開』
『主砲艦軸線合わせ、質量融合弾揚弾開始』
『オートカウンタースラスト起動、艦姿勢制御の砲術リンク起動』
『第1定点消滅、第2定点展開』
『諸元修正開始』
『こうしてみるとやはり誤差デカいな』
『だな、アンテナが無いと固定目標すら大きく外すな』
「コマインがこの戦術を使えない最大の理由だな」
「なるほど、0.5光秒の速度でありながら、
相対速度静止状態での観測も行えるから」
「そうだ、だから帝国はできる。
まぁ慣性航行を強いられてるから成立する戦術だ。
強いられてなきゃ、わざわざする必要もない」
『第2定点消滅、第3定点展開』
『主砲実体弾投射モードで起動、連続装填開始』
『艦0G固定モードに移行』
『第3定点消滅、第4定点展開』
『諸元修正完了、自動艦軸合わせ起動』
『第4定点消滅、第5定点展開』
『主砲射撃開始』
『第5定点消滅、第6定点展開』
『主砲連続射撃継続中』
『カウンタースラスト問題なし、艦0G』
『第6定点消滅、第7定点展開』
『主砲射撃終了』
『艦姿勢制御の砲術リンク終了』
『第6定点消滅、第7定点展開』
『艦姿勢-180度、減速準備姿勢に移行開始』
『第8定点消滅、第9定点展開』
『減速準備姿勢に移行完了』
『第9定点消滅、第10定点展開』
『さて第2目標の観測結果は?』
『第10定点消滅』
『同時着弾射撃シーケンス終了ね』
「流れるように500発が」
「第4衛星に向け飛び立った」
『じゃじゃーん、第2目標は第7惑星の裏に回るー、
5分前に15光秒距離の射点に着けるよー』
惑星が間に挟まる位置関係になるのか…
『ふむ、その悪条件なら待ち伏せは現実的に無理だな』
『そうね、その条件で待ち伏せしてたら、
いくらフネがあったとしても足りないわね』
『よし予定通り自動減速を起動する』
「そして減速したことで、
彼らは第4衛星の500発着弾の模様を映像に残せた。
普通は0.5光秒で通り過ぎるから綺麗には撮れないんだ」
「なるほど」「はぇ~」「わりとリスキーな行動な気が」「しますね」




