第33話 地上軍上層部は浮かれすぎたんだ…
「…どうしてそんなことに」
「…あれだけ嫌っていたのに」
「まずはコレをみてほしい」
西暦2645年~西暦2800年
対地球人類戦
分隊で地球人類大隊を圧倒した
西暦4401年~西暦4450年
帝国軍事面総点検再研究再整備計画「帝国の威光」
共和国滅亡
事実上の内戦想定で個体差無しの歴史的に常識的な戦術ドクトリン採用
西暦4550年~西暦4903年
対白兵戦至上主義者
圧倒的個体差を集団戦術で打破
西暦5251年~
対ホプル
そのまま
西暦5762年~
対コマイン
そのままだった…
「「「「「「「「「あっ……」」」」」」」」」
ずっと対白兵戦至上主義者ドクトリンのままだったと…
「そう帝国は白兵戦至上主義者を嫌うあまり、
全く気づいていなかったんだ」
「ずっと相手の土俵で戦っていた…と」
「それでテンション激落ち…」
「萌芽はとても小さなものだった」
「そうなのか?」
「うむ、籠城作戦中は地上軍の寝床は基本拠点艦だ」
「要塞内では寝ないと?」
「うむ、全域戦地であると判断していたからな?」
「コマインの指し手がどんな手をうってくるかわからないと」
安心して寝れるのは拠点艦の中だけだということか。
「そういうことだな、そして寝床たる拠点艦を守るのは?」
「身をはることに定評のある宇宙軍贖罪兵…」
「その贖罪兵が毎日見送るのは?」
「籠城戦に向かう地上軍軍人…」
休暇も非番も拠点艦内で過ごす…
交流がないわけないわな…
なかなかの状況よな?第10分隊長オトナシ中尉
「戦歴あるほどに、こいつらアホみたいに仲良いんだ」
「現在進行形なんですね」
「うむ、今も惑星地表の制圧が必要な時は、
この籠城作戦とさして変わらない運用をするからな」
「ふむ、なるほど」
そうなる経緯と環境に状況があると…
「そして、拠点艦自体は平和そのものだったんだ、50年間な?」
ということは?
「つまり、コマインの指し手は?」
そうだな?第3分隊長オオトリ中尉
「そうだ、地上戦継続を選んだ、多少あった宇宙艦隊戦は、
第4惑星への希少資源輸送に絡む艦隊戦のみだった。
となれば、贖罪兵は?」
「暇」
だな…第8分隊長クロノ中尉
「戦友たる地上軍は?」
「…激戦」
キツイよな…第10分隊長オトナシ中尉よ
「そう、特に最初の5年は大変だった、
合致してないドクトリンと脳筋を近づけさせないための武器は、
地下要塞内戦ということもあり、さらにキルレシオを悪化させていた。
まぁ当時は自覚無かったんだがな?」
「あ~知らなければそうなるのかぁ」
「そして2億のうち1億はこの5年で戦死した」
「それを見送るだけというのも……」
「そいつは勘弁してほしいなぁ」
「その最中、それは起きた」
「ん?なんです?」
「ある贖罪兵が、親交ある地上軍軍人に手渡したんだ?」
「ふむ、何を?」
なんだろうな?第5分隊長イクサバ中尉
「思考入力で刀身の伸縮が可能な熱光線剣だ、
護身用に使ってくれ、高くついたから生きて帰って返してくれよ、
と嘯きながら、とある地上軍軍人にな?」
「あっ!!造れるのか!!」
「そうだ!拠点艦はそうだった!!」
そうだった…拠点艦は基本何でも作れる上に開発部門まであった…
「そう、それは暇してた拠点艦の開発研究部員に頼み込んで、
同じく暇してた精錬製造部に頭を下げて得たモノだった」
「そうか、それができる、拠点艦なら」
贖罪兵は女帝の私兵な上に自己採算性を元々求められてたからか、
むやみやたらと汎用性があるもんな…帝国上層部も忘れてたろコレ…
「そして渡された者はソレのおかげで生還した」
「…美談」「良い話だ」「ホロリとくるな」
「この話はあっというまに300隻の拠点艦に広まった」
「…だろうなぁ」
「そこからはもう怒涛の勢いだった」
「あぁ…そうなるんだ」
そうなるよなあ…第7分隊長カルイザワ中尉
他人のために集団カミカゼするような人たちだし…
「元々がマナを知らない諸君だ」
「えぇ、知りませんでしたね」
「つまり、マナの常識に縛られない」
「ふむ、確かに知らなかったからな」
