第23話 所詮は単一星系で構築される戦力にすぎない
「さてと、諸君らが絶句したところで、
次は諸君らの初陣相手であるホプルについて解説しよう。
コマインに比べれば、だいぶヌルイから安心しろ?」
「「「「「「「「「………」」」」」」」」」
衝撃が大きすぎるわ…
「緑の実」
「「「「「「「「「んっ」」」」」」」」」
外観が大きな樹である星間繁種船に、
まるで実のようにくっついていて実のような外観をしているため、
こう呼称されている星間繁種船とは別種の共生植物。
全長約10m重量約100tで50TWhのマナをため込んでおり、
単独機動時2.5GW50G機動10000時間に相当する。
基本的にはその特徴を生かして繁種船のマナタンク役をしている。
繁種船のマナ保持量の9割はこの植物の保持量であり、
1船あたり17万前後の個体が共生している。
光合成不可能領域にて唯一迎撃行動を行ってくる個体である。
のであるが生体術式ユニットが貧弱で、
500GWまでの最大出力までにしか対応できていない。
純マナ術式攻撃手段では内部転移攻撃手段も含め、
超高機動砲艦のマナ転化フィールドも抜けないため、
450GWで225GWのマナシールドを張りつつ、
慣性質量攻撃つまり体当たりしか有効な手段がない。
そしてたいした自爆もできない50G以上の加速には個体が耐えられないと
コマインの突撃艦と比較して脅威度はとても低い。
サイズ比性能としてはとても優秀ではあるのだが、
なお帝国駆逐艦は元々この実の為に設計された艦種である。
「……速いだけ?」
「数も多いけどだからといって?という感じですね」
「確かにコマインの突撃艦に比べるとなぁ」
「体当たりも正面衝突でもしない限りは怖くはない?」
「そうだな?ちなみにコマイン突撃艦の重量は約2万tだ」
「なるほど、それに比べれば100tでは確かに」
「「「「「「「ヌルイ」」」」」」」」
第10分隊長オトナシ中尉
第4分隊長ナカニワ中尉
第2分隊長クロカゼ中尉
第7分隊長カルイザワ中尉
第3分隊長オオトリ中尉
以上5名はとりあえず大丈夫そう。
「そしてこっちが以前出てきた奴だ、
ホプル勢力圏星系主力はこっちだ」
「赤の実」
「「「「「「「「「んっ」」」」」」」」」
ホプルの対帝国適応の結果生まれた、
基本的に星系世界樹隷下の実はこちらである。
緑の実の生体術式ユニットを増強した結果、
全長約15m重量約200tとなり、
術式ユニットは5TWまで最大出力が上がった。
5GW50G機動5000時間で最大マナ容量は50TWh
慣性質量ミサイルもしくは艦載機と見ればかなり優秀である。
最終的な火力はコマインの突撃艦には到底及ばないが、
ホプル個体の中では最も脅威度が高い。
また確認された汎用術式は多彩であり、
同種個体との連携も数多に在る。
これらは過去分アカシックレコードから有用なものを発展採用しており、
帝国もそれらに対抗手段を都度編み出しており、
結果として多彩な汎用術式が生まれている。
0.1光秒以下まで接近すれば、
質量比キルレシオがそれまでの1:∞から、
1:20まで劇的に向上する。
単一星系でも大量育成が可能なこの個体による飽和攻撃ドクトリンが、
ホプルの対帝国艦隊方針である。
逆に対ホプル帝国艦隊編成基準ともなっており、
帝国超高機動砲艦1隻に対し1,000体以下、
100m以下級亜光速航行高機動駆逐艦1隻に対し8000体以下、
500m以下級星間航行高機動巡洋艦1隻に対し12,000体以下、
1000m以下級星間航行高機動戦艦1隻に対し30,000体以下、
20km以下級星間航行戦列戦艦1隻に対し800,000体以下、
となるように編成される。
「だいぶ性能は向上したけども?」
「結局は、これくらいの数は問題なく対応できると」
「そういうことなのですね?」
「うむ、空間歪曲砲時代でさえそうだったのだからな?
