第121話 これだけやって誰も死んでいないんだ、地味だろ?
「とまぁイーリングの執務はこのような感じだ、
マルタの内部コロニーその後端部、
本来なら艦中枢区画への唯一の入り口である最終隔壁ハッチ、
それを取り囲む形で新設された、
皇族司令官と司令部要員39名の職場であり、
生活空間でもある司令官舎で行われる執務、
それはどちらかといえば軍政寄りだ、
当然だ、その艦隊、100の文化の集合体、それが4個もあるのだ」
「うわぁ…」「それは面倒だ…」
「とはいえ、防人の覚悟を其々が持つ集合体だ、
統制に不安はない、統制には…な?」
「やめてくれ、その言い回し…不安になるだろ?」
「そうですぅ不穏表現ですぅ」
「見てればわかる」
(ぴこん)
『むみー!部下が呼んでいるみー』
『警邏中の部下から?』
『そうだみー拠点艦仙台だみー魚が旨いみー』
『あら、よかったわね?』
『ちっちがうみーこれは任務だみーご相伴ではないみー』
『じゃぁ、なにで呼ばれたの?ミー?』
『”我ら仙台民に囲まれる、海鮮が相変わらず手強い、支援されたし”だみー』
『よかったわね?あそこの海鮮モノ、美味しいもの』
『!?謀ったみーイーリン!そうだみーミーは海鮮モノの為に仙台に行くみー』
『足りないのは胃袋なのね?ミー?』
『そうだみー、仙台民はいつもそうだみー、恒例行事だみー』
『ふふふ、待たせちゃいけないわね、いってらっしゃいミー』
『行ってくるみー、官舎のポーター借りるみー』
『えぇ、いいわよ、カームお願いできるかしら?』
『はい、いま許可だしておきましたよ』
『ありがとうみーいってくるみー』
(しゅたたた)
(かちゃ)
(しゅた)
(かちゃ)
『行かれましたね』
『そうね、けど思わぬ副産物でしたね』
『そうですね、警邏が慰問にもなるのは助かります』
『警邏の度にちょっとしたお祭りですからね』
『家猫師団、その師団員は籠城戦中に縁があったものが殆ど』
『どこの艦であれ、誰かしら戦友がいますからね』
『今度は私たちが支え守るのだという彼女たちの意志』
『我らがここに在る理由、しっかりと思い出させてくれます』
「そう、ミーリングはマルタに駐留していた一般師団の師団長だった、
軍団長への昇進打診を蹴り、家猫師団初の師団長として志願した」
「そうだったのか」「もうながい事、戦友ですのね」
「うむ、そしてそれは半数の各艦も同じなわけだ」
「故にお祭りと」
「そしてそれは止めることはできないというわけだ」
「なるほどですぅ」
(ぴこん)
『到着するようですね、司令、4324番星系で哨戒独行艦が見つけた、
重原子堆積惑星に方面第4統合艦隊64番艦”マニラ”が、
もうそろそろタッチダウンします、哨戒独行艦からの中継みますか?』
『そうですね、あまりこういう機会はないですからね』
『我々は地殻破砕光景は見慣れていても』
『採掘光景は見慣れていませんからね』
「そういや俺らも」「あまりそういった地味な姿は」
「見ていなかったですわね」「まぁ地味だからな?」
『しかしよく残っていましたね』
『質量融合弾で破砕した層の下に散乱していたようです』
『他惑星のコアだったものですか』
『そのようです、溶けず、抵抗で沈むこともできず、ただ在ったようです』
『つまりは、破砕した層はその惑星のマントルだったものだと?』
『概ね1000万年前のモノだと』
『なるほど、納得です』
「自然物だったのか」「そしてコマインも知らなかったと」
『マニラ、マナドライブタッチダウンシーケンスに入ります』
『見えてきましたね』
「うわぁさすがに強襲独行艦サイズとは違うなぁ」
「派手ですねぇ」「ほんとに…」
