第39話 帝国由来のモノとしてオレこそが手を貸すべきと判断した
「先輩たちはなにしちゃったんですかぁ?」
「そうまでいうってことは相当ですよね…」
「うむ、まずは発案者だ、
そやつは召喚術式の基礎を築いた功績で即座に志願した」
「えっ?何にです?」
「魂魄式AIだ、そして条件付きで認めた、エルフ以外で初の事例だ」
「認めたんですか!?」
魂を売っちゃった…そりゃ驚く第4分隊長ナカニワ中尉だよね…
「今回の件で思考が硬直化している懸念が出たからな?
そういう意味でも下地が全く違う贖罪兵出身は有用だった」
「ふむぅ、獣人やドワーフからは?」
だよなぁ長年対象外だった彼らの立場がなぁ
さすがの視点だ…第5分隊長イクサバ中尉
「あいつら4公が長年思いつかなかった事を思いついたやべぇ奴、
そう人種の問題ではなく個人の問題と捉えられてな?」
「反対は出なかったんだ…」
一種の狂人扱いなわけだな…第7分隊長カルイザワ中尉
「その上で専門分野以外での活動制限と
他の魂魄式AI12名による定期倫理チェックと
自己崩壊プログラムの受け入れで問題なしとした、
そしたらすぐに儀式を行ってAI化した、召喚公と呼ばれている」
「同類が増えたんですね…」
志願動機も似たようなもんだろうからなぁ…
「そうだ、そして2種を召喚獣にすることは、
現実的にはムリだろうと召喚公は考え、
生態公とともに召喚獣創生を成そうとしていた」
「あっそこは割と常識的だったんですね」
「なるほど召喚公ではないと」
中隊贖罪兵管理システム自体の発案者は別にいると…
「そうだ、召喚公ではない、
声を上げたのは300隻の拠点艦の班長達300人と
その班員1500人達だった、そう彼等だったのだ」
「この300隻は?」
300隻ということは地上軍支援中の
3個防人統合艦隊の300隻のことか…
「そうだ、籠城戦開始時の新造新編艦が250隻、
空間歪曲砲時代からの古参艦が50隻だ」
「となれば彼らは初戦から?」
新造艦拠点艦班長だもんな…第5分隊長イクサバ中尉、
それなりの前歴があって然るべきよな…
「そうだ、89年に及ぶ激戦を
拠点艦班長として生き抜いた者と
高機動戦隊指揮官として、
もしくは超高機動砲艦群隊長として、
生き抜いた者達だ」
「あぁなるほど…」
「彼らは知っていると…見てきたと」
ほぼ最初からの生存者であり目撃者でもあると…
「そうだ、6度に渡る奪還戦に伴う、
宇宙艦隊戦と地上戦の様相を
直に見て聞いて体験してきた者たちだった、
真に地上軍の戦友たる彼等だったのだ」
「召喚公は?」
そんななか冷静に聞く第8分隊長クロノ中尉…
「アヤツは拠点艦開発研究部員の1人に過ぎなかった、
そういう意味ではな?」
「だから、常識的だったと」
それゆえにスグに諦めたと…
「彼等は認定条件が軍内に示され、
アヤツがAI化した時点で必要な基礎研究は終えたと判断した」
「…実用化したのは」
開発の主体がソコで入れ替わったのか…
「そうだ、中隊贖罪兵管理システム
またの名を慈悲なき断罪者の揺り籠
それを完成させたのは彼等だった」
「慈悲なき…」
「断罪者の…」
「揺り籠…」
きっつい二つ名だなぁ…
「彼らはそれまで培ってきた300隻の連帯を活用し、
まずは贖罪兵本部に打診した、
『2種召喚獣化の検証を試しにウチでやってみないか?』とな?」
「なるほど…名分が欲しかったと」
無理でした実証案件ということか…誰もやりたがらないが、
誰かがやらねばならない地雷案件扱い…
「そうだ、贖罪兵本部も無理筋だと判断していたからな、
予算も人員も最低限で済む彼らにやってもらうのは、
とても魅力的な提案に見えたことだろう」
「…それがまさに罠」
そう思わせといて…第10分隊長オトナシ中尉の言う罠が正解だ…
「そうだ、彼らは所在地であるだけに
召喚公の研究内容と進捗を知悉していたのだ、
