アンヌ・マクベインのひとりごと
わたしには姉が3人いる。一番上の姉は両親からも使用人からも馬鹿にされる、みじめな姉だった。
姉は学院に行き家をでた。それから一度も家に戻ってこなかった。
久々に姉をみたのは園遊会だった。皆が着飾っているなか地味な制服でアレクサンダー様の後ろに立っていた。
挨拶の列が途切れた時、アレクサンダー様がそばにあったレモン水のコップをとると姉の口元にもっていった。姉は首を振ったが、そのままレモン水を飲ませてもらっていた。それからアレクサンダー様はお菓子をひとつとると、また姉の口元に持っていった。
姉はそれを食べたが、アレキサンダー様のほうがうれしそうだった。
わたしはあの姉がと、腹が立ったが冷静になってみると、姉のところに遊びにいけばアレクサンダー様と会えると思った。
姉もお父様やお母様に大切にされているわたしが訪ねていくと、喜ぶだろうと思ったのだ。
それで、お母様にいいことを考えたと、この話をすると、そのとおり、いい考えだと褒めてくださった。
そしてふたりでおしゃれして王宮に行ったのだ。
エリシアを呼び出してもらったら、会えないと返事がきた。
するとお母様は
「やはり、なさぬ仲の親は会ってもらえないのね、遠く影からでいいので会わせてもらえませんか」と涙を流した。
すると守衛さんは同情してこっそり案内してくれた。
丁度、姉はひとりで、本をたくさん持って歩いていた。そこを呼び止めておかあさまが、わたしにアレクサンダー様を紹介するように、お話した。
役立たずの姉なのにわたしの為に働けるいい機会を与えようとしたのに、姉は断った。
もめているところにアレクサンダー様と護衛がやってきた。
アレクサンダー様が知らない言葉で姉に話しかけた。姉もしらない言葉で答えた。
2・3回やりとりするとアレクサンダー様は
「この者らを捕えよ」そういうと護衛がわたしたちを捕まえた。
姉はアレクサンダー様と一緒に去っていった。
その後、執事がむかえにきた。家にもどるとお父様のいいつけで、部屋に閉じ込められた。
夜おそく家に戻ってきたお父様は、とても怒っていた。
お父様とお母様のくわしいやりとりは怖かったのであまりおぼえていないが、以来お父様はわたしとお母様に冷たくなった。
わたしは学院に入学するとお母様の言いつけ通り、いろいろな令息に声をかけた。、彼らは親密にはなってくれたが、結婚の話になると冷淡になった。
学院では結婚相手を探すことを最優先にした為、成績は良くなかった。そして婚約者がいないまま卒業するはめになったわたしは、教授に誠意を込めてお願いして、文官の見習いに推薦してもらった。
見習いなんてすぐに卒業できると思っていた。だってわたしは見た目だけのご令嬢じゃないのよ。
その気になれば、外国語なんてすぐに習得できると思っていた。だってあの姉が使っていたのだから・・・
結婚の話に言葉を濁すやつらは皆、わたしみたいな優秀な人を独占できないって言ったんだもの。
だけどわたしの優秀さは実践では役立たなかった。見習いとして追い越していく人を見ていた。
だけど、いつしか、わたしを慕っておなじような令嬢が集まった。
わたしたちがおしゃれをして王宮をそぞろ歩けば皆が、注目していた。わたしたちの役割は癒しだと理解できた。
そんなわたしの生活を、おもしろくないものにする者が現れた。姉と同じ銀髪の女だ。
そして今、わたしは罰として王宮の草むしりをしている。マクベイン家の監督となった、キンバリー家、ミンティーノ家の意向で家名をおおきく書いたお仕着せを着せられている。
彼らはイヤミたっぷりに貴族の矜持は大切だと言うのだ。
それで、お父様は門のところで来客に頭を下げるだけの仕事をしている。お母様は今の季節だけ平民に開放された花園で、『お手洗いはこちら』と書かれた看板を持つ仕事をしている。
お姉さまのひとりは、納入された野菜を厨房に運び、もうひとりはドンキーの雑用係をしている。
お兄様は城にやってきた馬車の整理をしているらしい。
わたしたちは一日が終わると家紋のはいった粗末な馬車で家にもどる。監督に仕事ぶりを褒められる。
「皆さんのがんばりを嬉しく思いますわ。生まれながらの平民のようにこなしておられます。特に夫人は看板を持つ角度が適切でわかりやすいとおもいますわ。あと下級職の皆さんからも、お褒めいただいていますわ。最近、下級職は学院に行く時間が勿体無いとお考えになる、実力ある方が増えておりますでしょ。皆さん使用人のいる生活になれておられるので、雑用係を重宝してくださいましてね。明日からは厨房に行かずに雑用係をふたりで努めてくださいね。では解散」
褒められて嬉しいわけではないわよ。こんなイヤミ。だけどこんな仕事ってさぼったら食事を抜かれて・・・・以来仕事をこなしているわ。スープの具も増えるしね・・・
粗末な食事を済ませ水で体を洗うと、ベッドにはいる。
こんな生活がどれくらい続いただろう?どれくらい続くのだろう?と嘆くまもなく眠りについた。
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