第25話 安定してきたからこそ帝国は進まねばならない
「諸君おはよう?早速だが報告だ。
同衾した二人の間には何もなかった、とオレが証言しておくぞ?」
「その報告いるっ!?」
「そうですぅ!!」
(ニヤァ)
「後々二人はオレに感謝することだろう。
では、歴史の続きだ、西暦5851年」
「「「「「「「「「んんっ」」」」」」」」」
魔導銀河帝国歴601年
「0時第二帝国門」建造進捗75%
タウ星系
「帝国の水鏡」完成
帝国宇宙軍専用帝国門兼母港兼皇宮である
「帝国守護宮」建造開始
「第二次大航海時代」計画始動
第三次生存戦争「惰眠むさぼる機械知性との闘争」
展開戦力定数
本土艦隊100個艦隊2500万人(50年+0)
防人拠点艦6000隻6000万人(50年+2000隻)
通常地上軍10億(50年+0)
贖罪地上軍10億(50年+0)
帝国兵力累計損失数
本土艦隊70個艦隊分14万0143隻1750万人(50年+10個艦隊250万人)
防人拠点艦3135隻3135万人(50年+1114隻1135万人)
独行艦3万0052隻36万人(50年+10001隻12万人)
地上軍累計戦死者数
通常地上軍22億(50年+1億5000万)
贖罪地上軍12億(50年+1億5000万)
エルフ総人口6000億(50年+800億)
獣人総人口2600億(50年+200億)
ドワーフ総人口3350億(50年+50億)
ハイヒューマン総人口14億(50年+2億)
地球型環境植民惑星690(50年+0)
フォーミング中惑星100(50年+100)
マナ産出内部海天体数6437(50年+450)
植民星系1194(50年+100)
人類圏重要非植民星系1114(50年+100)
到達星系26032(50年+2009)
マナ日産量9兆756億(50年+1726)
「ようやっとだ、ようやっと、
時空泡歪曲式反物質投射砲のおかげで、
ようやっと戦線が安定した
その時の映像がコレだ」
『陛下、そろそろ皇宮第一戦訓研究解析システムへ』
『では向かいましょうか』
「時空泡歪曲式反物質投射砲の初実戦投入だ」
「……ティネム帝はいつも?」
「全会戦は執務時間上、無理だが大規模もしくは激戦、
またはこのような要所戦は常にみていたな。
1会戦は2時間もあれば終わってしまうからな?」
「……そう」
そっかぁ見てたのかぁ…
『状況はどうです?検証公?』
『相手は我が方が小勢とみて堂々と第4第5惑星に向かってきました。
対する我が方も堂々と迎え撃つ構えで待ち受け、
彼我の距離15光秒直前です』
『ふむ、では当初予定通りの戦力比と』
『はっ!我が方は新編の10個本土艦隊。
彼の方は2万隻の戦列砲艦を中核としています。
従来通りであれば突撃艦1800万隻、レーザー戦艦24万隻です。』
「シールド艦はいないけど戦列砲艦がもういるんだ……」
「えぇぇ……早くないですか……」
「あぁ……早い……開戦から10年の魔導銀河帝国歴531年には
試作艦が散見され始め、540年にはもう主力となっていた。
損失が膨れ上がった理由の一つでもある」
うへぇ…30kmの巨艦新兵器を…そんな時間間隔で開発量産かぁ…
『今までの我々であれば、
100個本土艦隊で迎え撃つ、侵攻に見せかけた消耗戦強要艦隊、
つまりはいつもの陣容ですよ』
苦り切った表情の検証公…だいぶしてやられたと…
『全力で防ぎ、時に抜かれては奪われ、奪い返し叩き出す。
初戦も含め6度も抜かれましたからね
繰り返されるのも致し方ないでしょうが……』
「100個本土艦隊でも抜かれるのですね」
「そうだ、抜かれるたびに地上戦だ……」
あの地獄の防衛戦を6回も…
『えぇ……あまりに有機生命体文明との星間戦争を知悉しすぎています』
『検証公としては……やはり反対側でも行っていると?』
『そうですね、それも帝国より早い時期から
そして相手は純科学文明なのでしょう』
「ん?どうゆうことですの?」
「なんでそんなことがわかるんだ?」
第3分隊長オオトリ中尉と第2分隊長クロカゼ中尉の疑問ももっとも…
相手の向こう側は全く見えてないもんな…
『人的消耗を強いて政体と民衆への心理的打撃を
長期的戦略目標としているようですからね』
侵攻に見せかけた消耗戦強要艦隊とはそういうことかぁ。
社会心理攻撃を選択する程度には有機生命文明を理解していると…
『長駆侵攻をする前に全体の継戦力を削ぎにきていると?』
『長駆侵攻は怪しいかもしれませんが、
群集心理を突き崩そうとしているのは間違いないでしょう』
「あぁ~そういうことか~」
「厭戦感情誘発」
「そこらへんをよく知っていて効果的なのもよく知っていると」
「つまりは何度も経験があるということですのね」
先のお二人と第8分隊長クロノ中尉もご納得と。
『長駆侵攻が怪しいとは?検証公?』
『自己生存性追求が暴走したAIタイプのようですから、
こちら側は可能な限り低コストでの現状維持を狙い
反対側に勢力拡大を行う気なのでしょう』
こちら側は侵攻に見せかけた遅滞防御戦略であると…
つまり主戦線が他にあって当然の選択であるということか…
『でしたな。あの指し手は自身が苦しい時ほど、
効果的な搦め手を使ってきましたな……
つまりは反対側の文明も未だ現存しており継戦中と?』
「コマインもコマインで苦しいのか」
