第129話 察しの通りだ、恐ろしいほどに住みにくい
「とまぁ遅滞戦略方面軍はこのような感じだった」
「強襲独行艦の負担があまりに大きすぎないか?」
「想像を絶する過酷任務だったのですが…」
「そう案ずるな、これには意味があり、そして時間の問題だ」
「ん?それはどういうことだ?」
「通信封鎖戦術”闘技場”の意味することは単なる通信封鎖ではない」
「というと?」
「指し手としては偵察戦力として送る戦力、小艦隊が途絶するなら次は?」
「…当然、大艦隊か…」
「では大艦隊を送るだろうか?
我らは40個艦隊しか展開してなかった筈なのに?
突然4346番星系が連絡途絶したのだぞ?
そして送る小艦隊は全て連絡途絶するのだぞ?
小艦隊に緊急報させる間もなく殲滅できる戦力に?
待ち伏せされたと判断するしかないな?」
「無闇には送れないですわね…」
「そうだ、少なくとも4347番星系との距離4.5光年分、
つまりは4,5光年は待つだろう、通常通信が届くはずだからな?
だが、それはすでに妨害電波で上書きしてあるがな?」
「えっどうやって?」
「強襲独行艦で通信電波の通過予定位置に短時間妨害電波源を撒いてるだけだ、
それで通常電波の中身を潰せるというわけだ」
「そうか…それができるのか」
「そこで初めて指し手は検討するだろう、
1個大艦隊を投入するか?
もしくは偵察を諦め反攻艦隊本体を全て投入してしまうか?
その2択をな?」
「1個大艦隊なら…本土艦隊で殲滅はできるな…」
「通信されても妨害はできる…」
「まぁ割と妨害は手間でな?現実的にはもう使えない」
「ほぇ?なぜですぅ?」
「指し手もしっかり工夫していてな?
彼方此方に通信用の微小ゲートを開いて通信を拾おうとしているのだ、
そこに対する短時間妨害電波源を撒くだけでも隻数がな?、
そして次に送られてくるであろう大艦隊以上の戦力、
そこから発信される通信の出力は桁違いだろう、
ゆえに、現実的にはもう使えない」
「となれば…大艦隊以上の戦力が投入されてから4.5年後には?」
「通信封鎖は破れるということだな?」
「本来なら小艦隊が大出力通信を?」
「する筈だったのだろうな?4号がおそらくソレを阻止しているが…」
「大艦隊相手では不可能か…」
「そういうことだ」
「たぶん…1度だけ1個大艦隊投入か…」
「そうだな、おそらくはソレを選ぶだろう」
「その次は…」
「そうだ集結させた全戦力を全て送ってくるだろう」
「なるほど…時間の問題か…」
「そうだ、過酷な激戦は約束されている、
そしてそれをこそ狙っているのだ」
「狙っている?」
「そうだ、そのための闘技場だ」
「必要戦力を過大に判断させようとしている?」
「そうだ、4号の想定をして対策をしても連絡は途絶する、
それは小艦隊を一瞬で殲滅できる戦力の可能性だ、
そして強襲独行艦は常にして神出鬼没だ、
となれば?」
「コマインとして考えられる最悪は電磁波吸収を持つ数個本土艦隊…」
「ゆえに出来得る最大戦力を一纏めにして運用することを?」
「強いられるのか…」
「そして問題になるのが兵站だ」
「そうか…焦土戦略で現地補給はできない…」
「輸送が必要になるな?」
「あぁ必要になるだろう」
「ソレを狙うのが強襲独行艦だ、
もしくは存在しない隠密可能な本土艦隊だ、
それはわかりきっている、ではどうするのだ?」
「護衛をつけるにも…本体と同レベルでないと…安心できない…」
「そうだ、それだけで必要戦力2倍となる」
「そして補給量もさらに嵩むのか…」
「当然、667番星系に向け進めば進むほど?」
「所要時間と移動消費分が膨れ上がり…」
「時間当たり補給量はどんどん目減りしていく…」
