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2:桜並木と入学生達

 真っ白な桜並木の下を16歳の少年少女達が歩いている。天気は晴天。風はゆっくりと吹き、なんとも過ごしやすい今日は、全国から優秀な生徒達が集まる、エデン学園の晴々しい入学式だ。


 それぞれ期待や緊張や興奮、ときめきなど色々な感情が入り混じった表情をしている。


 それもそのはず、入学式では生徒達にとって人生の一大イベントでもある、魔力測定が行われるのだ。魔力測定器で、生まれながらに決められている魔力特性を測り、「火」「水」「土」「光」「闇」のどの魔術師として生きていくのか、宣告される日でもある。緊張もする。


 そんな若者の一人が今、入学式に向かって不安を胸に歩いている。


 彼女の名前は一ノ瀬ティナ。古代より続く、白魔術一家の長女として生まれた。現代で白魔術一家などと言うのはタブーだが、その歴史の長さ、親族間の繋がりの強さ、そして遺伝による魔力の強さが続いている事から、裏ではそう呼ばれ認識されている。


「とうとう入学式……うん、がんばる!」


 そう意気込むのには訳があった。ティナが育った一ノ瀬家では、当然の様に光魔術が全てだとされてきたのだ。一族の子供たちは、魔力特性を測る前から光魔術師になるために特訓され、学び、そしてその才能から、ほとんどの子供がこの学園に入学していった。


 そんな一ノ瀬家の長女として生まれてしまったからには、ティナも光魔術師を目指さなければ意味がない。これでもし適合魔力が光魔術以外だったら、間違って闇魔術だったりしたら、と嫌な想像をし、ティナは血色の良い唇を固く噛み締め思いを巡らせる。


(まあ正直、光とか闇とかどうでもいいんだけどね。どっちかって言うと楽しく学園生活できるかなとか、友達できるかなとかそっちの方が心配。でももしここまで頑張ってきて光魔法じゃありませんでしたとか言われるとなんか癪に触るんだよね。親族から嫌味を言われるのも想像できるし。ある事ない事言われるのも分かってるし、あーもう面倒だなあ)


 周りの生徒達はそんな事を考えているとは知らず、ティナをチラチラと横目に見ている。名家のお嬢様だと言うのも一つの理由だが、もう一つはその見た目が要因だ。


 透明感のある白い肌に、流れるように綺麗な黒髪。グレーの瞳は丸く人形の様だ。その人目を引く美しさから注目されているのだが、もちろんティナは周りを気にする余裕はない。


 ただ自分の出生を呪いながら、強く拳を握り学園に向かって桜並木の下を歩いていくのだった。


 

 そんな若者がもう一人。彼の名前は森山ユウ。ティナとは反対に、歴史の長い黒魔術一家の三男として生まれてきた。もちろん黒魔術なんて言葉はタブーだ。だが、一ノ瀬家同様に、名家にありがちな繋がりや遺伝的な魔力の強さから、森山家が黒魔術師一家と言うのは変えられない世の認識だった。


 そんな森山家は、闇魔法が全てだとされていた。もちろん上の兄二人も優秀な闇魔術師だ。長男は森山家を継ぐべくして父の事業を手伝い、次男はその才能と家柄をうまく使い国会議員として働いている。

 

 そんな兄に囲まれて暮らさざるを得なかった彼もまた、闇魔法の英才教育を受けて育った。彼は生まれながらにして要領の良さと言う才能があったため、血も滲むような努力がなくとも、親から与えられる課題に応えられた。


 そんな彼は、もちろん闇魔術師になるんだろうと幼い頃からなんとなく思っていた。そして、家柄と力を使って、それなりの職に就き、適当な婚約者でも与えられて、なんとなく生きていく。


「つまんねえ人生」


 入学式当日にも関わらず、そんな夢も希望もない事をポツリと口にする。まっすぐに閉じられた唇は、失礼だと分かりながらも見つめてしまう色気があった。薄茶色の瞳は人目を引き、ふわりと伸びた髪は名家のご子息と言うより、ブランドのモデルをしていると言われた方がしっくりくる。

 

 自分がどう見られているか、それすらも理解している彼は、視線を煩わしく感じながらもまた桜並木の下を他の生徒同様に歩いていった。



 真っ白な桜はサラサラと散っている。入学者達を歓迎するかのように、晴れやかに花びらが舞っている。世界学園の門まで続くその桜並木は、入学生たちの気持ちをこれでもかと高めている。

 絵画のようなこの道の風景は、彼ら彼女らにとって忘れられない青春の1ページになるだろう。

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