反物質投射砲まで持つようになった今では、な?」
「実戦演習」
「新兵の初陣相手にはちょうどよいと」
「そういう事ですのね」
第8分隊長クロノ中尉も大丈夫そうだ。
「そういうことだ、それゆえこういうのもいるが」
「ホプル杉」
「「「「「「「「「んっ」」」」」」」」」
見た目が失われた古代地球植物の杉に酷似しているため、
そう呼称されている汎用戦闘艦相当の植物。
全長は500mから5000mと幅があるが、
その存在理由は光合成による赤い実の生命維持である。
また共生している実の術式ユニットを並列統合して術式を行使可能な、
特殊な生体術式ユニットを持ちサイズによってはEJ級の術式も行使可能だが、
光秒の壁はあまりに遠いのである。
全長500m前後で赤の実約1,000体を抱えていることから砲艦級、
全長1000m前後で赤の実約8,000体を抱えていることから駆逐艦級、
全長1200m前後で赤の実約12,000体を抱えていることから巡洋艦級、
全長1600m前後で赤の実約30,000体を抱えていることから戦艦級、
全長4700m前後で赤の実約800,000体を抱えていることから戦列戦艦級、
と呼称されている。
全長1700~4600mの個体は確認されていないため、
戦列戦艦級はEJ級術式行使(8EJ前後)の為の特殊育成個体と推測されている。
航行方式としては広義のマナ慣性スラスターであり、
耐G機動性は5G程度である。
星系世界樹周辺の惑星地表で育成されている。
「さして意味はもうない」
「なるほど」
「結局は純マナ術式、距離に弱いと」
「距離遅延時間の無いマナ通信であれば、
観測遅延時間の問題は解消している筈だが、
そもそも届く攻撃手段が無い」
「コマインとは真逆で、それが致命的ですのね」
第5分隊長イクサバ中尉も大丈夫だな。
「なので、赤の実をどう諸君らの元に届けるか?
を模索し続けているのが近年のホプルだ」
「ホプル飽和攻撃ドクトリン」
「「「「「「「「「んっ」」」」」」」」」
帝国艦隊と相対する敵にとって最も大きな障害は、
交戦距離15光秒10光秒8光秒6光秒である。
それに対し純科学文明のコマインは様々な無理を重ねて、
その距離で撃ち合う戦力を得たが、
純マナ文明であるホプルにとっては絶望的な障害である。
コマインのように数多の星系を束ねた物量も、
規模拡大もホプルには成せないからである。
ホプルにとっての適正交戦距離は0.1光秒3万km以下であり、
この距離をどう詰めるか?という幾多の試行結果を
過去分アカシックレコードから参照したホプルが、
近年選択しつづけているドクトリンが、
赤い実による飽和攻撃ドクトリンである。
「他にもこんなのがいっぱいいるんだが」
「偵察樹」「採集樹」「生産樹」
「「「「「「「「「んっ」」」」」」」」」
偵察樹
ホプルの星系内哨戒偵察を担う植物群、
その生態はとても多彩である。
厄介なのがその生命活動停止自体が最速最良の通信手段であることである。
もちろん星系内マナ通信網も厄介ではあるのだが。
採集樹
宇宙空間にも適応するホプルの資源採集プラント相当の多彩な植物。
収集した各種資源は実に詰め込み星系世界樹の元に送り出す。
と同時に星系哨戒任務も担っている。
生産樹
赤の実を主に他にも多彩な実を育成しているホプルの製造プラント相当の多彩な植物。
ホプルフォーミングされた惑星地表に広く分布する。
「所詮は単一星系で構築される戦力にすぎない」
「そうか、銀河上面に広く点在はしているが」
「それらは全て星間文明ではなく星系文明相当であると」
「そして星系文明としての評価尺度がコレだ」
「星系世界樹ステージ1」
「「「「「「「「「んっ」」」」」」」」」
繁種船が惑星地表降着後だいたい3万年後の状況、
降着惑星の公転軌道修正、自転軸修正、自転速度修正、環境改変等々の
ホプルフォーミングが概ね終了した段階。
惑星外への進出は調査目的だけでとても限定的ながら、
元繁種船の世界樹頂部に宇宙港湾相当の機能と軌道エレベーター相当の機能を有する。
一日あたりマナ生成量も10億以下である。
本土艦隊高機動戦隊1個戦隊が通常は殲滅に投入される。
「かなり古くから居ついていたのか」
「世界樹という名付けも妥当と思える内容だ」
「なるほど、環境改造前提の移民船ですか」
「居住可能惑星にできるから点在できるほど拡がっていると」
「星系世界樹ステージ2」
「「「「「「「「「んっ」」」」」」」」」
繁種船が惑星地表降着後だいたい4万年後の状況、
降着惑星の大気環境下ホプル文明生態系がほぼ完成し、
1日あたりマナ生成量が100億前後の状態で、
星系内惑星でホプルフォーミング可能な惑星のフォーミングに着手している段階。
だいたい星系内2~6の惑星が対象となっている。
小規模ながら宇宙軍相応の共生植物群「ステージ2ホプル艦隊」が存在する。
本土艦隊高機動戦隊2個戦隊が通常は殲滅に投入される。
「……1万年でこの差?」
「わりと発展速度が遅いな」
第10分隊長オトナシ中尉は俺と同じく注視中かな?
