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4:やっぱり青春も突然に

 ミルク色をした、地球儀ほどの大きさの石の周りに人だかりができている。この石が、魔力を測定する魔法道具だ。この石に魔力を入れると、その魔力特性と強さを示してくれる。


 今から魔力測定をするのだろう、一人の男子生徒が立ち、それを周囲の人間が興味深く見ている。誰も声を上げないが、空気はどこかざわついており、なんとも言えない雰囲気が広がっている。

 

 石の横には、この学園の職員であろう人物が立っている。その人物が見守る中、真正面に立っている男子生徒は、石に向かって手を伸ばす。目を閉じて、一息つくと石から流線型の水が一メートルほどぱっと広がった。


「水属性だ!」


 手をおろしながら、彼は嬉しそうに言った。水属性は、天候を読んだり、大気の流れを見たり、魔力の強い者は川の流れや量を調整することもある。人々の生活に大きく関わる魔法の力であることから、自分の魔力特性であればと人気も高い。用は、就職するのに潰しが効くのだ。

 

 それを見て次は自分だと、1人、また1人と魔力測定を受けていく。ある者は火の粉が舞ったり、ある者は空に向かって木が生えたりと、魔力特性に応じて様々な現象が起こっている。

 

(こんな、見せ物みたいにやんのかよ……)


 ユウは愕然とした。顔の知れた自分なんて格好の的だ。結果がどうであれ、良い話題のネタになると嬉々として見られるにきまってるじゃないか。そんな事を考え、これから起こる事が億劫になっていた。


「まあまあ、一生に一回の経験なんだから、楽しんでいこうよ。緊張しようが、落胆しようが、どちらにせよ結果は変わらないよ」


 カイトはそんな事を言って、ユウの背中を押す。さて、次は自分たちの番だと言わんばかりに2人は前に出る。それに横入りしようとするものはもちろんいない。


「ユウが先に受けると僕が霞んじゃいそうだから、先に受けてもいい?」


「好きにしろ。俺はなんだっていい」


「ありがと。じゃあお先に……」


 そういうと、カイトは石に向かってすっと手を伸ばした。すると、石から明るい虹色の光がぱーっと学園一面に広がり、余韻を残して消えた。


 大きな歓声が起こる。光魔法だ。しかもこれは、学校でも上位クラスの魔力だ。すごい、羨ましい。そんな声が周囲から聞こえてくる。

 それに対して、嫌味を感じさせない笑顔を浮かべ、カイトはその場から一歩後ろに下がった。

 教員も驚きながらも嬉しそうな顔をしている。今年の光魔法生は優秀だと、誰に言うでもなく興奮気味だ。


「ユウの言った通りだったね。嬉しい反面、残念だな。ユウと同じクラスがよかったのに」


「お前はよく、そんな思ってもない事をすらすらと口にできるな」


 ユウは呆れたように言う。さて、次は自分の番か。周りを見ると、次はお前かと好奇の目で見られているのが分かる。しかも、あの魔力を見せたカイトの後だ。余計に注目が集まってしまったのは言うまでもない。


(めちゃくちゃやりにくいな)


 ユウは心の底からそう思った。



 その数分前。カイトが魔力を見せた瞬間、虹色の光は学園全体に広がっていた。その場を目撃していた者は分かっているが、何が起こったのか分からない者もたくさんいた。その一部が、ティナとアイだ。


「なに、今の光……」


 呆然としながらアイが言い、ティナは眩しさに目をぱちくりさせながら答える。


「魔力測定の方からかな……?」



 

 ――すごいよ!さっき金髪の王子様みたいな男の子が魔力測定受けてたんだけど、手を伸ばした瞬間虹色の光がぱーっと広がって、すっごいキレイで、本当に王子様みたいだったの!どうしよう、私も光魔法だったらいいのにな――

 そんな事を女子生徒達がワイワイと話している。


「すごい光魔法だって。ティナ、緊張する?」


 少しからかうかの様にアイが言うと、ティナが渋い顔をして返す。


「うーん、なんというかソワソワするかも。まあ努力とかじゃどうしようもないんだけどさ、小さい頃から結構な英才教育受けさせられてて、まあそれに意味があるのかは甚だ疑問なんだけど、それを親に問い詰めたい気持ちもあるんだけども、とりあえずこんな頑張ってきたのにくそがとは思ってる」


