第40話 ノリで付けた名のはずだったんだがなぁ…
『ローン大佐!!ローン・フィロソフィル贖罪兵大佐!!
何故!!何故なのです!!
アリゾナの!!父と言われる!!
籠城戦!!その初期5年を!!支えた精神的支柱!!
そんな貴方が!!何故なのです!!』
「彼女はあいつ、ローンの上官だ、つまりは第1防人統合艦隊司令だ」
「…大佐なの?」
「拠点艦の班長は原則大佐だ」
開発を知らされていなかった司令の1人か…
そして大いに頼りにしていた部下に…
カタチはどうあれ裏切られていたと…
『イーリング・リバーブレイト准将閣下、だから…ですよ?』
「統合艦隊の司令は皇族だ、
そして統合艦隊司令は准将だ、
本土艦隊1個艦隊の司令も准将だ、
そしてイーリングは本土艦隊1個艦隊の司令として、
3度の奪還戦を経験している」
「歴戦の司令官じゃないか…」
皇族なのに歴戦の司令官…
それも本土艦隊で籠城戦のだいぶ前から…
『どういうことです!!私に不足があると!!』
『その反応が既に証左です、圧倒的に覚悟が足りませんな?』
「うっわ、真正面から斬った」
「斬りましたね…なんの逡巡もなく」
「帝国籍宇宙軍?側は怒号の嵐なんだが…」
「贖罪兵側…全くの無反応…怖いんですが?」
そんな相手に喧嘩を売るんじゃなく…切り捨てた…
『なんの覚悟が足りないと!!』
『ふむ?ではお聞きします、なぜお怒りで?』
『それは!!かような!!人の尊厳を投げ捨てる!!
このような非道なシステムを!!よりにもよって貴方方が!!
こっそりと!!造り上げたからです!!』
「ド正論」「そりゃなぁ」
皇族の教育システム的に相当な理由がない限りは否定するよなぁ、
人類の生存に関連しなければ慈悲と温情あるし…
『まことにもって残念なことですな?』
『なんと!!』
『この程度のことで取り乱していては?
この先の戦いにはついていけませんよ?』
「超絶カウンター」「トコトン容赦がねぇ」
とことん煽るなぁ…
『どういうことです!!』
『ふむ…此れはコマイン戦総司令部長官殿が、
答えるべきでしょう、どうです長官殿?』
「無茶振り来た」「長官のお顔が…」
『なんだと…』
『仕方あるまい』
『どういうことです…司令部長官閣下…』
「憤懣憤懣」「まさにその2字」
長官さん…すんごい顔してるなぁ…
『では、次の本格侵攻時に我ら拠点艦の年間戦没率はいかほどで?』
『見積もりは3から5%だ』
「年間でこれ?」「ん?もしかして超怖い数字なんじゃ」
何年間戦うか次第ではあるが…5年でもキツイぞ…
『5なら20年で、3でも34年で100を超えてしまいますな?』
『そうだ』
『そ…ん…な…』
「100%超えちゃう…」「超えちゃうねぇ…」
仮定したらそうなるってだけの数字だが…
『定数は?』
『16000隻で始めて32000隻まで開始後50年で増勢だ』
『年間沈む数の倍以上に建艦すると』
『そうだ』
「覚悟の上」「司令部は覚悟はしてた」
想定されているのは50年以上であることが確定…
『想定している作戦期間は?』
『250年から300年を見込んでいる』
『ば…か…な…』
「「「「「「「「「はっ?」」」」」」」」」
『ご理解いただけましたかな?イーリング准将閣下?
あなたの指揮する拠点艦100隻は既に1隻残らず全滅する予定です
それどころか我々に続く拠点艦も含めれば、
最大で1500隻が1500万人が貴方の指揮下で戦没します』
『………』
「「「「「「「「「うそぅぅぅぅ」」」」」」」」」
『覚悟が足りないとはそういう事です、
数字をご存知ではなかったかと思いますが、
それは私も同じことです、ご理解いただけましたかな?
