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6話「相談してみようと」

「殴られかけていたじゃないか」


 その日、父はずっと、アポツティの話ばかりしていた。


 よほど衝撃的だったようで。

 そのことに関してばかり話題を提供してくる。


「元々ああいう人よ、彼」

「なんということだ……そのくせまた現れるとはな……」


 父は怒りの色を面に滲ませていた。


「何かね、女の人に捨てられたみたい」

「なんと!」

「それで私とやり直したいってことだったみたいだけど……」

「やり直すのか?」

「いいえ、その気はないわ。だって私、もう、彼を信頼なんてできないもの」

「ああそうだろうな。父もあのようなやつにカレッタをやりたくはない」


 数日後、王子カルセドラから連絡があって、それは「また会って話をしたい」というものだった。


 私はすぐに良い返事をした。


 彼にあったらアポツティのことを相談してみよう。

 そう思って。

 だからこそ、このチャンスに彼にもう一度会おうと思ったのだ。


 ――そして予定の日。


「今日は僕も迎えに来てみました!」


 まさかの、だが。


 お迎えの列の中には彼の姿もあった。


「カルセドラ様!? どうして!?」


 彼の顔を見た時、思わず大声を出してしまった。


 それこそ無礼なほど。

 遠慮の欠片もない声の出し方をしてしまった。


「いえ、少し思い立って」


 でもカルセドラは笑っていた。


 彼は今日も快晴の空のようだ。


「危ないですよ!? 王子というお方がこんなところにまで出てきたら」

「いやいや大丈夫です、護衛も一応おりますし」

「そう、ですか……」


 カルセドラはまったく気にしていないようだが、多分周りは何か起こってしまわないかとハラハラしていると思う。


「それより、仰っていた相談というものが気になりまして」

「ああそれ……」

「何ですか? 馬車に乗りつつお聞きしても良いでしょうか」

「そうですね、よろしくお願いします」

「ええ!」


 馬車に乗ってから、私はアポツティのことを話した。


「そのアポツティという男性が元婚約者の方ですね?」

「はい」

「しかし、そうですか。自ら切り捨てておきながらまた寄ってくるとは。それは実に無礼な男ですね。しかも殴りかかってきた、と」

「はい……。何か、良い対策はないでしょうか」


 元々私に婚約者がいたことはカルセドラだって知っている。だからこそ彼にはすべて隠すことなく話せた。かつて婚約者がいたことを知っていてもなお可愛がってくれる彼にだからこそ、迷いなく相談できたのだ。


「ええと、では、僕と婚約しますか?」


 ――さらりと言われて。


「え」


 己の中の時が止まる。


 婚約? いきなり過ぎるし、色々おかしい。それに彼は王子だ。彼が勝手に決めてそれで通るものか? そんな簡単ではないだろう。一般人同士の婚約ならともかく。


「そうすれば、婚約者がいると言えますよね」


 彼はくすっと笑う。


「少々無理矢理感のあるアイデアですけど」


 思わず眉間にしわを寄せてしまう。


「……本気で仰っていますか?」


 嫌な言葉ではないけれど、でも、だからこそすぐには理解できない。


 遊ばれているのよきっと!

 自分の中にそう言ってくる自分がいる。


「ええもちろん」


 カルセドラを不真面目な人と思っているわけではないけれど……。


「あの……王子だからと平凡な女を弄ぶのは良くないと思います」

「もてあそ!? いやいやいや、そうじゃないんですよ。僕は本気です、冗談みたいな話を言っていても本気なんです」

「本当ですか?」

「はい、もちろん。王子の位にある以上、ふざけた感じでこういうことは言えないですねさすがに。問題になります」


 そう話すカルセドラの表情は真剣なものだった。


 ……信じてもいいの?


「カルセドラ様は良いのですか? 私などが相手で」

「それはもちろん、大喜びです」

「そうですか……」

「けど、カレッタさんが嫌なら嫌でいいんです。愛おしい人にだからこそ無理は言いたくないですから」

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