4人の令嬢への罰
4人への罰はこのようになりました
ロザモンド・ミルバーグは侯爵家の三女だが、母は身分の低い子爵だった。両親は結婚をせずに子供を作りロザモンドは子供の頃侯爵家に引き取られた。目立った意地悪はされなかったが、疎外されていた。
容貌も母に似て地味で、華やかな姉や兄とは違っていた。
姉は政略結婚とはいえ、幸せな結婚をした。だが、ロザモンドの相手を探そうとして侯爵は気がついた、今のところ手を結びたい相手がいないと・・・・逆にへたに手を結んで相手のヘマで巻き添えになっては大変だし、どうでもいい娘に出す持参金も惜しかった。そこでいつもこう言っていた。
「ロザリンド、おまえは好きな相手を結婚していいからな。ほんとに好きな人をみつけて幸せにおなり」
まともな貴族は自分に利のない相手は、恋愛の対象にもならない。侯爵はそのことをよく知っている。
嫁ぎ遅れたら、それなりの居心地の修道院にいれてやろうと思っていた。
するとロザリンドは王宮で働きたいと言ってきたので、伝手を頼んで入れたやった。
ロザモンドに書類を翻訳するほどの語学力はなかった。ただ、書類の整理をしたり他の部署にお使いに行ったりの仕事をしていた。
いつのまにか同じ境遇の令嬢が集まっていた。
そういう令嬢は『王宮の花たち』と呼ばれ幸福な結婚をする者もいれば、上級貴族に遊ばれたりして修道院にいく者もいたり・・・・さまざまだった。
そんなある日、貧乏人たちの集まり、通称ドンキーコースと呼ばれる、下級職に採用された20人ほどが見学にくると連絡があった。
貧乏人に自分たちの豪華な衣装、装飾品を見せびらかしてやろうと待ち構えていたら、銀髪の美少女が混じっていた。下級職に支給される制服を着ていたが、彼女に比べれば自分たちはいかにも陳腐に感じた。
ロザモンドは怒りがこみあげてきて、いやがらせをしてやろうと思った。
這い蹲らせてやろうと書類をまきちらしたら、全員で拾いあつめてなぜかその少女に全員が渡した。
少女はざっと見ながら順番をきちんと整えると研修責任者にそれを渡した。そのとき、ある箇所をさしてなにか言った、すると責任者は驚いた顔をしてうなづくと書類を受け取っていた。
ドンキーどもはにこにこしながら少女を取り囲むと楽しそうに去っていった。
ロザモンドは、悔しくて妬ましかった。
むしゃくしゃした4人はドレスショップに行くと運の悪い店員に八つ当たりして、すっきりして家に戻った。
2.3日後に、職員が話しているのを聞いたとき、嫉妬が憎しみにかわった。
「ギルバード殿下の語学教師が決まったそうだ」
「あれ?だれなんだ?」
「外務部からじゃないんだ」
「え?それはおどろきだね、どこにそんな人材が埋もれていたんだ?」
「それがこの前、下級職が来ただろ。あのなかにすごい美少女がいただろ」
「うん、いたけどあの子?」
「あぁそうだ。面接を部長と王太子がやったんだけど、部長が発音の美しさに感心したらしい。ただ、あまりに綺麗すぎて不自然なところがあるらしく、会話と朗読は違うからね。そこをどういうふうに解決するか、考えているらしい」
文官たちのうわさ話を聞くにつれて憎しみが湧いてきたが、どうすることもできずに日々がすぎて行った。
そんなある日、打ちのめされる出来事が起きた。野暮ったいと馬鹿にしていた女性が結婚が決まったからと退職の挨拶をしたのだった。挨拶の際、持参したのは今、大人気の手に入りにくいお菓子だった。その人気のお菓子屋の跡取りと結婚することになったと頬をそめて話していた。
王宮で道に迷っていた彼を助けた縁だと聞いた。
なんでも4人連れの美しい令嬢に道を聞いたら反対方向を教えられて、困っているところを助けたのが彼女で、お礼にと彼女の実家にお菓子をたくさん届けたら父親に気に入られ、婿にと望まれその気になっていたら、爵位をもらう話が持ち上がり嫁に出ることになったらしい。
さすがはお菓子屋さん、甘いねぇと盛り上がるのを横目でみて席をはずした。
あの日、馬鹿にしないで案内したら、結婚するのは自分だったかも知れないと思うとたまらない気分だった。
八つ当たりできる相手がいないかと、うろうろしていたら、あの下級職の女がいた。
これみよがしに、魔術師団のマントを着てえらそうに歩いていた。
4人は素早く、リシアを取り囲んだ。
彼女は自分たちに見覚えがないようで、怒りがつのった。
侯爵家のアンヌ・マクベインはいつも通り扇でリシアを殴ってしまった。アンヌはすぐに手が出るのだった。ただ、相手が貧弱で倒れてしまった。ロザリンドも倒れた女の手を踏んだ。
そこに騎士がふたりやって来て、アンヌが捕まった。もうひとりは倒れた女を助け起こしていた。
ロザリンドは一番に逃げ出した。自分は呼び止めただけだと・・・・
伯爵家のメアリー・キンバレーはまずいことになったと思った。自分は手出しをしていない、関係ないと自分に言い聞かせながら逃げ出した。伯爵家のジェシカ・ミンティーノもメアリーの後をついて走った。