「……最低2正面」
「ふむ、コマインにしてみれば背後の銀河の辺境から突然殴りつけられたと」
第7分隊長カルイザワ中尉に第10分隊長オトナシ中尉と
第5分隊長イクサバ中尉も話についてきていると…
『おそらくは、そしてその選択をするということは、
反対側の文明は帝国のようには戦えていないのでしょう。
コマインが我々に適応した部分は、
反対側の文明には長年不要であったともいえますからね。
むしろ我々に適応したコマインに反対側の文明は抗し得るのでしょうか?』
『……何れにしろ我らに入念に準備できるほどの時間はなさそうですな』
戦列砲艦なしの突撃艦8隻セット艦隊に抗しきれていなかったろうからな…
おそらくは反対側は…地獄の極みっぽいな…
「ふむぅ、見えない敵の敵も考慮しないといかんのか」
「これが星間文明同士の戦争ですか」
『交戦はじまります』
『始まりましたか』
『圧勝できる筈ですが』
『戦列戦第1射全弾命中、彼の方の戦列砲艦7960隻消失』
『戦列戦第2射全弾命中、彼の方の戦列砲艦7960隻消失』
『戦列戦第3射全弾命中、彼の方の戦列砲艦4080隻消失』
『敵戦列戦第1射到達、被弾200隻、小破6、中波2、大破1、轟沈0』
『敵戦列戦第2射なし、戦列戦歪曲砲による殲滅戦に移行』
『勝敗は決しましたね』
「盾がいなければここまで圧倒できるんだ……」
「30秒で2万隻の巨艦が消失……」
「殲滅力が単純に100倍だからな?当然だ
1個艦隊でも互角以上に戦える。
逆に言えばそれ以前は3000秒つまり50分、
被弾被害を考えればそれ以上に手間取る
そこに突撃艦だったたからな?
とても10個艦隊では抗し得なかった」
「なるほど、劇的ですね」
『やはり……今をもって始めるしかないのでしょう……』
『そうですね、今しかないでしょう』
「ん?何を?」
「えらい重々しいな」
『防人統合艦隊プラン……実行するしかありませんね……』
『本土艦隊の長期遠征の支援に必須になってしまいますから、
加えて専用艦でコールドスリープ待機できる贖罪兵2種は良いとしても、
通常地上軍の一時駐留場所としても他に手段がないです』
「えっ?すっごいロマン溢れるワードが?」
「どういうことですぅ?」
『本土艦隊の増勢も……当面は厳しいですからね……』
『社会制度上、これ以上の増勢は富国に悪影響が出てしまいますから、
できたとして200個が投入の上限でしょう』
『防人統合艦隊、100個防人艦隊を皇族艦隊指揮官の元
一時統合して1個本土艦隊と同等戦力とする』
「えっ?皇族も?地上軍に皇族も?拠点艦に?」
「おおぅ確かにロマン溢れそうな光景になりそうだ」
「……良い」
「一度は見てみたいですね」
『防衛に限り……となりますが、これしかないでしょう』
『1拠点艦に……皇族と宇宙軍贖罪兵に地上軍兵士……
次代は此処から巣立つのですか……』
『そうなるでしょう』
「……巣立つ……」
「……ティネム帝……」
『相変わらず、戦没拠点艦の元配属贖罪兵の生存率は低いままですか?』
『えぇ、変わらず10年でほぼゼロです』
「「「「「「「「「えっ?」」」」」」」」」
『名誉退役できる者が出てきている筈なのに
未だ申請者はほぼゼロですか?』
『えぇ、ほとんどおりません、名誉退役するなら全員で、
そういって申請してくれません。
代わりに当人同意の元の他者による申請を制度化しました。
こちらは熱烈に感謝されました。』
「「「「「「「「「あっ……」」」」」」」」」
『こんなことになるとは正直に言って……思っていませんでした』
『いまや戦没時に遺される者すら稀となってしまいましたね』
『初戦で遺された者達の行動が影響してしまいましたから』
『えぇ、ほぼ全員が0時第二帝国門での最前線を望みましたね』
『拠点艦が沈む、その意味を彼らは初めて知ってしまった。
よりにもよってあのような凄烈な形で』
「「「「「「「「「あぁぁぁ……」」」」」」」」」
『そう仕向けた我らには……』
『そう何も言えやしないのです……そうしたいのならばと……』
『結果として……彼らは真に人類の防人となってしまった』
『おそらくは次代もそうなるでしょう』
「「「「「「「「「………」」」」」」」」」
『……ご自身の霊廟の場所はお決まりになりましたか?』
『地球の海洋上を漂流することにしました。
彼らの元人格の故地を
海から彼らと彼らの名と共に眺めるのも悪くはないでしょう』
『……そうですか、なら陛下の没後は私が名を刻んでいきましょう』
『それを請けて貰えるとは……有難いことです、感謝しますよ、検証公』
「「「「「「「「「………」」」」」」」」」
『水鏡が完成次第、実行段階に…としましょうか』
『そうですね、守護宮の事前準備もありますし』
『その間は、もうすぐ撃てるようになる帝国門要塞主砲も
封印しておかねばなりませんか……』
『残念ながら、そうなりますね、アレを使用した場合は、
攻勢防御戦略を捨て縦深防御戦略をとるでしょうから』
『ままならないものですね……』
『まことに……ですね」
「「「「「「「「「………」」」」」」」」」
「安定してきたからこそ帝国は進まねばならない
少なくとも準備はするべきである、ということだ?」
「それが水鏡と?」
「……守護宮?」
「そして第二次大航海時代計画ですのね?」
「そういうことだな」




