第30話 あっ陛下!その線でおねがいしま~す
「さて、残るは第二次大航海時代だな?」
(((((((((こくり)))))))))
「さて、その第二次大航海時代だがいきなり躓いた」
「えっどういうこと?」
「躓く要素なんかあったか?」
「何があったんですの?」
なんだなんだ?
「あった…か…確かにあった…存在していた…
あれほどの敗北感はこの年齢でも片手で足りるほどだった…」
「…ハム公テンション激落ち案件?」
「そんなになの?」
「うむ、『コマイン星系内監視小惑星』」
水鏡の完成によりその存在が露呈発覚した、
コマイン勢力下星系に存在するコマインの星系内監視小惑星。
恒星自転軸上の上下に恒星から30光日の位置に各1基が存在している。
全長2km前後の取るに足らない岩石小惑星に擬装しており
その表面には全周を観測可能なパッシブ観測機器群が設置されている。
ほぼ無発光無発熱の低出力粒子スラスターで、
恒星自転軸上を緩やかに上下する軌道を維持している。
ほぼ完全に隠蔽隔離された空間に40PWのジェネレーターを持ち、
その内部で通信用ゲートを用いた5光年級疑似超空間通信で
「隣の星系」の監視小惑星に、
低出力レーザーで情報を送信していた。
その際に「別の隣の星系」の監視小惑星から、
送信された情報も同時に送信されていた。
これをリレー方式で伝達していることも確認された。
星系内コマイン艦隊から指向性電波により、
監視小惑星に情報が送信されていることも確認された。
そして、0オクロックセカンドゲート星系にも、
初戦の奇襲時に紛れて設置されていた。
その際の星系迂回侵攻ルート上にも計50基設置されていた。
武装もなく被弾耐久性も皆無だが、
コマイン起源惑星制圧作戦「帝国0時辺境前進計画」の
初期段階では破壊に女帝の承認が必要であった。
今は最優先破壊目標である。
「えっ在ったの!?」
「それも初戦からですの!?」
「……激落ち納得」
「うっそだろ?初戦からそんなもん持ってきてた!?」
「それも50基もです!?」
「痛恨」
「初戦が丸ごと陽動だったんですか!?」
「デカブツの最後の行動自体が欺瞞ってことかよぉ」
「うぬぅ、これはまた…89年間ずっと見られていたと…」
「そんな俺らのお通夜会場だ」
そりゃ…お通夜にもなるわ…
『最悪ですね……
いや、前に出る前にこの事実を掴めなかった場合が一番最悪ですか』
『いやぁ?これはもう完敗だね?こんな経験初めてだよ?』
『宇宙軍長官?水鏡の微次元震観測情報通り?』
『モノがあるのは間違いないです。
しかしソレであるとはわかっていてもわかりませんでした。
ご指示どおり相手に気づいたことを悟られないため、
遠距離パッシブ観測情報のみでの観測結果ですが……』
わかっててもわからん隠蔽レベルとか…
『そうですか……技術庁長官?転移公?』
『おそらくは隔離閉鎖空間でゲートを開いているのかと』
『同意見だ』
「えっ!?立体球形魔法陣がしゃべってる!?これ転移公?」
「そうだ、つまりは大好きなんだ」
「生物ですらないのもいるからか……ちょこちょこ全員いる?って感じたのは」
「帝国式オブジェではなかったんですね」
『つまりは何も出さないまま其処に在り続けていたと』
『そうなります』
『これ、反対側の純科学文明は見つけられると誰か思います?』
(しーん)
いや無理だろう…見つけられるわけないじゃん…
『はぁ……急がねばなりませんね、では現状分析の続きを宇宙軍長官?』
『はっ!不幸中の幸いだったのは帝国の通信が全て文殊であることです』
「救いはあった」
「本当にギリギリ救われた感が凄いする」
帝国の通信方式はかなり特殊だもんなぁ。
『つまり、通信とその内容が漏洩したわけではないと?』
『おそらくはそうでしょう、検証公、お願いします』
『0時第二帝国門の記録を確認してみましたが、救難信号等以外で
翻訳され情報収集に繋がるような電磁波は星系内では放射されておりません』
『字義通り見られていただけに留まると』
『確約はできませんが、おそらくは』
『それでも代償は大きかったのかもしれませんね』
『『『『『『『『『………』』』』』』』』』
度重なる攻防戦に活用されてたろうからな…
『発見自体は水鏡でできるとして……対処は?どうです』
『今現在も検討中です、紛糾してますがご覧になりますか?』
『お願いします』
(ぶぅん)
『だ!か!ら!どうやってバレずに近づくんだよ!!』
『周囲には!!な~んにもありませ~ん?なんだよ!!』
『上下から見られてんだぞ!!天体の影にも隠れられん!!』
『だからって!!放置とか!!ありえんだろ!!』
「煽り合い怒鳴り合い」
「アホ程紛糾しとる」
『じゃぁ考えろ!!捻りだせ!!バレずに近づく方法をだ!!』
『よ~く考えろ?帝国の転移は直前で転移先がどうなるのかをな!!』
『思い出せ!!燦然と輝く転移公の作品をな!!』
『さぁ見ろ!!さぁ見ろ!!と言わんばかりに輝くあの姿をな!!』
「うぇ?そうなの?」
「事実だ、素晴らしい言い回しとオレは評価する」
『その時点で!!バレるの確定なの!!』
『そのあとに次元境界面に潜航しても意味ないの!!』
『唯一の方法は!!その姿が相手に届く前に葬ること!!』
『だがその方法は10秒前から光り輝くけどな!!』
「ちゃぶ台ガシャーン」
「ふるいでよ」
『なら!!高機動戦艦で主砲交戦距離+αに転移だ!!