これが初戦と地上軍地上戦を知る者と知らない者の差なのですよ』
『………』
「そうだ本土艦隊は知らないんだ、地上戦の現実を
拠点艦が地上戦拠点として有能過ぎたが故の誤算だ」
「それが、この認識差に…」
「イーリングはまだ良い方だ、
空間歪曲砲時代の宇宙艦隊戦は経験してるからな」
「帝国籍宇宙軍?側の愕然顔が…それを示していると…」
『総司令部としても心情的には反対であれ、
数字を知っている以上は?』
『あぁそうだ…業腹だが…そこを理解した上での…
であれば…否とは言えん立場だ』
『それは各司令部も?』
『『『『『………』』』』』
『俺達には一言くらいあっても良かったんじゃないか?』
『ふはは、そういう貴方方だからこそですよ?
ナイル・ブラックウルフチーフテン籠城戦地上軍司令官殿?』
「滲み出る戦友感」
「司令も獣人さんなんだ」
「黒狼の族長さん?」
『ん?どういうことだ?』
『そうですね、貴方方は言えてしまうのですよ?
最終的にはですがね?
だからです、貴方方には言わせません。
此れは我らの役割、我らの贖罪なのです』
「不穏ワード」
「不穏だな」
『なんだ?どういうことだ?』
『総司令長官殿?』
『むぐぐ…仕方あるまい』
「苦渋の総司令」「そら苦渋なるか」
『では?』
『年間8億だ』
『なんだと?こっちもか!!いや!!その数字はさらに酷いな!!』
「きっちい」「その数字キツイですぅ」
『定員は?』
『10億10億のままだ』
通常地上軍10億に贖罪兵10億か…
『そのうちの8億だと!!年間でか!!そんな想定なのか!!』
「年間40%とか」「余裕の3割越え…」
2.5年で20億人全員戦死って…
『何故です?』
『1拠点艦に6個師団だ、それが3万2000隻だ』
『遠征になる以上?』
『そうだ、それ以上は連れていけない』
「そういう事か…」「だから3万2000隻」
連れていく師団の数依存で建艦計画されていた…
『どうです?ナイル司令?その時は言えてしまうでしょう?』
『腹に据えかねる話だが…言えるな』
「言えるんだ…」「そうなんだ…」
そうなればそう覚悟するであろう悲惨な状況想定であると…
『なら始めるなら出る前から始めた方が良い、
そして、我らだけが今は言えるのですよ?』
『だが彼らは貴君らの知人親類縁者なのだぞ?
確率的にそれは絶対だ!!彼らが9割で貴君らは1割なのだぞ!?』
「そうなのか…」「そんな割合なのですか…」
あぁマジかぁ…多数少数の割合…そうかぁ殆どが2種なんかぁ…
アイツもあの人もあの子も2種なんだろうなぁ…性格的に…
『そうですな、そうなのでしょう…だが罪人なのです。
それも悔い改める事がないと判断された罪人なのです』
『貴君らがソレを言うのか!!』
「言い切った…」「なんの迷いも動揺もなく…」
これは先輩たちを恨んでもオカシクないだろう…
『えぇ、声を大にして言えますな』
『何故だ!!』
「そりゃ怒鳴り声にもなる…」「そうですよね…」
なおさらに俺らはそう思うわけだが…
『故郷たる拠点艦と
共に死地に赴く戦友と
それを支える帝国
それらを守るためですよ?
簡単な話です
総司令長官殿?』
「それを言われたら…」
「もう何も言えなくなります…」
「それを言えるだけの行動と実績が…」
「先輩らにはある…」
『ふぅぅぅ、そうだ全面採用した場合…
…各損失は半分以下にはなるだろう
過少に見積もってもな』
『………』
「「「「「「「「「………」」」」」」」」」
『ナイル司令?どうです?
彼らの尊厳を犠牲にするだけで…
それだけ守れるのです。
総司令長官殿?戦力評価は如何ほどに?』
『盾ナグール以前の15倍は下るまい』
『………』
「「「「「「「「「………」」」」」」」」」
『彼らを罪人と断じ修羅と涅槃の獄に投げ込む
それを知った我らがその程度を逡巡するとでも?』
『………』
「「「「「「「「「………」」」」」」」」」
『これが人類の防人たる我ら1800人の意志です』
(ざっ!)
「ノリで付けた名のはずだったんだがなぁ…」