その後すぐに3人は捕まり王宮の見慣れぬ一角に連行された。すでにそこには侯爵家のアンヌ・マクベインが手枷をはめられ床に座らせられていた。
待っていると4人の両親、兄弟がやって来た。手枷をはめられ床に座っている娘をみて抗議をしたが、見張りはなにも言わなかった。
娘に事情を聞こうにも近づかせてもらえず、なぜか娘たちは口がきけないようだった。
只事ではなかった。最初は娘の心配をしていたが、自分たち、家名、家門への心配が、広がっていった。
明るかった外が暗くなった頃、ドアが開いて、何人か入ってきた。
入ってきたのは宰相と外務部長、ギルバード殿下、アレク魔術師団団長だった。彼はその手にマントを持っていた。そして魔術師団がその後ろに続いた。それから騎士団長と騎士がふたり入ってきた。
椅子が用意され、ギルバード殿下とアレク王弟殿下がすわった。
宰相が
「自分の娘を引き取りそばに置いて、それぞれの家族に分かれて座ってくれ」
彼らが4箇所に分かれて座ったのをみるとアレクが
「このマントを知っているか?」と問うた。
ほとんどが無言でうなづいた。
「意味するところは?」
「「「「それを着ているものを攻撃することは魔術師団を攻撃すること」」」」
「これを知らない愚か者がいる」
「「「「「・・・・・」」」」」」
「これを着ている令嬢に怪我を負わせた」
「「「「・・・・」」」」
「直接声をかけて引き止めたのは侯爵家のロザモンド・ニルバーグ、怪我を負わせたのは侯爵家のアンヌ・マクベイン、伯爵家のメアリー・キンバレー伯爵家のジェシカ・ミンティーノは令嬢が怪我をしたのをみながら逃げ出した」
ギルバードが立ち上がるとこう言った。
「一緒にいただけだとキンバレー嬢とミンティーノ嬢は主張している。罪がなくなるわけではないが、同じではないと思う。両名の家族は令嬢を引き取って家族で反省して欲しい。折をみて使いをやるので家族揃って城に来て反省の弁を述べてもらいたい」
つづいてアレクがたちあがると
「魔術師団としては売られた喧嘩は買う用意があるので、遠慮しないで欲しい」
宰相が
「アレク様脅さないでください。それからこれは国からの命令ですが、ご令嬢を修道院にいれること、勘当することは禁止です。家族で罪に向かい合ってください。それではお引取りを。あぁアレク、令嬢が話せるようにしてあげてください」
アレクは指をそれぞれの令嬢に向けた。
「家に着きしだい、話せるようになる。ここで喋られるとやっかいだ」
宰相は家族に向かって
「お引取りを」
ふた家族がでていくと部屋が広くなった。
宰相は
「ニルバーグ侯爵、そちらへの処分はもう決定している。娘のやったことに責任を持ってもらう。
被害者の令嬢の心の傷も大きいし顔の傷も大きい。直接手をかけたのはお前の娘ではないが、率先していやがらせをしたのは確かだ。魔術師団に皆殺しにされても文句が言えないのは知っているな。
まず、侯爵家から子爵家となり、領地は半分返してもらう。
そちとロザモンド嬢は毎日、孤児院や街のそうじなどの奉仕活動をしてもらう。管理はキンバリー家に任せる。よく指示を聞いて従うように。では引き取ってくれ」
ニルバーグ子爵一家はは黙って頭を下げた。ただ、姉と覚しき女性がロザモンドを平手打ちした。
兄と覚しき男性がロザモンドを引きずってでていった。
「さて、最後はマクベイン子爵だね。アレク。アンヌがくちをきけるようにしてやってくれ」
「いやです。その、くそあまの声は不愉快です」
「そう言わずに・・・・・わかったこのままでいい」
宰相は話し始めた
「扇で被害者の令嬢の顔を傷つけた罪は大きい。こういう娘を育てた罪は大きい。この娘が育った環境を作った家族、使用人すべてに償ってもらうことになった。過去10年間、マクベイン家で働いたもの全てだ。やめた者がいればそちらで探して欲しい。探せないときは報告を。国が探す。もちろん費用は請求する。静かに・・・嫁いだ娘も呼び戻してくれ、その娘の子供は婚家に置いてきてもいいし、引取りを拒否されれば戻してもいい。やることは奉仕活動だ。ギルドでドブ掃除などが募集されているのを知っているか?まぁ知らないだろうな・・・そういう仕事を率先してやって奉仕して欲しい。管理はキンバリー家とミンティーノ家だ・・・・うまくやってくれ。領地はすべて国が管理する。食料や洋服など必要な物は国が支給するから奉仕活動だけを考えて生活できる。これは国の温情だ。様子をみて罰も変更するから真面目に取り組んで欲しい。質問、疑問あるだろうが今は抑えて先ず奉仕をして欲しい。話はこれだけだ」
アレクはアンヌに向けて指を動かした。
「この女も家にもどると話せるようになる」
一家に退出の許しを出さずに、全員が出ていき、騎士がひとり残った。
「皆さん、お引取りを・・・立てますか?」
その声を合図によろよろと立ち上がるとマクベイン家の面々は部屋をでていった。