第177話 なかなか良い刺激になりますね、あのような謀略があるとは
『司令、通商破壊戦司令部よりの報告書です』
『感謝しますよ、カーム』
『年間損失率はどちらも2%前後のままですね』
『相手もこの程度なら丸受けする気のようですね』
「イーリング司令のトコか」
「通商破壊戦司令部…?」
「あらたに発足させたのか」
「襲撃スケジュール管理が大変そうだもんな」
『4343星系の太陽炉建造進捗はマイナスにはもう届かないですから』
『40PJ9.6Mtの誘導弾とはいえ…質量融合弾とは比較にならないですからね』
『1t質量融合弾の最低火力は33.75EJ8100Mtにもなりますからね』
「桁が4つも違ったのか…」
「さすがは地殻破砕ドクトリンの主役ですぅ」
『まぁ原理上、歪曲相手だと1/3以下になりますが…そこはしょうがないことですね』
『エネルギー効率的にはマナ転化がかなり優位なんですよね?』
『許容量が一桁違いますからね、相手の歪曲は次元潜航の前提初歩技術ですし』
「あ~帝国の次元潜航は歪曲力場技術の先にあるのか~」
「歪曲の先にあるのが孤立するとはいえ無敵になれる技術ですか…」
『とはいえ質量弾は戦列砲艦も同じですよね?』
『えぇそうです、アレも同じく歪曲には弱いです』
『なのに、こちらで歪曲を防御に使わないのは何故なんです?』
『先に運動エネルギーを殺されるのはマナ転化でも同じというのが1つ』
『その点は歪曲と同じというわけですか』
『そうです、そして歪曲は歪曲を防ぎにくいというのもあります』
『同じ系統の干渉技術になるからですか』
『ええ、そしてマナ転化なら内部への歪曲干渉を完全に防げるからですね』
『そうでしたね、元が鬼軍の短距離転移による艦内侵入防止策でした』
「より上位で別系統の技術ということですね」
「そもそも魔法だしな…」
『ふむ、最初は混乱していた通商破壊戦司令部の運用もだいぶ…』
『はい落ち着きました、報告内容を見るに』
『最初はどうなることかと思いましたが…』
『司令麾下とはいえ初の贖罪兵のみで構成される司令部ですから』
「トラブったのか?」
「珍しい話ですわね」
『民族性と地域性の対立度合いがあそこまで深刻だとは…』
『可能な限り局所地域で1隻に纏めて配属する理由を思い知りました』
「あ~なるほど…」
「そういう問題が出にくいようにしてただけなのか…」
『司令部要員自体は試験運用戦隊からお三方に選んでいただいたのですが…』
『艦隊公に検証公とハム公でしたか』
『えぇ、今回はどうしても贖罪兵のみで構成してもらう必要がありました』
「こういうことは初と言ってたな…」
「通商破壊戦隊自体が初の試みだしな…」
『爆撃戦隊の攻撃手段はまだしも小型艦ドッキング運用でしたし…』
『えぇ、通商破壊戦隊では次元潜航前提の30光秒射撃でした』
『どちらも本土艦隊と独行艦では全く馴染みがありません』
『また、皇族も作戦司令部要員にまわせるほどの余裕はありません』
『加えて緻密な襲撃スケジュール管理が常に必要となります』
『ということで、どう考えても適任は試験運用戦隊経験者となります』
「なるほど…そもそも代わりがいないわけだ」
「してもらうしかないということですわね」
『第1防人統合艦隊から出身をバラして試験運用して正解でした』
『試験運用規模も最終的には拠点艦50隻分まで拡大してました』
『えぇ、本当によかった、当初のまま10隻分だったらと思うと…」
『そして司令の麾下の司令部ということで組織したわけですが…』
『えぇ、ああも派閥争いに明け暮れるようになるとは…』
『各参謀班指揮下で文化圏ごとに纏めるまでは機能不全の極みでした…』
「いまやもう懐かしい国連状態なわけですか…」
「それはモメるな…モメない方がおかしい…」
『たしか、原因が同郷同族意識からくる無意識的利益代弁者思考…でしたか』
『問題が司令部内に留まってるうちに対処できてほんとうに良かったです』
『ハム公、検証公に加えて陛下にまで手助けして貰いました』
『流石の御見識でしたね、すぐに問題の本質を看破なさいました』
