1.拾得物
世の中には自分に似た人間が三人はいるらしい。
築年数数十年の単身者用アパートの一室で、くたびれたスーツ姿のまま、男は賞味期限間近の弁当を喉に押し込んでした。
そして、この世界のどこかにいるソックリさんが自分と代わってくれないかと考えていた。
弁当を食べ終え無性に酒が飲みたくなった彼は、ブレザーを脱いでネクタイを外し、コンビニに買いに出た。
短い春が終わり、梅雨の気配が迫る湿気た温い夜。
鉄むき出しの階段を降りながら、どれくらいのアルコール分の酒を買うか考えていた。
流行りの酎ハイを思い浮かべて人気のない薄暗い道を歩いていると、彼は地面で何かが弱々しい街灯に照らされているのに気がついた。
興味本位で近づいてみると、それは革製の長財布だった。
金でも入ってないかなと考えて手に取ってみたが、金は殆ど入っていない。
だが、カード類がいくつか入っていた。
良くないと思いながらそれらを順にあらためていると、驚くものが彼の目に入った。
運転免許証で、もちろん氏名住所すべてが記載されている。
長岡健一、江東区**、等々。
偶然同じ区内住みだったが、生まれ年を見ると彼よりも数歳上のようだった。
だが、そんな情報が霞むくらいの事実がそこにあった。
写真の顔が、彼とそっくりだったのだ。
似てる、というレベルではない。
彼に一番詳しい彼が見て、完全に自分だと自信を持って言える顔だ。
髪型も同じようなザンバラで、目に生気がないところまでソックリだった。
さきほど下らないことを考えていたからだろうか、彼はこの免許証の持ち主に興味を持った。
同じ顔をした人間が、どんなやつで、どんな生活をしているのか。
この偶然の巡り合わせに対する欲求を抑えられない。
同じ区内とはいえ、ここからは少し離れた場所に住んでいる。
好奇心を抑えられない彼は、免許証に書かれた住所をスマホの地図アプリに入力した。