そう、もう理論構築は済ませ実証実験を行う程度には、
既に事前準備を終えていたのだ」
「それもう殆ど完成してるんじゃ…」
「そうだ、赴任した贖罪兵本部員が最初に目にしたのは、
中隊贖罪兵管理システムの最初の実証実験だったのだ、
実験は概ね成功した、ここに慈悲なき断罪者の揺り籠は完成した」
「無理筋が赴任初日にほぼ完成…」
「干渉機会ほぼゼロ…」
「あとはもうそりゃ大騒動だ、
内容が内容で出元も出元だ、
オレ等も完全にノーマークだったのだ、
知らなかった、気づいていなかった。
赴任した贖罪兵本部員が、
泣きながら書きあげた報告書を元に、
あの論戦は開かれた」
「完全に貰い事故」
「そりゃ泣く」
「そしてこれがその映像だ」
『この場に貴方方をお呼びするのは
私の没後と思ってましたよ』
『大恩ある我らが陛下に直接ご対話いただき光栄であります』
「えっ?盾ナグールで見た光景!?」
「あっ拠点艦班長300人っぽいのも!」
「それ増えてるじゃん」
『このような形で…とは露にも思いませんでしたが』
『ご心痛いただき感謝します、ですが我らが意志です』
「先輩なにしたんすか…」
『確か貴方は?第255拠点艦「アリゾナ」の?』
『はい、最後の1人です、当時は訓練生でした』
たしか…最初の拠点艦カミカゼの先頭艦じゃなかったか…
「そこでその名がでてくるのか…」
「まじかぁ…」
「これは相当ですわね…」
『そうでしたか、確かその後は第1524拠点艦「フェニックス」で?』
『はい、最終的には超高機動砲艦群隊長を拝命しておりました』
「超激戦コースじゃ?番号的に?」
「おそらくは…」
2回目さえも経験済…
『魔導銀河帝国歴538年には第4424拠点艦「ツーソン」の班長ですか』
『当時は未曽有の人手不足でしたからな』
「空間歪曲砲時代に拠点艦班長拝命……」
「6度に渡る奪還地上戦全部に参加してそう…」
屈指の激戦生存者…
『そうですか、纏め役は貴方であると…中隊贖罪兵管理システム…
完成させたのは貴方方…で間違いないのですね?』
『はっ我らと捉えてなんら問題ありません、
本件に関し帝国籍の方々にはある方1人を除き、
一切の手出しを控えさせて貰いました』
「超秘密主義?」
「…なんで?」
ある意味、反逆という認識での開発だったのか…
『魂魄式AIの方々を相手によく成し遂げましたね?』
『重心の問題です、この方向で隠蔽されるとは思われなかったのでしょう』
「コマインの指し手と長年やりあってるだけあるなぁ」
「有能であることを強いられている…のでしょうね」
つまりは魂魄式相手に隠蔽しきったということか…
『なるほど、そういう立ち回り方でしたか、では本題に?』
『はっ!』
「始まる?」
そこまでした内容とは…
『贖罪兵2種を召喚獣化するために、
どう認定条件をクリアしたか?
確認させていただきますよ?』
『はっ!!』
「さぁ先輩なにしたし」
「ホントに…」
『ひとつ、現界の住人、存在ではないこと、これについては?』
『はっ!水鏡がヒントになりました、
現界に在りながら異界化する。
コレを突き詰める事でクリア可能と判断しました』
「最大の課題を?」
「クリアできると…そしてクリアしたと」
『それがあの「揺り籠」ですか…』
『はっ!!結局は規模の問題ではなかったのです。
その規模のせいで現界に一度定着したマナが
一切流入してこないことが本質だったのです』
「ん?どゆこと?」
「??ピンとこないですね」
上位存在級だから異界になるのではないということ?
『マナの流入を完全に遮断した空間のマナを枯渇させる』
『そうです、それだけで世界は異界と認定しました、
微々たるものではありますが世界間虚空マナも流入を観測しました』
「えっ?それだけ?」
「そんだけで異界化すんの?」
現界世界で再生産されたマナが一切ない空間ということ?
