21:有頂天の極み
入学式から1ヶ月以上経ち、講義にも慣れてきた頃、各々のクラスで模擬試合の説明がなされる頃だ。この薄暗い、陽の光も入りにくいなんとも言えない講堂で話を聞いている、ティナ達ももちろん例外ではない。
「これから5ヶ月後に魔力対抗模擬試合が行われる。前も言ったが、模擬試合なんて甘いもんじゃない。何でもありの生き残り戦だ。この模擬試合で結果を残せば学校中の名誉になれる。戦闘特化した闇属性がこの試合に負けるなんて恥でしかない。お前ら、今から試合まで覚悟しておけ」
榊原が大声で話している。威圧するような声も態度も、初めこそ怖かったが1ヶ月もしたら慣れてしまうものだ。と言うよりかは、マリーのおかげで知識的な問題点は解決されたため、何を聞かれても答えられるようになったのだ。
ティナも、いまだ目はつけられているが、知識さえ付いてこれば実技なんてお手のものだ。
「模擬試合は、前も言ったと思うが全員参加の勝ち抜き戦だ。学年全員が一同に杖を持ち、自分以外の人間を攻撃する。もちろん、どの属性が勝つかが表向きは記録されるが、名声を受けるのは誰が活躍したか、だ。そのため、異属性だけじゃなく、同属性への攻撃も時にはあるだろう。隣にいる奴は味方ではない、そんな覚悟で挑むように」
榊原はずっと威圧的に話している。あんな風に話して疲れないものかとティナは呑気に考えているが、他の生徒達は戦々恐々としている。まさか、味方だと思っていたティナが、あの世界最強の闇魔力を持つティナが敵になろうとは、と一度でも陰口を言ったものは内心肝が冷える思いでいる。
しかし、ティナはそんな事気づくはずもなく、どこ吹く風だ。
(あー、幸せ幸せ。森山さんから連絡が返ってきてた。いきなり幸せ急展開すぎて今ここに生きてる事が信じられないくらい幸せ。もう今なら何言われても受け流せる、と言うかあんまり聞いてなかったから後でマリーちゃんに聞こう)
そう、ティナは森山との連絡が昨日から今朝まで続いていたため、それに対する喜びで頭がいっぱいなのだ。
『礼はいいから、今度飯でも食いながらゆっくり話すか』
ドキドキで胸がいっぱいになりながら眠り、夢の中でもずっと混乱していたため、いまいち寝たかどうかとぼんやりした頭で端末を開くと、そんな奇跡的な返信が返ってきていた。
それを見た瞬間、喜びのあまり聞いたことも出したこともないような声が出たのは言うまでもない。そして、返信に舞い上がったティナは、ぼさぼさの頭で返事をしたのだ。
『ありがとうございます!ぜひ、楽しみにしてます!』
と言う一連の流れを、朝食を取りながらアイとマリーに伝えたところ、アイに何をしているんだと呆れられた。
連絡は途切れないようにするのが鉄則だ。なぜそこでいつにするかと聞かない、日付を確定させなかったのかと頭を抱えていた。そんなアイを横目に、アイは良かったじゃないですかと呑気に喜んでいた。
(連絡が続くとか続かないとか、もうどうでもいいの。今後森山さんとお話しできなかったとしてもいいの。連絡を返してくれた、一瞬でも自分の事を考えてくれていた、その事実が大事なの)
ティナは熱心で一途で重たかった。喜びだけで頭をいっぱいにしていると、榊原が次の説明に入りだした。
「知識はこの1ヶ月て詰め込んだ。これから先はひたすら実技、実践だ。闇魔術なんて使えてなんぼだ。コントロールしようとか、カッコいい事しようとか、とりあえずそんな理想は全て捨て去れ。初めは持てる限りの力で、毎回魔力を使い果たす勢いで杖を振るんだ。そうする事で少しずつ魔力が増え、体力も付き、体で魔力を覚えられるようになり、繊細な動きもできるようになる」
ティナはこの辺りから聞き始めた。なるほど、毎回魔力を使い切るイメージでやるのね。呪文や杖の振り方、効果などおおよその事は記憶したが、後はそれを実際に発動させなければ意味がない。
覚えた知識を線で繋いでいく講義が、これから始まるのか、ティナはそう理解する。
「今からホールに移動する。付いてこい」
その言葉とともに、生徒達が一斉に立ち上がる。ティナもそれにつられて立ち上がり、後をついていく。その途中で、マリーをつつきコソコソと耳打ちをする。
「ねえねえ、マリーちゃん。私あんまり話聞いてなかったんだけど、何て言ってた?」
マリーは呆れたような驚いたような顔をしながらも、そっと教えてくれた。
「うーん、一言で言うと、全力で魔術覚えろって話でしたね。まあたぶん、ティナさんは大丈夫じゃないですかね、力はありますからね」
マリーも若干ティナの事を揶揄うようになってきているが、本人は別に気にしていない。それどころか、そっかありがとうと脳天気な返事だ。
まずはどんな魔術発動させるのかな、講義終わったら森山さんから返信ないか見てみよう、と思考をあちこちに飛ばしていると、練習用のホールに着いた。
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