3話「緊張するけれど頑張ろう」
「明日はここです」
「そうですね」
「ですから……ここか、ここ、あるいはここなどはいかがでしょう。この日は僕の都合があって少し無理そうなのですが……」
二人で一つのカレンダーを覗いていると自然と距離が縮まる。
……物理的に。
でも不思議なことに苦痛は感じない。
彼と隣り合っていても自然な感じ。
ほぼ初対面だけれど、身が近づくことによる不愉快さはそれほどなかった。
「この日は可能ですか?」
「ええ、可能ですよ」
「ではその日でお願いしても問題ないでしょうか」
「はい。もちろん。では、この日にしましょうか? 僕はこの日で問題ないです」
「ではその日で……できればお願いしたいです」
でも、不思議。
これまで何の接触もなかった二人がこうして一緒に話をしているなんて……。
だがこれも縁か。
「承知しました。では、その日にしましょう。朝お迎えを出しますね?」
「え。申し訳ないですそんなの」
「いえいえ、その方が良いのです。到着時間が分かりますから」
「あ、そうですか」
どうやら、お迎えは実用性も考えてのことのようだ。
「ですから気を遣う必要はありません」
「そうなんですね。ありがとうございます」
「ではそういうことで」
「はい。カルセドラ様、本日はありがとうございました」
「ああいえ! そのようなこと! むしろこちらこそです。押し掛けてしまったにも関わらず、ご対応ありがとうございました」
そうしてその日はそこでカルセドラとは別れた。
彼が帰った後、衝撃を受けた様子の母が「何が起きたの……? まだ理解できないわ……」とこぼしていて。
確かに、と思った。
だって相手は王子だ、こんなことあり得ない。
同年代かつ異性の誰かから声をかけてもらうことすら日頃はあまりないというのに。
「彼はカレッタと結婚したいのかしら……」
父がこの話を知ったら、きっと――物凄く驚くだろうな。
「母さん、それはまだ気が早すぎじゃない?」
「でもそんな感じだったわ」
「気のせい気のせい! まずは互いを知り合うところから」
あまり心を先走らせてしまってはいけない。
未来まで見過ぎては失敗した時に傷を負うだけ。
だから今はまだ明るい未来なんて見据えはしない。
「そうね……。でも、何か……未来が見えるような気がして……。ま、カレッタの人生だもの、カレッタが好きに決めれば良いのだけれどね」
でも、母が言っていることも、まったく理解できないわけではないのだ。
「ありがとう母さん」
「どうして!?」
「娘に自由な選択権をくれてありがとう」
「そういうこと……」
――そして約束の日。
朝、予定通りお迎えが来て、その馬車に乗って私は家を後にする。
城への道のりは長かった。知り合いと一緒ならもう少し時間は短く感じられたかもしれないが。それに、一人でいるからなおさら長く感じられたのだろう。恐らく。
「到着しました」
馬車から下りれば、青空が私を迎えてくれた。
――緊張するけれど頑張ろう。