「ティネム帝の専門分野ですぅ」
「随分と分析済みなんだな」
『陛下のご専門ですからね、まさか明瞭に明示化することが大事だったとは…』
『我々は分け隔てなく参謀団を編成しましたが、むしろソレが悪手だったなんて…』
『今の通商破壊戦司令はカリフォルニア派閥からでしたか?』
『そうですね、1年後の後任は深圳派閥からです』
『派閥所属艦が多い順で持ち回りでしたね』
「派閥を容認して所属艦を明らかにしたのか」
「ふむ、どう別れているか皆が判ればよいという判断か」
『所属派閥は各拠点艦に選ばせましたが…』
『えぇ、かなりバラけましたね』
『なのに結果として秩序が生まれました』
『明瞭な均衡が秩序を生むようです』
『同じ元地球人類なのですよね?』
『その筈です、統合艦隊司令職を頂いた折に聞いてはいましたが…』
『ほんとうにココまでバラバラだったんですね…』
『えぇ、ですから皇族司令はお飾りではいられません…必須であり要ですから』
『字義通りの意味で要だったんですね…』
「そうか、統合艦隊司令職が皇族である理由はソレなのか」
「字義通り飼い主として其処にいないといけないんですのね」
『これでもマシな筈なのですよ?帝国に協力的という共通項があるのですから』
『そういえば協力的とはどういった意味になるのですか?』
『まずは所属するしないに関わらず国家、社会、組織に敵対的ではない行動様式ですね』
『所属するしないに関わらず…ですか…従順なる羊でいることを選択するわけですね』
「なるほどなるほど~」
「わかりますぅ」
『そうです、そして次に信念信条願望が帝国の内に明確に存在する場合ですね』
『なるほど…地上軍志願者がわかりやすい例ですか』
「あぁ、そういうことか」
「…納得」
『数はそう多くないですが…求道者はまさにそうです、あとは共感性の高さですね』
『共感性の高さですか?』
『言い換えると流されやすい人ということですね』
『なるほど…情に絆され易い人とも言えますか』
「道理で」
「否定できないなぁ」
『おかげで献身が過ぎるという問題も出ていますがね』
『星系開拓をしていた艦で顕著な傾向ですね…』
『20数年内の新造艦であれば、そこまで問題ではないというのが救いです』
「共に過ごした時間の長さ次第なわけか…」
「古参になればなるほどに…」
『50班300名とわりと大所帯の司令部となりましたが、なんとかなりました』
『司令部施設はこの拠点艦マルタにありますが…』
「まぁ旗艦に用意するよな」「当然」
『えぇ、殆どが転移ポーターで通い勤務ですね』
「通い…」「司令部のある艦で寝泊まりしない司令部要員…」
『全員が第1防人統合艦隊所属です…』
『転移マナチャージング中でもないかぎりは常にそれができますね』
「だからって…」「通いですか…」
『宿泊設備も用意したのですが…』
『まぁ仮眠室もしくは個室として使ってくれるでしょう』
「個室?」「なぜ個室?」
『司令部なのに議場があるんです…』
『ずいぶんと愉快な空気のようですね』
「議場?」「なんで議会でもないのに議場?」
『司令席が議長席なんです…』
『まぁ全体の調整役ですからね?』
「いやいやおかしいから」「なんか変な事になってますぅ」
『議場の様子が常に配信されているんです…』
『派閥所属の皆さんも気になるでしょうからね』
「それ議会中継じゃ…」「もう司令部ではないような…」
『議題は襲撃時間と軌道の配分です…』
『派閥所属の皆さんの為にも熱が入りますね』
「議会民主制司令部…」「斬新すぎる司令部…」
『裏取引や暗号サインが盛んなんです…』
『なかなか良い刺激になりますね、あのような謀略があるとは』
「だから個室…」「密談の現場かよ…」
『笑顔で握手しながら裏で殴り合ってるんです…』
『実に見応えがあります』
「まて…なぜ見ている?」「これ見てますよね?」
『検証公がとてもとても上機嫌なんです…』
『新たな皇族資金源を獲得できましたからね』
『古代民主制再現ドラマ”黙示録”…本土で大人気ですね…』
「あ~またもや検証公だ!?」
「売れるネタと判断してまたもや成功したのか…」