『遮断する方法については?』
『気中地中マナ収集装置を応用しました、
籠の内壁と外壁の間に中間壁を設け、
その前後の空間と中間壁自体に
収集装置を元にした遮断装置で遮断処置を行っております
外部との通信もその間だけは有線での純科学的手法にしてあります
信号変換はマナ的手法で行っておりますゆえ、
情報漏洩のリスクも最小化してあります』
「ごめんなさい、すっごい手間かかってました、
そんだけじゃありませんでした」
「たしかに、手間がかかってそうですね」
マナ的真空状態と考えれば手間がそりゃかかるかぁ。
『その動力は?』
『従来であればマナ収集装置は起動後自己動力化し
以降の動力入力は不要ですが、遮断の為、
常に運転過負荷状態である遮断装置は外部から継続的入力が必要です、
内部に関しては微々たるとはいえ世界間虚空マナ、
内部の施設群も含めその程度の動力は賄えます。
そして遮断装置は異界の外に在り、
内部からの世界間虚空マナの流出につながりますが、
現界への虚空マナ流出は問題にされないようです』
「ん?つまり世界から隔離?」
「あれ?確かに?」
物理的にも結果的に隔離されてるな…
『そして贖罪兵2種が居住する世界が成立したと』
『そうであります』
「えっ?その限定?された空間が住む世界ってこと?」
「たぶん…広くないですわね?」
反乱防止処置されてるとはいえ…
『ひとつ、居住している世界に疑問を思っていないこと、これについては?』
『処置の為、元来問題はないかと考えておりますが後述の為、
待機中は寝かせておりますので問題はありませんな』
「寝てる」
「…だからおやすみ」
送還の時のあの言葉か…
『そうでしたね、疑問に思う状況すら生まれないのでしたね』
『そうであります』
「そうなのか…」
疑問をおぼえる前に認識できない…強制的に寝かされてるから…
『ひとつ、魂魄をもつ生命体であること、これについては?』
『世界に認定されたことで命題がひとつ解けましたな、
再現魂魄でも魂魄として認められるということです』
「あぁなるほど」
過去からローディング再生された魂も
魂は魂であると世界に認定されたというわけか…
『なるほど、そうなりますか』
『そうであります』
「これはなんとなく嬉しい話かも?」
「わりと引っかかってたんだな、この疑問…」
存在理由に関わるもんなぁ…
『ひとつ、現界への顕現は召喚によって主になされること、これについては?』
『死亡、もしくは籠の内部施設の致命的破損がない限りは、
召喚によってのみ外にだします。
治療その他も含め全ては召喚後に行い、
物資の搬入も含め送還によって還します』
「「「「「「「「はっ?」」」」」」」」」
『そうであれば異界認定は継続されると』
『そうであります』
「えっ?完全隔離なの?世界から?」
「えっまじで?」
専用設備である?揺り籠?からは二度と物理的に出さない…
出すのは魔法的にだけ…
『ひとつ、期待される個体存在時間が、
トータルで780年を超えること、これについては?』
『これは一定時間以上の待機中は
冷凍睡眠に入ってもらうことでクリアできました、
その機能は戦闘装具に追加して実現しています』
「えっ?平時でも異界で起きることないの?はぁ?」
個体寿命が500年だから延命の為の処置か…だからって…
『生命活動が半ば停止したとしても?』
『魂魄が存在しているのならば…問題ないようです』
「だから?もう起こさないと?」
任務以外は寝てるか冷凍睡眠…
『そして戦闘装具を脱ぐことはほぼなくなると』
『破損代替、後継代替、治療時など以外ではありません』
「えっ?脱げないの?あの着ぐるみ?」
「ずっと?ずっとなの?」
寝てるときさえも着ぐるみに包まれたまま…
『ひとつ、召喚時送還時に意識が覚醒していないこと、これについては?』
『召喚時は問題ありません、召喚後に強制的に覚醒します。
送還時は直前に薬学的に強制睡眠させることで、
問題をクリアできました』
「はぁ?あんな瞬間に寝かせるの?薬学的に?」
「それ大丈夫なんですか…?」
映像だと瞬く間の間だったぞ…
『身体負荷は?』
『かなりのモノがありますが、戦闘装具にケア機能を追加することで、
問題を解決しています』
「大丈夫じゃない…まったく大丈夫じゃない…」
「治せるから大丈夫だ問題ない…理論じゃないですか…」
『事前ブリーフィングや教育に訓練は?』
『夢の形で行っております、
そうであれば認定剥奪には至らないようです』
「えぇぇぇ徹底的に起こさないのぅぅぅ?」
「えっまって?総合的に見ると?とんでもないことに?」
「あぁ…なってきてるな…コレ…えっぐすぎないか…」
『揺り籠の由来はそれでですか…』
『そうであります』
「慈悲なき…」
「断罪者の…」
「揺り籠…」
『最後、居住している世界において最低限度の
精神活動を行っている個体であること、これについては?』
『再現元人格の記憶を
夢の中で再体験してもらう事で解決しました』
「そこでそれ使うの…」
「任務か夢しかないぞ…主観上では」
「これを贖罪兵のみが推進…」
「帝国籍の介入を徹底的に排除した理由…」
「帝国に覚悟で対抗するのか…」
『そうですか…ハム公?』
『あぁ最後に協力したのはオレだ、知らされたのは実験前日だったが、
ここまで至ったのであれば…な
帝国由来のモノとしてオレこそが手を貸すべきと判断した』
「「「「「「「「「ハム公…」」」」」」」」」
「あいつは22年訓練生としてアリゾナにいたんだ
オレの教え子でもあるからな、良く知っていた。
あの時代は平和だったからなぁ」
「「「「「「「「「……」」」」」」」」」
『そうですか、私としては異論はありません、
他の誰でもない貴方方が、そうすべきだ、というのであれば…
否はありません、言える資格がありません』
『はっ!!ご理解いただき感謝します!!』
「「「「「「「「「ティネム帝…」」」」」」」」」
『ただ、彼らの説得は任せても?』
『その為にこそ、ここに在るのですからな、
お任せください、陛下』
「ん?どゆこと?」
「ほぇ?」
『では、ミュートを切りますよ?』
「あっ外野が静かだったの…」
「ミュートしてたんだ…」




