第28話 オレ、けっこう苦労性なんだ……
「そもそもが帝国門周辺50光年の星系は、
将来の副都化が約束されているようなものだ。
特に位置的にもコマインから遠い4時6時8時はそうなる。
これはわかるな?」
「ふむ、そうならない方が難しいな」
「そうですね」
「まぁ間違いないよなぁ」
戦線から離れる方向にある、
中核領域とほぼ同等の好立地領域だからなぁ…
「それであるがゆえに、
まずは流通の面で問題が起きた、
そしてコレは守護宮で解決したわけだが
帝国の星間流通に関し具体的な解説をしておこう、
『帝国流通網』」
各帝国門を起点として50光年ごとに物資集積港が置かれ、
全長55~60kmの基幹輸送船が寄港往来している。
物資集積港から各星系への流通は、
安価汎用用途なら拠点艦産のどんがら船や民間の同等船。
専門職の強い用途や高価値用途なら民間の各種専用船が担っている。
旅客用途や緊急輸送でもない限り、
基本的にはこのルートを通るため。
基幹輸送船の往来スケジュールが物資輸送のリードタイム根幹となる。
時間的にもっとも帝国中核より遠い、
帝国本土外縁領域であれば月に1隻というのも珍しくはない。
「あれ?帝国本土外縁の方が田舎扱いなの?」
「えっそうなんですか?」
帝国門マジックというやつか?
「うむ50光年転移10回が必要だからな?、本土外縁は。
そして50光年転移には原則72時間の準備時間がいるんだ」
「うぇ?それってかなり重要な気が?」
転移後に使用制限時間がかかるんでなく、
転移前に準備時間がかかる方式なんか…
よくよく考えるとワープとジャンプどちらなのだろう…
「うむ、とてもとても重要だな。
ただ、解説がとても長くなるのでなぁ、
今はそうだなぁ、マナクリスタル搭載数を左右するほど、
艦船の設計根幹部分が理由でそうなっていると。
そう理解しておけばよいぞ?」
「ふむ、となると最低でも片道30日もかかると」
だから帝国門と帝国門の中間領域は田舎になるわけか。
「行きは帝国門投射だから必要時間は順番待ち時間だけだがな?」
「あぁ~だから帝都帝国門が……」
「うむ、超渋滞した」
「それで星間物流庁長官が瀕死に……」
「宇宙軍をせっせっと戦場に撃ち込んでる横で
拠点艦と似たようなサイズの巨艦が数万隻待ってるからな?」
「「「……えっぐいソレ」」」
「まぁその問題も守護宮で解決した。
そう流通の問題だけはな?」
「というと?他にも問題がありそうな言いぶりだったけど?」
「うむ、そうだ、数多あるが基本的には一つに集約される。
つまりはだ、野心を持つ者にとっては、
己が生業における己が一大決戦地なわけだ。
この帝国門周辺50光年星系はな。
それが企業であれ、
犯罪結社であれ、
思想団体であれ、
信仰団体であれ、
その一点だけは共通するということだ」
「「「「「「「「「……あぁ」」」」」」」」」
「まぁ企業は法で粛々と対処すればよい
その数が多くて、とてもとても各星系首班の皇族は大変そうだが」
「ん?星系首班は皇族なんですか?」
要所要所に女帝回避した皇族が配置されてるなぁ。
「うむ、原則皇族が担うぞ?首班というより監査役が実像に近いがな?」
「じゃぁ政府は現地帝国人?」
「首班側近衆以外はそうだぞ」
「なるほど、監査役……」
「皇族以外はなんだかんだ汚職やら反逆やらあるからな?
