5話「不快そのものの再会」
その日の二人お茶会はそこそこ楽しく終わりを迎えた。
また会おうと約束をして。
一旦私は家へ帰る。
その日の晩、アポツティが訪ねてきた。
「久しぶりだな」
「アポツティ……どうして」
「実は話があってな」
「話? 何かしら、それ」
婚約破棄となったあの日以来一度も会っていなかった彼が急に現れるなんて、嫌な予感しかしなかったのだけれど。
「もう一度婚約しよう」
その予感は的中した。
「え……何、言って……」
「頼むカレッタ、もう一度俺と婚約してくれ」
「嫌よ」
「何だと!? 生意気な! 可愛くない女だな!!」
「怒らないで」
「怒るに決まってるだろ! この俺のお願いを断るなんぞクソだ!」
ああもう厄介だなぁ。
カルセドラとのこともあってようやく爽やかな気持ちになれてきていたのにこんな邪魔者が現れるなんて思わなかった。
「落ち着いてちょうだい」
「なら俺と婚約するんだな!?」
アポツティはいちいち好戦的な物言いをする。
本当に、鬱陶しい。
それに「一度はあんな切り捨て方をしておいてよくまた寄ってこられるな」という思いでいっぱいだ。
恥ずかしいとは思わないのだろうか。
「まずは事情を教えて。何があったの? 条件の良い人と結ばれるんじゃなかったの?」
「……言わせるつもりか?」
「だって言ってもらわなくちゃ分からないじゃない。私は貴方のことをすべて知っているわけではないのよ」
するとアポツティは渋々話した。
女性に捨てられたということを。
条件が良いと言っていたあの女性には実は何人もの結婚相手候補のような男性がいて、彼女は最終的にその中から一番良い男性を選んだそうで。それによってアポツティは捨てられることとなったようなのだ。
「そういう事情だったのね」
「わざわざ言わせるとは悪魔だな!」
「そうは思わないけれど……」
「で! これで婚約し直してくれるんだろうな? 親にはもうカレッタとやり直すと言ってきた!」
アポツティの口から飛び出したのは、まさかの言葉。
「何ですって!?」
勝手に決めないでよ! と叫びたい気分だ。
「やめて! 私、貴方とやり直す気はないから。そんな風に勝手に決めないでちょうだい!」
さすがに感情的になってしまう。
「何だと!?」
「私の人生は私が決めるわ」
「ふざけるなよ! お前! 俺に捨てられた女のクセに……調子に乗るな!!」
――殴られかけたが。
「何してる!!」
たまたま父が部屋に入ってきて、叫んだので、アポツティの手は止まった。
「あ……」
「きみ、アポツティくんだな? なぜまた現れた。我が娘を理不尽に切り捨てた男がなぜここにいるんだ!」
「う……」
「押し掛けてきたというのか?」
私は父へ視線を向けて頷く。
「……そんなんじゃ、なくて」
「きみ! いい加減にしなさい! 二度と娘に近づくな!」
「……ちが、ちがって、そうじゃ」
「今すぐ出ていきなさい!」
そこまで言われるとアポツティもさすがにいづらくなったようで、婚約の説得は諦めて家から出ていった。
「カレッタ、大丈夫だったか?」
「ええ」
父は気遣ってくれた。