『やはり、拠点艦サイズだと目立ちますね』
『転移魔法陣よりマシとはいえ…マシなだけですから…』
『採掘はすぐに?』
『麾下艦艇も収容したままですからね』
「あー拠点艦は麾下艦艇ごと移動できるのか」
「そうか、その為の拠点艦だもんな」
「そうだ、必要に迫られない限り麾下艦艇は収容したままだ」
『あぁ外に出していると危ないのですか』
『この採掘法実施は拠点艦の歴史でもそう多くはないですからね』
『エネルギー効率はあまり良くないと聞きますね』
『しかし時間効率は最良であると』
『そして対象惑星は酷いことになるというわけですか』
「ん?外に出していると危ない?」
「えっなんで?採掘するだけなんでしょ?」
「そうだ、採掘するだけだ」
『問題はやはり?』
『2惑星分の水の存在ですね、
元々の母体惑星の水は埋もれて地下水になっていたようで』
『どうりであっという間に冷えて原始海洋惑星になってしまったと』
「冷えて固まって海ができたのか…」
「つまり使用可能になってしまったと」
『それでもう一度使用不能にするのなら』
『同時にこの採掘法で多少の資源を回収しておこうと』
「えっなんで採掘すると使用不能になるんだ?」
「あれあれ?なんか思ってる採掘とは違うのか?」
「えっなにするんですぅ?」
『そういうわけです、マニラ射線軸を合わせ始めましたね』
『すでに充填してますか』
『汎用術式ユニットも起動中のようですね』
『射線軸合いましたね、即時発砲と』
「「「「「「「「「は?」」」」」」」」」
「撃った…」「それも艦首歪曲投射砲じゃないですか…」
「地味な採掘とはいったい…」「派手派手じゃねぇか…」
『第1射着弾、出力は控えめですね』
『これで表層に穴を開けるのでしたか』
『そうです、2射以降の起爆点を深めるためですね』
「また撃った…」「えっ?これのどこが採掘なんですの」
「まって…できた山が成層圏遥か上まで…」
「あぁ…すごい勢いで膨れたな…」
『第2射着弾、これも控えめですね』
『だいぶ深くまで穴が空いたようですね』
『ここまでいけば充分でしょう』
「全部吹き飛んだ…」「まじか…小大陸に近い大きさだったぞ?」
「えっこれ戦闘じゃないの?採掘なの?」
『第3射着弾、全開出力ですね』
『だいぶ打ち上げる事に成功しましたね』
『それが肝心ですからね』
「なんだこれ」「なんか綺麗になったぞ」
「えっ?狙って作ったんですかコレ?」
「けど衝撃波の粉塵…とんでもない事になってるんですが…」
「あちこちマントルが漏れてるじゃないか…」
「地表…悲惨すぎるだろコレ…」
「地味とはいったい…」
『第4射着弾、全開出力ですね』
『蒸発炉の完成ですね、打ち上がったものも綺麗にと』
『そうですね、その為に起爆は中空なわけですから』
『マニラ、重力集塵溶鉱炉術式起動しましたね』
「うっわぁ吹き飛ばしたのを回収してるんか…」
「だから艦首投射砲を撃ちこんだと…」
「そりゃ時間効率は良いのでしょうけども…」
『そして残った破片と狙いであるガスをこれで集塵すると』
『やはり時間効率の良さが光りますね』
『必要なものも拠点艦1隻ですからね」
『生成されたインゴットはどんがらで?』
『遮光結界の運用が可能になってますから』
『採掘日程は?』
『60日ほどを予定しています』
『そのころにはまた原始惑星に…』
『我らはこの方法で継続的に採掘は可能ですが…』
『そう彼らはまだ重力集塵方式には到達していません』
『かわりにコア採掘に至ったと』
『そのようですね』
「これだけやって誰も死んでいないんだ、地味だろ?」
「地味って其処で言ってたのか…」
「見た目の問題じゃないんですね…」