「そして、多彩な文化を各々が知悉していた」
「そうですね、多彩な趣味を皆さんお持ちでしたね」
「オレ等帝国が知らない、古代地上戦を知悉している者もいれば?」
「そりゃ、いるわなぁ」
「オレ等帝国が知らない、自由な発想のフィクションに至るまで?」
「いっぱいいるでしょうね?」
「あいつらそれを一切合切ぶち込んんだ」
「…一切合切」
「ありとあらゆる戦術と兵装が模索され」
「おおぅ、意気込みが半端ないな」
「試作され戦場試験され破棄されていった」
「どんだけ造ったんですか…」
「帝国地上軍の近年の戦術と兵装はココで生まれた、
そう言っても過言ではなかった」
「そんななるまでに」
「そして最後にアレがうまれた」
「アレ?というと」
「映像で光ってた奴だ、その名は盾ナグールだ」
名前…酷すぎるだろ…
「…名前なんとかならなかったんですか?」
「…発案者も本命扱いされるとは思ってなかったんだ…
それも無理はない、仕様が至って単純だったんだ、
着用者の装具の表面を対物理特化マジックシールドで覆い、
そのまま殴る。いくらでも類似品があるような仕様の兵装だ」
「ん?じゃぁ何が他と違ったんですか?」
「投入マナ上限が他が15マナ程度の中、150マナあった。
そして、その投入に耐えられ、かつ効率低下も防止してあった。
数字を読み間違ったらしい」
「…他はなぜ15マナ?」
ん?エルフが一日1マナだったよな?15マナ?
「通常、10マナ程度が人類の脳の最大制御限界だったからだ」
ん?10マナが制御限界?
「あれ?では、なぜ本命に?」
「これを装着した地上軍軍人が今際の際、
35マナ投入して大暴れした後に果てたからだ」
「うわぁ…」
決死のオーバーロード特攻かいなぁ…
「35マナ投入した結果、要塞内でコマインが使う兵装は貫通しなくなった、
その上、殴るだけで相手は壊れた、この事実は一躍注目を浴びた」
「けど、それをすると…」
「そうだ、死ぬ。ゆえに其処を何とかしようと300隻の拠点艦が一丸となった」
「それだけ効果的だったと…」
「あぁそうだ、それまでの努力を嘲笑うかのような戦果だった。」
「そして完成したのが盾ナグールmark2だ」
「…名前」
…継承されちまったのか…
「…そう名付けられた発案者は泣いた。
コレは根源マナを制御するのではなく誘導するという手法で、
自身のマナ0.1で根源マナ40を誘導する術式だった、
元々の術式がシンプル極まりないため成立した」
「できちゃったんだ」
あぁー根源のマナを装具に投入し制御するのに、
自身のマナを使うし身体に負荷も掛かるのか…
つまりはソコを効率改善したと。
「その効果は絶大だったが持続時間が、
あまりにも短すぎた、これだけでも50分しか維持できなかった、
そして、処置の為に意志薄弱な贖罪兵2種は、
起動すらできなかった」
「多々問題」
「これを受けて300隻の拠点艦は各々の方針で打開策を模索した。
そして生まれたのが盾ナグールXだ」
「…markはどこへ?」
そして継承だけはされる…
「…発案者は膝から崩れ落ちた。
コレは自身のマナ0.01で根源マナ0.1を誘導し、
さらにそれで根源マナ40を誘導するという2段階術式だった」
「結果は?」
「帝国軍人と贖罪兵1種は問題なく起動でき持続時間も500分には伸びた。
しかし、贖罪兵2種はどうしても起動できなかった。
盾ナグールXは2種の為に設計されたも同然だったがゆえに失敗だ」
「それで青のきぐるみは以前と変わりがないと?」
「そうだ、できないならできないと受け入れるのも帝国だ、
そもそも贖罪兵2種がマナ送受システムを
装備できないのも同種の問題だからな、
よくよく考えればできなくて当然だったんだ。
そして、帝国軍人と贖罪兵1種のみが使うことを前提に、
最適化設計され完成したのが盾ナグール終だ」
「Xの旅立ち」
継承はもう必然…だよな?第8分隊長クロノ中尉。
「発案者は突っ伏して号泣した。
これは自身のマナ0.001で根源マナ1を誘導し、
さらにそれで根源マナ100を誘導する盾ナグールの最終系だ、
