8話「厳しい修行を乗り越えて」
「大丈夫ですか? カレッタさん」
「はぁ……はぁ、疲れました……講師の方って凄く厳しいですね……」
今はカルセドラと一緒に休憩しているところだ。
彼といる時だけはほっとできる。
それはまるでオアシス。
こういう時間だけが生きる希望を与えてくれる。
「まぁ、そうですね。将来妃となる可能性がある方への指導はいつの世もかなり厳しいと聞きます」
いやそれ今になって言う?
「先に言ってくださいよ」
「……申し訳ありません」
なんてね、冗談。
「けど! アポツティから逃れるためなら辛くても乗り越えられます!」
「ふふ、さすがはカレッタさん」
「頑張ります!」
「やる気が凄いですね」
「カルセドラ様に相応しい女性にならなくては、ですから」
「そのようなことを仰らないでください、僕はそう言っていただけるほど偉大な人間ではありません」
彼はそう言うけれど、それは間違いだ。
だって、彼が王子であることに変わりはないのだから。
「でも王子ですよね?」
「はい」
見つめ合って、笑う。
唯一の希望がここにある。
――だから修行にだって挑んでゆくのだ。
「では今日はこちらの手順についてです」
「食事の……ですね」
できないことは多い。
でも少しずつはできることも増えていっている。
徐々には成長していっているはずだ。
「ええ、そうです。まずは、着席し、それからこちらを片手で取ります」
「はい」
「そして、それはこのような流れで膝に置きます」
「ええと……こういう、流れ……?」
「違います!」
「ひっ」
「逆です!」
「あ、はい……」
胸を張ってカルセドラの隣に立てるようになりたい。
だからこそ、辛い修行も一つ一つ乗り越えてゆく。
「こう、ですか?」
「ええそうです。はい、そうです。では次、そこからこのように手を戻して、次はフォークを取ります」
「はい」
「それではありません!」
「あ、はい」
「こちらから!」
「はい、こちらからこちらから……」
「余計なことを言う必要はありません」
「……すみません」
「ええそうです、で、そちらを手に取ってください。指は綺麗に揃えて」
この先に明るい未来があると信じて――。
そしてついにやって来た婚約披露会の日。
その日は朝から忙しかった。
指定されたドレスを着て、髪を整え、化粧も施してもらって。
「カレッタさん、今日は一段とお美しいですね……!」
「色々してもらいました」
「やはり、元が美しいとより美しくなるのですね」
「ええ……今ここでそれ言います……?」
周りに人がいる。
係の人だけれど。
「事実ですから」
カルセドラはにっこりしながらそんな言葉を返してくる。
「ありがとうございます……」
化粧など関係なく頬が赤く染まってしまいそうだ。
「失礼でしたか?」
「いえ! そうじゃなくて! ……その、少し恥ずかしいのです。周りに人もいますし」
「ああそういうことですか」
「つまり、その……嬉しいことは嬉しいのです」
「なら良かった。これからも本心を言わせてくださいね」
「あまり恥ずかしくならない内容でお願いします……」