「星系世界樹ステージ3」
「「「「「「「「「んっ」」」」」」」」」
繁種船が惑星地表降着後だいたい5万年後の状況、
星系内用小型繁種船が星系内フォーミング済星系に降着済で、
1日あたりマナ生成量が星系全体で200億を超えている段階。
宇宙軍相応の共生植物群は質を高めた「ステージ3ホプル艦隊」が存在する。
本土艦隊高機動戦隊4個戦隊、
もしくは1個防人艦隊または1個遠征植民星系艦隊が通常は殲滅に投入される。
「5万年でも1個防人艦隊にも対抗できないのですね」
「感じる圧力がコマインどころか鬼よりも弱いな」
「星系世界樹ステージ4」
「「「「「「「「「んっ」」」」」」」」」
繁種船が惑星地表降着後だいたい6万年後の状況、
全降着惑星の大気環境下ホプル文明生態系がほぼ完成し、
星系内有用資源の収集と宇宙環境下ホプル文明生態系の構築が始まっている段階。
宇宙軍相応の共生植物群は質量とも高めた「ステージ4ホプル艦隊」が存在する。
本土艦隊1個分艦隊、
もしくは10個防人艦隊または10個遠征植民星系艦隊が通常は殲滅に投入される。
「6万年でようやっとこか?」
「しかし比較対象がコマインでは……」
「星系世界樹ステージ5」
「「「「「「「「「んっ」」」」」」」」」
繁種船が惑星地表降着後だいたい7万年後以降の状況で、
星系内開発が概ね終わり星間繁種船の連続生産に入っている段階。
宇宙軍相応の共生植物群はさらに質量とも高めた「ステージ5ホプル艦隊」が存在する。
本土艦隊1個艦隊以上が通常は殲滅に投入される。
「ここに至るまでに7万年ですか」
「ほんとうに古くから居ついていたんだな」
「星系世界樹ステージ6」
「「「「「「「「「んっ」」」」」」」」」
繁種船が惑星地表降着後だいたい7万年後以降の状況で、
星系内開発が概ね終わり星間繁種船の連続生産を止め、
過去分アカシックレコードの情報から宇宙軍相応の共生植物群の増強に入っている段階。
宇宙軍相応の共生植物群は帝国艦に対応を始めた「ステージ6ホプル艦隊」が存在する。
本土艦隊2個艦隊以上が通常は殲滅に投入される。
「そして防備を固めた状態であっても」
「2個本土艦隊で問題ないと」
「どうあがいても所詮は単一星系戦力だからな、
とはいえ、情報に関しては星間どころか銀河間文明だ。
欺瞞の為に過去にホプルに対して使用した最大戦力を超えないよう、
侵攻星系と投入戦力は常に調整されている」
「ふむ、何処に如何伝わるかわかったものではないと」
「そうだ、コマインの向こうにいるだろう人類の真の敵に、
もしくは他の銀河にいる人類の真の敵に、
こちらの保有戦力を知られたくはないからな」
「他の銀河?」
「うむ、うしかい座矮小銀河から、
40万年かかる天の川銀河で確認された、
最も古いホプルは居着いて50万年経っていた。
居着いたはいいが保有する共生植物が不足していたか、
事故でもあったかステージ1半ばで頓挫していたことから、
試験船だったのであろうがな。
次に古いのが30万年前、これもステージ1止まり。
その次が繁種源星系11の10万年前、
つまり出立が50万年前、
試行錯誤の結果と改善の関係が成り立ってないからな。
他の銀河で、もしくはコマインの向こう側で、
成功例が出たから本格的に開始したのだろう。
つまりは最初の成功例の惑星降着は、
50万年以上前から70万年前までの間ってことだな。
うしかい座矮小銀河から大マゼラン雲なら61万年くらいの距離だ」
他の銀河に向かっていない筈がないだろう?」
「うむぅ、なるほど」
「かようにホプル自体は恐れる必要はないが、
共生相手次第で脅威化する事を帝国は確信している、
ということだ、そのための南天と北天の帝国門だからな」
「万一の備えが主であって富国は従なのですね?」
「そうだ、富国のみであれば赤道面だけで事足りるからな。
さて、そろそろ良い時間だな?ホプルの解説まで終えて、
キリもいいことだし、今日はココまでとしよう。
あとは昨日と同じく施設内に限り自由行動だ、
資料映像等も今日の歴史分までは閲覧許可しておく。
明日は歴史の続きだ、では解散」
「「「「「「「「「りょ~か~い」」」」」」」」」