「なるほど…水鏡の範囲内に最大戦力を引き込みながらも
遅々として進ませないということですか…」
「そうだ、水鏡範囲内であれば我らが断然有利だ、
その上で進ませない、全てはその為だ」
「つまりは…本土艦隊は…」
「囮だ、逃げ回り時に反撃しアチコチに引きずりまわすのが役目だ」
「知恵と工夫と数で立ち向かってくる指し手相手にか…」
「指し手の優秀有能ぶりについては先の例が示す通りだ」
「際立っているよな…」
「奇抜な発想…かなり多いですよね…」
「その為の焦土縦深2500光年ということだ」
「その為に全て使えないようにしたのか」
「さすがにそれだけあれば問題解決の時間が取れるだろうがゆえにだな」
「なるほど、そう考えると本土艦隊の負担も…」
「時間の問題…つまりは今か後かなだけという事ですわね…」
「当初は士気の問題を懸念されていたが、結局、問題なかった」
「ん?本土艦隊は電撃戦以外はさして戦闘していなかったのでは?」
「そうだ、籠城戦期間中、艦隊戦は、数度しか生起していない、
侵攻初期の電撃戦も常に数的優位の艦隊戦だ」
「それなのに問題なかったのか?」
「地上軍と強襲独行艦に触発されたというのもあるが…
侵攻と言えど本質的にコレは防衛戦というのが大きかった」
「あぁそうか、侵攻とは謳っていても…全部焦土星系にした…」
「そこを逃げ回りながら撤退防衛戦を行う…」
「確かに防衛戦だな…」
「当然、防ぎきれなかったならば最終的には帝国本土が戦場だ」
「なるほど…」
「そりゃそうだよな…」
「当然、帝国本国軍人にも故郷がある」
「これは?」
「各惑星に一つある星都庁舎の例だ」
「割と小規模なんだな?」
「大部分は地下居住区だからな?」
「宇宙港もホントに大きくはないんですね」
「うむ、基本は短距離転移だからな」
「というかマジで広域の交通系すらないんだな…」
「そうだ、地表はマナ生態系に覆われてるから変化に乏しい」
「地下なんてさらにそうだろ?」
「というわけでな?帝国本国人が故郷を思い浮かべる際は、
これらの風景となるわけだ」
「螺旋塔系居住区ですぅ」
「螺旋塔系はこのように断崖系と融合させたり
塔のサイズをこのように変化させたりと割と幅が広い」
「螺旋になってないのもあるのか」
「各星の固有建造物とも言えるからな、かなり多彩だ、
まぁ元はこんなだがな?」
「うぉぉ、これはこれで雄大だなぁ」
「元の地形をきっちり到達点指定の歪曲砲でチマチマ削ったわけだ」
「あっこれ俺らの仕事なんすね…」
「うむ、そういうことだ、がんばれよ?んで次だ」
「これは断崖系ですね?」
「うむ、わりと広範囲に造成しやすいというのもあってな?
「たしかに一方の方はかなり大規模だな」
「その為、入居しやすいというわけだ」
「なるほど」
「これも…俺らの仕事なんすね…」
「うむ、そういうことだ、がんばれよ?んで次だ」
「樹系か…」
「一方がなんかもうとんでもない事に…」
「これ住居…なのか?」
「植民後期ともなるとこのようにデザイン重視で1本造られる」
「ほう?その理由は?」
「その星のシンボルとしてだな、かなり造形に融通がきくからな?」
「それにしたってこれはあまりに…」
「察しの通りだ、恐ろしいほどに住みにくい」
「ですよね…」
「まぁだいたいが遊興施設として使われている」
「ですよね…」
「もう一方の小さいのは?いや大きいんだけど他と比較して…」
「こっちは実用性一辺倒だ、1年でこうなる」
「はっや」
「開拓初期用の追加地下開発拠点として使われているからな」
「じゃぁこっちは住みやすいんですね?」
「………もう一方に較べれば…」
「……樹系以外だと?」
「樹系の入居に抽選はない…ということだ」
「そうか…」




