表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/50

8:性癖って変えられない

 美しく整えられた木々に、季節ごとに装いを変える色とりどりの花。小さな川も流れ、そこには趣のある橋がかけられている。道はレンガ調ではあるが歩きやすく、あちこちに点在している芝生の広場は、昼寝をしたり、お茶をしたりと生徒達が気ままに過ごせる場となっている。

 木々にはいつの間にか住み着いたのか、耳をすませば小鳥の囀りまで聞こえてくる。一つの町ほどある広大な敷地を持つこの学園は、自然豊かで長閑な景色で埋め尽くされている。

 

 これもひとえに、優秀な魔術師がたくさんいるからこそなせる技だ。土属性の魔法で土壌を作り、水属性魔法で木々を育て、火属性魔法で日光を活性化させる。自然系の優秀な魔術師が、この学園の風景を維持しているのだ。

 そんな学園内を、ティナとアイが歩いている。あと小一時間ほどで入学式が始まるため、大ホールに向かっているところだ。


「ティナ、見て見て。川の中、魚まで泳いでるわ。これが学校の中なんて思えないよねえ」


 アイが小さな川を指差して言う。そこには、太陽の光をキラキラと反射させながら流れる透き通った水と、その中にはメダカのような魚が十数匹群をなして泳いでいた。ティナも、本当だと言って眺める。


「……なんか、さっきまでの光景が嘘みたいに長閑だよね。アイちゃんさっき、こんな綺麗な学園中を真っ暗にしたんだよね」


 ティナは、自分のした事を棚に上げて、悲しげにアイを見つめる。魚たちもびっくりしただろうに、そんな事をぼやきながら。


「あんたこそ、ここにある植物全部枯らしたじゃないの。せっかく綺麗に成長したのに、かわいそうに」


 アイが顔を引き攣らせながら、負けずに言い返す。あんな被害出しておいてどの口が言うか。いやいや、アイちゃんも私に隠れてるだけでなかなかの物よ、なんて小競り合いをしている。


「なんかさ、闇魔法ってこの学園に似合わないよね。ただでさえ一ノ瀬家の娘だと思われて肩身が狭いのに、そこに輪をかけられたと言うか……」


 アイちゃんいなかったら私友達できなかったと思う。そんな言葉を付け足し、ティナが表情を暗くしているが、アイも別に否定することなく確かにねえと言っている。

 

 かつて、戦争があった時代は闇属性は重宝されただろう。しかも、強大な力を持つ闇の魔術師となれば、時代の英雄にもなれたかもしれない。しかし今は、戦争なんて禁忌中の禁忌、平和絶対主義の世の中だ。その方が良いのはたしかだが、生まれる時代を間違えたと思わずにはいられない。


「まあ、うちらにもなんか役割があるのかもよ。入学式で各魔法の説明があるらしいし、そこで分かる事もあるんじゃない?」


 アイが励ますように言うが、ティナの反応は薄い。正直、アイとしても自分が学園一の闇魔術師ですと言われてしまったら、それはそれはプレッシャーになっていたため、ティナの存在はありがたく思っている。気の毒に思う気持ちももちろんあるが。


「あ、そうそう。一つ闇魔法で良いところ思い出したわ」


 アイが名案閃いたとばかりに言う。本当かとティナの目はキラキラと輝き、期待に満ちた表情で見つめる。


「この学園って魔術毎に制服違うでしょ?黒魔術の制服、可愛いって噂よ」


 2人の間に沈黙が流れる。なんだそんな事かと、何も言わなくともティナの表情がそう物語っている。


「そんな顔して……ティナとしても、可愛い制服の方が、森山家の坊ちゃん落としやすいんじゃない?」


 アイが仕返しとばかりに揶揄うように言う。


「な、なに言ってるのアイちゃん!そんな、私、好きだなんて……!」


 ティナがわたわたと真っ赤になって反論するが、何もまともな事は言えていない。してやったりだ。


「へー、好きなんだ。ただ、因縁の相手を落としたいかなと思って言っただけなんだけどなー、意外だなー」


 アイは追い討ちをかける。何も言えなくなったティナに対して、そっかそっか、ああ言うのがタイプなのね、知らなかった、なんてトドメを刺していく。


「……もー!アイちゃん!ひどいよ!!」


 涙目で怒るが何も威力はない。さっきまで、学園中を恐怖に陥れた存在とは思えないような態度だ。どれだけ強い魔力を持っていようとも、たかだか16歳の女子学生。そこらにいる同年代と同じような価値観でしかない。


「なになに?助けられたからときめいちゃった的な?」


 アイがはっきりと聞く。ティナの反論なんて聞いてもいないんだろう。そんなティナは、観念したようにため息を吐いた後、真剣な顔をして言った。


「いや、見た目」


 さすがのアイも歩みを止めた。一瞬の沈黙が漂う。


「……ティナ、あんた、ダメな男に引っかかりそうって言われた事ない?」


「言われる。よく言われる。私もちゃんと自覚してる。自分でも良くない性癖だって分かってるんだけど、どうしても変えられないの。私……どうしようもなさそうな、女ったらしっぽい見た目の人が好きなの、何故か心ときめいてしまうの。正直、もう一目見た瞬間から好みのど真ん中に刺さってしまったの。どうしようもないの」


 アイがかわいそうな子を見る目で見ている。箱入り娘が世間の荒波に揉まれずに育ったら、箱入りすぎて良くない方向に性癖持ってかれちゃったパターンだ。そんな事を思う。


「……まあ、見た目に反して悪い奴じゃなさそうだし、今回はいいんじゃない?応援するよ、別に私の好みじゃないし」


 アイの言葉にティナは顔を輝かせる。


「そうだよね!絶対に良い人だと思うの!顔だけじゃなくて、いやもちろん顔が一番良いんだけど、それだけじゃなくて心も優しいと思うの!」


 さっきまで恥ずかしがっていたティナはいない。バレてしまったのなら関係ないと、恋する乙女モード全開の女子がいるだけだ。


「まあ、遊んでそうには見えたけど」


 そんなティナに遠慮することなく、アイははっきりと言う。こう言うのはちゃんと伝えておいてあげないと、本人のためにならないからだ。


「そんな所も含めて好きだからいいの」


 間髪入れずにティナが言う。目はずっと真剣だ。ちょっと怖い。救いようがなかったか、そう思いアイはぼんやりと遠くを見る。応援はしよう。まあできる限りの手助けもしてやろう。楽しそうだし。でも最後は慰めてあげよう。そう誓いながら、大ホールに向かって歩いていった。

面白かったらブックマーク・評価して頂けると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