持続時間も5000分に伸びたうえ投入マナ100まで到達した。
ここに至るまでに25年かかった」
「それがさきほどの映像の?」
「そうだ、全身光り輝く中でいっそう青く光り輝く、
彼らの両目が盾ナグール終だ」
「あ~あの青い目がソレだったんだ」
あ~確かに残像に青いラインが走ってたなぁ。
「そして彼らは思ってしまったんだ…」
「何をです?」
「白兵戦至上主義悪くはないのでは?とな…」
「「「「「「「「「あぁぁぁ……」」」」」」」」」
「相方の宇宙軍贖罪兵1種が白兵戦至上主義者どもを
直接は知らなかった為、トラウマも薄かったからな?
戦技教練実習機にも仮想敵として登録されてないからなぁ、鬼は」
「ん?じゃぁ地上軍は?登録されてる?」
「あぁ主に懲罰教練時の相手としてな?ゆうに1000年を超える伝統としてな?」
トラウマ量産機じゃないか…だからドクトリンそのままだったのでは?
「じゃぁ試してみた?対鬼戦を?」
「そうだ、盾ナグール終でな?」
「結果は?」
いつになく矢継ぎ早の問いだな…第10分隊長オトナシ中尉。
「地上戦に限り互角だった。
アイツらマナでできてるくせに攻撃は物理一辺倒だったからなぁ、
そして非番の日はあいつら対鬼戦ばっかしてたんだ…」
トラウマ解消の爽快感中毒か…
「もしかして?地上軍上層部は?」
「あぁ……そんな彼らに超歓喜した…憎きアイツらと互角に戦える…
そんな夢のような武器が生まれたとな…」
「名前は盾ナグールだがな…」
「そして地上軍の制式装備として盾ナグール終を採用し、
地下要塞で防衛任務従事中の1個師団に装備させてみた」
「結果は?うまくいったんですよね?」
「超大問題が発生した」
「「「「「「「「「えっ?」」」」」」」」」
「超超大問題が発生した」
「「「「「「「「「えぇぇぇぇっ?」」」」」」」」」
「その時のティネム達の映像だ」
『戦略上の大問題が発生したと聞きましたが…
何が起きたのです?コマイン戦総司令部長官?』
『…端的に言えば地下要塞籠城戦が継続不可能になりました』
『は?』
「「「「「「「「「は?」」」」」」」」」
『地下要塞籠城戦が継続不可能になりました』
『そっそんな兆候が感じられる報告は…なかったと思いますが?』
『はい、12時間前までは一切ありませんでした』
『…何が起きたのです』
「ホントに」「何が一体?」「うむ、意味が解らん」
『例の盾ナグールです』
『ん?現地贖罪兵と現地地上軍が躍起になって開発したアレですか?』
『アレを装備した1個師団の装備慣熟訓練後の初戦日でした…今日は』
『その1個師団がどうしたんですか?』
「なにしたんだろ?」「籠城継続不可能ってなぁ?」
『25年かけて第24防衛ラインまで押し込まれていた担当防衛区画ですが…』
『ふむ、どうぞ続きを?』
『さきほど第一防衛ラインまで押し返しきりました』
『は?』
「「「「「「「「「は?」」」」」」」」」
『半日でこの区画のコマインの戦闘機械は要塞から叩き出されました…』
『はい?』
「「「「「「「「「はい?」」」」」」」」」
『籠城戦の継続は不可能です。
アレを装備した地上軍は閉所戦闘で鉄壁です』
『その模様を送信したとみられる
監視小惑星への大容量通信も観測されました』
『…検証公、すでに知られると』
『はい、ほぼ間違いなく』
「「「「「「「「「えぇぇぇぇ……」」」」」」」」」
『コマイン戦地上軍司令部は?』
『今、事態の収拾に躍起になっていますが目途が立っていません。
ご覧になりますか?』
『…ふぅぅぅ…お願いします』
「修羅場の悪寒」「だろな…」「そうでない筈がないですね」
『だめだだめだだめだぁぁぁ』
『くっそ止められん!!止める理由が見当たらん!!』
『マナ切れは演出できんのかっ!!』
『そこはもう戦場試験中に掴まれてるはずだ!!無理だっ!!』
『贖罪兵が!!もうついていけん!!』
『ええぃ!!歩兵中隊は贖罪兵を発起点の第24防衛線に帰せ!!』
『贖罪兵だけでか!!』
『大隊の補給中隊をつけろ!!4中隊分まとめて引率させろ!!