 そうだ、親も親戚もみんな強い光魔術師になることを望んでいる。おまけに、本家の第一子なんて面倒臭いタイミングで生まれてるし。やっかいだな、なんてティナは内心でも毒づいている。


「なんか、急に猫被るのやめたわね。どしたの?」


「アイちゃんの前で取り繕ってもどうしようもないかなって。なんかバレてそうだし、あと面倒臭くなっちゃった」


「…あんたのそう言うところ、好きよ」


 にやっと笑いながら、ティナは軽く礼を言う。


「まあね、努力じゃどうしようもない事なんだからねえ、みんな理解してくれたらいいのに、なんかこう、それを誰も分かってくれないのが痛いとこなんだよね……」


 まあこんなのは家の都合でしかないんだけど、とティナはぶつぶつとぼやいている。ぼやけるだけの余裕があるなら大丈夫よと、アイはふっと笑いながらまた一歩踏み出す。さっきまであった虹色の光は消え、今は若干の騒めきだけが残っている。



「ティナ、あったあった。あそこじゃない?」


 魔力測定器を指差して言う。そこには、大きな白い球体があり、その周囲には人影が出来ていた。球体の側には3人。1人は黒いローブを着たその場を取り仕切っているような男、もう1人は金髪の男、そしてもう1人は黒髪の男がいた。


「ほらほら、さっきの子達が言ってた金髪の王子様みたいな人ってあの人の事でしょ。なんか注目浴びてるし、見た目も……いかにも王子様って顔してるし」


 アイが少しだけ揶揄うように言う。文字に起こすと語尾に(笑)の文字が見えそうだ。


「本当だ、たしかに王子様みたい」


 ティナも冷めた声で興味なさげに言うと、ああ、あんたも好みじゃないのね、とアイに言われる。それどころか、王子様みたいってねえ、なんか胡散臭いよね、と身勝手な事を2人で話し出す。


(あんな所で魔力測るんだ、なんかちょっと恥ずかしいな)


 そんな事を思いながら、金髪の男の隣に立っている人影にふと目がいった。

 すらっと伸びた背に、ふんわりとした黒髪。どこか冷たい雰囲気を感じながらも、なぜか目を逸らせない。切長の濃い茶色の目がティナの瞳に映った瞬間、はっと息が止まった。


「……ティナ?おーい、どうした?」


 急に白い球体を見て動きをとめたティナを不思議そうに見ている。あっちになんかあったのかと、球体とティナを交互に見るが理由は何もわからない。


「なんかあった?やっぱり緊張しちゃった?」


 キョロキョロとしているアイに、ティナがさっきまでとは打って変わって細く小さい声で答える。

 

「……アイちゃん、どうしよう私、すごくドキドキしてるかも」


 アイは何があった急にと驚いているが、ティナはそれに対しても何も答えない。ただ真っ直ぐに球体の方を見つめて固まっている。


「まあ、あんなの見た後じゃあさすがに緊張するよね。あ、しかも隣にいるの森山家の坊ちゃんじゃない?あー……たしかにティナとはちょっと因縁にはっちゃうのかな?」


 アイの言葉に、さっきまで固まっていたのが嘘かのように、勢いよくアイの方をみてティナが言う。


「え?森山家ってあの?黒魔術の?」


 知らなかったのかこの子と思いながらも顔には出さず、そうだよと言う。因縁とかではないのか?そんな事を疑問に思いながら。


「坊ちゃんは今から測定っぽいねえ。面白そうだし見てこうか」


 そう言ってアイは、ティナの手を引っ張り前列に進んでいく。突然の事にティナは少しよろけながらも、引かれるがままに付いていく。

 待ってと言う間もなく最前列に出てしまい、さっきよりも近くで黒髪の男の顔をみた瞬間、ティナの体に稲垣が落ちたかのような衝撃が走った。


 ――どうしよう、すごくかっこいい――


 彼女の人生ではじめての一目惚れだった。

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