そこらへんはわりと普通だぞ?」
「反逆は普通じゃない気が……」
帝国暗黒面にいまだ馴染めぬ第4分隊長ナカニワ中尉と
「問題は犯罪結社と思想団体に信仰団体だが、
帝国はこれらを区別しない。
人類の敵であるかどうかだけで判別する。
わけだが、宇宙に出ない限りは我々の目からは逃れられない。
なら彼らは?」
「まぁ、宇宙にでるわなぁ」
法的には無罪の共和国国民でさえ…あの顛末だからなぁ…
「それが、『宙族犯罪者』」
帝国領域で宇宙空間での武装犯罪者は宙族と呼称される。
マナ接続方式の文殊と根源を使用すると、
帝国魂魄式AIに即時把握されるため、
使用船でこれらは使用不可能である。
つまりは星系内活動しかできない。
マナトリガー仕様の武装も根幹術式に、
起動時マナ接続認証が必須なため、
純科学仕様の武装のみが搭載可能である。
このため利潤性の強い犯罪者は、
宇宙空間戦闘は可能な限り避ける傾向にあり、
対象の寄港時艦内潜入と出港後艦内制圧が代表的な手段となっている。
政治色の強い犯罪者は純科学仕様武装で、
マナ転化フィールドを抜く必要火力を求め、
使用船のサイズがスケールで5倍、
体積で125倍以上に肥大化する傾向にあり、
植民星系艦隊に対し圧倒的に不利であるが、
その挑戦はそれなりの頻度で繰り返されてきた。
「というわけだ?」
「いろいろとハードル高いなぁ」
「それでもやる人はいるんだ」
あんな巨艦に1/5火力縛りで挑むとか相当にハードル高いわ…
「帝国は法治国家ではなく人治国家だからな?
それが受け入れられないとすれば、究極、銃を取るしかない。
そして銃を取れば当然のごとく撃たれる。
それが人治国家たる所以だからなぁ」
「不満があれば武力でもってなり代わって見せろと……」
帝国暗黒面の最たる部分だなぁ…法治否定は。
「うむ、一応は最高裁や立法局などもあるが、
それらはあくまで女帝を説得する材料であって縛りではない。
勿論、それらにどう女帝が返答し判断したか?は、
原則、記録され公開はされるがな」
「なるほど、本当に人治国家なんだ」
最終的には女帝の判断が全てに優先されると…
「うむ、女帝を説得できないとき、
さらにそれを受け入れられない時は、
さぁ銃を取れ、殺り合おうではないか。
極論、そういう国家体制だからな。
無責任な放言は許さんのだよ」
「お~こわぁ」
不敬罪は無くとも不服従は重罪であるということか…
「ただ、その流儀に則り、しっかりと銃を取った者に関しては、
きちんと経緯を記録に残し公開もするんだがな?」
「つまり銃を取らなかったものに関してはそうではないと?」
あ~わりと反逆があるのはコレが原因か…
中途半端は一考に値しない…
折れて服従するなら許され…
折れずに反逆するなら敬意をもって殲滅すると…
「敬意をもって遇するに値しない。ということだな」
「贖罪兵1種が少数派なのも納得の一面だな」
表現の自由とか思想の自由とか全否定だもんなぁ
「うむ、諸君らの世代には中々受け入れ難い一面だと、
今やしっかりと帝国は自負しているぞ?その上で、
長きに渡り実績を積み上げたのは帝国の方であることも、
理解しているんだがな」
「結果が全てを物語っていると言われたら、返す言葉もないなぁ」
3000年超を統一国家として順風満帆に統治してきた帝国と…
子孫を地の底と海の底に追い込み、1000年以上地表を取り上げた愚者たち…か
「まぁそこらもあって、それなりの数の星系政府が植民星系艦隊の中だったりするんだがな?」
「なるほど、確かに其処が一番無難な選択になりますわね」
植民星系艦隊が最も防御が堅いし便利だと…
「さて、宙族を出したんだ、対極の帝国の民間船についても軽く解説しよう」
「そうですね、わりと気にかかる点もありましたし」
「うむ、『帝国民間船規定』」
純科学仕様の武装は認められているが
マナトリガー仕様の武装は認められていない
星間航行船には帝国軍工廠製民間用コアボートの使用が義務付けられている
「武装自体は認められているのですね?」
かつてのUSAに近いのか?
「そうだ、認めているぞ?
人類としての矜持を国民に忘れてもらっては困るからな」
「それで発生する諸々は、その為の必要コストと」
やっぱり?
「うむ、帝国の命題は最大公約数の幸福などではなく、
人類種の存続であるからな、従順な羊など求めていないのだよ。
銃を片手に笑顔で握手をすることのできる人類をこそ求めているのだよ」
「……なるほど」
あっコレ違う…反逆煽ってるが正解っぽい…
「ずっと気がかりだったのですが、コアボートとは?」
「ふむ、そこらへんは転移の件も含め明日、解説しよう」
「つまりは面倒な解説なのですね?」
「どうしても技術的な話題になるからなぁ
いつも最後に廻してるんだ、歴史を知らんと集中力がな?」
「なんだかんだとハム公も苦労しているのですのね」
「オレ、けっこう苦労性なんだ……」
「そっか……」




