3:出会いは突然に
「ここがエデン学園……」
歴史を感じさせる、濃い木製の荘厳な門の前でティナがつぶやく。花や蝶、妖精をはじめとした細かな模様が細工が施された門は、何年かかって、誰がどう作業して完成させたのか全く検討がつかない。
(私も色々と世界各国の良いものには触れてきたし、家も立派な方だと思うけど…)
彼女が見てきたどんなものも霞むくらい、入り口から規格外に荘厳だった。さすが、世界中から優秀な才能を集める学園なだけある。門だけでこんな圧倒されるとは、中に入ったらどうなるやら、そんな事を彼女が思っていると、後ろから声をかけられた。
「そんな所で立ち止まってどうしたの?」
柔らかい声にハッとして、ティナは後ろを振り向く。そこには、シルバーの髪を高く一つに結んだ、スタイルの良い女の子が立っていた。
(え、めっちゃ美人だ。地元にこんな子いなかったよ、さすがエデン学園だわ。言われてみれば周りも顔良い人達ばっかりだな、顔も選考基準に入ってるんじゃないのこれ)
ティナは下衆な事を考えながらも、それを悟らせないように口を開いた。
「あっ、ごめんね!通行の邪魔だったよね、あんまりにも立派な建物だから少し呆気に取られちゃって……」
ティナがそういうと、話しかけてきた人物は、驚いた顔をした後、ふふっと笑いながら言葉を返した。
「後ろ姿だから気づかなかったけど、一ノ瀬家のお嬢様じゃない。はじめまして。わたし、片倉アイ。折角だから自己紹介させてもらうね」
自分に対しても区別せず、はっきりとした物言いをするアイにティナはすぐ好感を抱いた。
(美人で性格もいいなんて、素敵な子だ)
そんな事を思いながら、ティナもふんわりと笑い返す。
「はじめまして、一ノ瀬ティナです。話しかけてくれてありがとう。なんか柄にもなく緊張してたんだけど……少し緊張が解れたわ」
なんとなく仲良くなれそう、そんな気配と共にお互いの間にふわっと柔らかい風が吹く。ちなみにだが、ティナはまだ猫をかぶっている。
「名家のお嬢様ってもっと高圧的で嫌なやつかと思ったら、そんな普通の子みたいな感覚あるのね。意外だわ」
アイがまたはっきりと告げた。ハキハキした子だなあとは思ったが、いきなり自分にそんな物言いをする人は今まで同年代でいなかったため、さすがのティナも驚いて口をぼんやり開けて固まってしまった。
「あ、ごめんごめん。嫌味とかじゃないよ。ただ、なんか可愛いなあと思っただけ」
「…ありがとう。そんな風にはっきり言ってもらえると私も気が楽だよ」
可愛いってのも否定しないのねとアイが冗談めかして言う。ティナも笑うだけで特に返答はしない。顔を見合わせて2人で不敵な笑みを浮かべて数秒、手をパンと叩き合う。
「ここで会ったのも何かの縁だし、一緒に魔力測定に行こうか。ティナが嫌じゃなければ」
そう言って、アイは一歩前に出た。自信ありげな彼女もまた、人目を引く容姿をしているが、そんな事物心ついた頃から自覚している本人は気にも止めない。見たいんなら見ればいい、そう思ってすらいるのだろう。
「もちろん!よろしくね、アイちゃん」
美人な2人がなにやら意気投合していると、横目に見る人も多いが2人とも気にしない。
呼び捨てでいいのに同い年なんだし、とアイが言う。ティナは、なんか家の教養の癖で呼びにくいんだよねーと返す。心を許したのか、少しずつ被っていたネコを脱いでいる。
さすがお嬢様は、私たちとは教育が違いますねえ、なんて初対面とは思えないような会話を笑いながら続けて歩いていった。
遡る事10分前。早々に、何の感想もなくこの門の下をくぐった人物がいた。森山ユウだ。
これから流れるように組分けされて、そこから適当に3年間過ごすだけ。当たり障りない成績を残して、学園生活修了。それだけだろ、どうせ。そんな事を思っていた。
(魔力測定は……あっちか。さっさと終わらせてやろう)
そんな事を思いながら歩いていると、後ろから声をかけられた。
「ユウ、もう中に入ってたのかよ、探したじゃん!一緒に行こうって言ったのに」
そこには、鮮やかな金髪が眩しい、おとぎ話の王子様のような男が立っていた。彼は西村カイト。ユウの幼馴染で、友達だ。倦厭されがちな森山家の三男のユウにも、カイトは持ち前の明るさから何ら気にすることなく話しかける。
「あー…そうだっけ?聞いてなかった」
そのわざとらしい明るさが鬱陶しいようでユウは適当に答える。
「相変わらず冷たいなあ、ユウは。またみんなに怖がられちゃうよ」
冗談めかして言うカイトに対して、はいはいと面倒くさそうに返す。そんな2人をチラチラとみる女子生徒達も多いが、2人ともそんな視線には慣れているかのように気にとめることなくスタスタと歩いていく。
「ユウ、これから魔力測定だよね?森山家の坊ちゃんとしてはどういう心境?」
少しからかってやろうとカイトが嫌な笑みを浮かべながら言うが、なんて事ないかのようにユウが答える。
「ああ、そうだけど。まあ別に、俺としてはなんでもいいよ」
ズボンのポケットに手を突っ込みながらユウは言う。親や兄達は、同様に闇魔法使いを目指すことを望んでるんだろうけど、そんな事は俺には関係ない。家は兄2人がうまく動かしているし、親族にも優秀な人材はいる。俺は別に、なんであれ適当に生きていくだけだ。
「またまたそんな事言って。まあ…何でもいいと言いつつ、お前は闇魔法でほぼ確定だろ。あんなのほぼ遺伝だからな」
「遺伝なあ……カイトは光魔法っぽいよな、なんとなく」
「それは…褒めてもらってると取っていいのかな?」
カイトがニコっと笑う。それに対して笑い返すことはしないが、ユウもどこか面白そうにしている。なんだかんだで幼馴染で、友達なのだ。そんな、たわいもない会話をしながら、魔力測定場まで2人で向かっていくのだった。
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