残りの歩兵中隊はもう増強歩兵小隊として動け!!』
『だめだ!!地表戦でも圧倒的だ!!』
『多脚戦車の大群が!!紙屑のように舞い飛んでる!!』
『あぁぁもっとがんばれよ!!耐えろよ!!今だけでいいからっ!!』
『あぁ!!コマインの航空隊きました!!
防人統合艦隊が予定にない地上戦に対応できてません!!
軌道上迎撃不可能です!!』
『これならっ!!これなら止まれるはず!!』
『あっ!!火力中隊!!火力中隊飛んでます!!』
『あぁぁぁぁぁエルフのあいつ等がいたぁぁぁぁぁ!!』
『ダメです!!コマイン航空隊乱戦に巻き込まれました!!』
『ぬぁぁぁぁバカバカ墜とされてるじゃないかぁぁぁぁ』
『ダメです!!東部方面コマイン地表戦力3割減です!!』
『だから!!早いって!!早すぎるって!!』
『地上戦闘指揮に思考加速なんて用意してないんだぞ!!』
『コマイン航空隊壊滅!!』
『ちょっとまてぇぇぇ!!』
『あぁぁ工兵中隊が!!工兵中隊が!!歩兵小隊と同じ位置にいます!!』
『やめろぉぉぉぅなにするきだぁぁぁ』
『あぁぁぁぁ工兵中隊がぁぁぁぁ敵の本陣ごと地面を放り投げましたぁぁぁ!!』
『のぉぉぉぉぉぉぅ!!』
『東部方面コマイン地表戦力6割減です!!』
『あっ火力中隊!!爆撃を始めてます!!絨毯です!!』
『ぬぁぁぁコマインが溶けるぅぅぅぅ』
『あっ!!北部と南部のコマインに動きが!!増援する模様!!』
『やめて!!こないで!!無理だから!!蹂躙される!!
蹂躙されるぞ!!白兵戦至上主義者どもに!!』
『くっそ!!致し方ない!!挟撃回避安全策と見せかけて!!
隣区画の第1防衛ラインから攻め込ませよう!!』
『いいのか!?いやそれしかないのか!!』
『そうだ!!もう迂回攻撃での帰還を演出するしかない!!』
『ぐぅぅもうそれぐらいしか!!』
『そう籠城戦意図を読まれないためには!!』
『ないのかぁぁぁ!!』
『そうだ!!それで籠城戦が継続不可能となってしまってもだ!!』
『あぁぁぁ指示出してすぐに第1防衛ライン粉砕とかあぁぁぁ勘弁してくれぇぇ!!』
『止めてくれぇぇぇ!!コマインさんよぉぉぉ!!』
『ぬぅぁぁぁぁ!!もう第2防衛ライン半壊とかぁぁぁぁ!!』
『いつもの冴えわたる指揮はどうしたんだぁぁぁ!!コマインさんよぉぉぉ!!』
『…地上軍司令部を除く関係各位を急ぎ招集しましょう』
『…招集しておきました』
『…助かります』
「「「「「「「「「うっわぁ」」」」」」」」」
「地上軍上層部は浮かれすぎたんだ…大隊から始めるべきだった…」