『まてこら!!そもそも葬っちゃダメ!!葬ったら気づかれる!!』
「錯乱しておられる」
『だ!か!ら!放置でいいんだよっ!!利用法は!!艦隊公に頼め!!』
『強襲独行艦を捨て駒にする気か!!』
「なんかこそばゆい」
「わりと大事にされてんのなぁ」
『お!ま!え!は頭を冷やせ!!
命題は!!コレに気づいてないと!!思わせることだろうが!!』
『むしろ!!いつも通り!!コレに近づくことなく!!
電磁波吸収フィールドジェネレーターを使っとけば!!
むしろ安全なんだよ!!わかれよ!!』
『逆に次元境界面潜航装置は死亡フラグ満載だからな!!
絶対にコレが在る内は使わせんなよ!!
適当に仕様不具合とでも理由付けて使用ロックかけやがれ!!』
「おおぅ、こっちも」
「思いもしない点で紛糾してるですぅ」
(ぶぅん)
『転移公?』
『仕様だ』
『艦隊公?』
『了解?』
『放置したまま、それを利用する方向で、
計画と作戦を全面的に見直しましょう』
「なっ?始める前から大事故だろ?」
「たしかになぁ」
『しかし、そのおかげで貴重な情報が得られました』
「ほほう」
「なんだろ?」
『ふむ、検証公?それは初耳ですね?他の皆さんは?』
(ふるふる)
『どういうことです?検証公?』
『水鏡の微次元震観測でコマインの情報経路と
その集約地が得られるかもしれません』
「それって」
「超重要情報じゃ?」
相手の本拠地に繋がる情報?
『リレー方式であるがゆえに?』
『そうです、第二次大航海時代と連携すれば
相当程度の事が判明するかと、
今、水鏡はその可能性に騒然となっております、
ご覧になりますか?』
『お願いします』
(ぶぅん)
『これってそういう事だよな!!』
『あぁそうだ!!上流方向になればなるほど!!』
『継続時間と!!』
『頻度が増えるっぽいぞ!!』
『ってことはだ!!』
『上流の中で!!受信と思われる微次元震観測量が!!』
『最大頻度で総継続時間が最長のトコが!!』
『コマインの情報重心?つまりは?中心に!!』
「……大興奮」
「先ほどとの落差が」
『逆に!!』
『下流に分岐せずに!!』
『流れるのであるならば!!』
『命令だ!!』
「めっちゃ息あっとる」
「全員ゾーン入ってますね」
『これ?報告案件と命令案件が増えれば増えるほど?』
『精度があがるのでは?』
『あっ検証公が陛下に実況してるって』
『あっ陛下!その線でおねがいしま~す』
「かっかるいっ」
「けっこうフランクな皇宮ですぅ」
(ぶぅん)
『ふむ、よいでしょう。
では、各自その線でお願いします』
『ふむ、私からも良いか?』
「こっちからも」
「なんですかね?」
『どうぞ?、転移公』
『おそらく反対側の純科学文明は、
星間航行技術は持っていても、
コマインと同等かそれ以下だ』
「相手は一切見えないのにドンドン絞られていくな」
『ほほぅ、理由をお伺いしても?』
『うむ、コマインが次元震にだけ無防備なのが証左だな、
我々もコマインの強引極まる手法でのゲート生成で
こちらの転移にも微小ながら影響があったからこそ、
次元震の存在に気付いたのだからな。
今後、我々の次元震観測情報を元にした行動に、
コマインが対応し始めた場合、
その推測はほぼ事実として考えてよいだろう』
「なるほど、敵から教えられたと」
「そして敵自身はこちらがヒントを与えない限り気づかないと」
第5分隊長イクサバ中尉と第3分隊長オオトリ中尉は頭脳派だなぁ。
『たしか、あちらの転移技術の再現実験は
もう終えられたのでしたね?』
『うむ、万一を考え北天0時帝国門周辺星系で行った、
結果をみるかぎり、あのような事故が起きるレベルではなかった』
「わりかし慎重派?」
「ぽいなぁ」
『我々にとっては有用ではないとお伺いしてますが?』
『うむ、我々からすれば非効率かつ強引極まりない手法であった、
まぁ、マナがない場合はそうするしかないのであろう手法でもあった』
「あ~そういった影響があるのか」
「マナの有無で要所で差がちょこちょこ出てきますわね」
純科学文明と科学とマナ両立文明の差かぁ。
『その点は大きな安心材料の一つですね』
『うむ、今後は新たな敵が現れたとしても、
次元震観測情報である程度は相手の実力が類推できるだろう。
以上だ』
『ありがとうございます、
さて、あとは各自で動いてもらいましょう、
お願いしますね、解散』
「とまぁ、こんな感じで第二次大航海時代はスタートした」




