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おしえて、研修生!  作者: きりぞら
第参章 踏み出せ、掴め。ヨンギの風
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第18歩 痛みなき解放の刃


 ユースティとアザーディが進むと同時にすれ違うのは、森に住む魔物や生物たち。どれも、二人が向かっている方向からまっすぐ逃げてくる。辺りに低く鈍く響く、ぶつかるような、崩れるような音が大きくなって。足元に気を配りつつ先へ進めば、荒れた草木と開けた場所が視界に入った。



「そろそろ相手が見える。……見ても大丈夫そう?」


「いけるいける!」



 薄目になりながらその先へ視線を向けたユースティ。そこには確かに木々と同じ位の大きさの二体が居た。


 一体目は形が左右対称ではなく、どろりと溶けたような体に太く短い足や細長い触手がいくつも生えた姿の何か。体の大半がいくつもの目と口で埋まっており、咥内にはウンブラのものと似たような、ぎっしりとつまった鋭い歯が並んでいる。

 二体目は浮遊した十字架に似た骨に巻き付くように肉付けされた姿の何か。肉には模様のように細かな溝がいくつもあり、それらが生々しく蠢き、湿っぽいぬるい空気を周囲に撒き散らしている。


 どちらも頭上に虹色の光の輪がぼんやりと見える。もし人間がそれらの姿を受け入れられるとすれば、正気と引き換えに狂気を得た時だろう。

 



「ひっ__」



 慌てて視線を逸らし、口を抑えても飲み込みきれない悲鳴。幸い五月蝿くしたとしても、我を失い暴れている二体に聞こえはしない。



「……やっぱり直視できない、ごめんなっっ」


「まあ本能的なモンだろうし謝ってもなー! よし、そこら辺のものでさっさと魔素を発散させるぞー……」



 準備体操でも始めそうな陽気な様子で伸びていたアザーディが、突然顔色を変えて叫んだ。



「っユースティ、離れろ!」



 二体の怪物に直接敵意を向けられたわけではない。しかし怪物から放たれた視界をよぎる光と背筋が冷える感覚が通り抜けた刹那、ユースティの体が宙に浮く。__吹き飛ばされたことを理解してから、初めて光の着弾点で爆発が起こったことを知る。



「う、?!」



 ……これも魔法だ。速すぎて何も見えない。


 転がるようにして遠くの木に背中を叩きつけられ、詰まった呼吸に咳き込む。鈍い痛みを一度放り投げるように、すぐ起き上がって辺りを見回した。

 爆発が起こった箇所、美しい水色の草木は焦げて灰色の骸と化す。散らばった木片や削れた屑などの中に、鶏卵の形をした金色の道具とペンライトが同じように転げ落ちてきた。そして__



「……おっ……と」



 一度は危機を感じ、その場から逃げたはずの魔物。それらが新たに姿を見せ始める。吹き飛ばされたアザーディとユースティそれぞれを囲み、敵意を向けた……いつぞやと同じように震えながら。



「素直には解決させてくれない、か……」



 ユースティは両手を地につき、まずは目の前で転げ落ちている二つの道具へと立ち上がり、飛び出した。土竜や魚の特徴を持つ魔物たちが口を開け、爪を立て、迎え撃つように構える。

 ただ闇雲に突っ込んだわけではない。飛び出した人間の体は四肢で駆ける獣へと姿をかえ、しなやかな動きで魔物達の攻撃をかわしていく。そうして翻弄する間にも、相手の体を爪で裂き核を表面化させて。



「……よし、」



 そこで後方へ高く飛び上がった獣は、人間の姿へ戻っていく。空中で翻ったケープから引き抜いた魔法銃。瞬く間に全ての魔物の核を撃ち抜いた。消滅する魔物たちを確認して降り立った人間は、ようやく二つの道具を回収することができる。

 集中しきっていたうちに向けられていたアザーディからの目線へ気付き、嬉しそうに叫んだ。



「今の魔素補助、ぴったりのタイミングだよアザーディ! ありがとう!」



 今の動きは全てその間にユースティ自身が行ったものだ。アザーディ当人は、自身の周りにいる魔物を軽くひねっていただけ。



「お前一人で全部出来てるぜー!」


「え?!」


「次はそのまま新技だ。石の上で、瞑想するみたいに集中してみろー!」


「この状況でかい?! やるけど……!」



 困惑はするものの、今更彼の言葉を疑う必要もない。目を瞑り頭を空に。周囲の空間に寄り添うように心を静める。

 ……より冴えてきた感覚の中で、先程まで意識していなかった微かな魔素の流れを覚えた。



「これは……風……?」


「正解。実はヨンギにも魔素の池があるんだよ。微かだが、継続的に漂ってくる魔素は……フッブのものに負けないくらい膨大だぜ」



 その間に真隣に来ていたアザーディ。彼はゆっくりと目を開けたユースティの視界の中で二体の怪物の一体目……地を這う者へと指をさす。



「でかい魔素にはでかい魔素を。お前なら出来る。相手はウンブラだし威力は気にするな。

 最大限で吹き飛ばせ!」


「わかったっ」



 改めて金古美の蔦装飾がなされた武器を両手で構え、まずは一体目にその銃口を向ける。

 __深呼吸。辺りの風を掴み、更に威力を増やすように。一点に集まる烈風の重み、肌を伝う雫まで。……鮮明にその身で感じて。



「____っ」



 しっかりと支えた銃身、引き金に位置する指へ確実に力を込める。



「行けっ!」



 高く響く発砲音。撃ち出された銀色の弾は音を置き去りにし、地を這う一体を瞬く間に貫いた。……静まり返った一時の後、幾度も鋭く切り裂く銀の刃が通り抜けていく。


 その様はまるで鎌鼬(かまいたち)


 確かに大きな切り傷は視覚的に刻まれているのだが、怪物は血も流さず。声もあげないまま静かに倒れた。……たちまちその巨体から黒く濁った濃い魔素が巻き上がり、弾けていく。



「……!」


「ひゅー! かっくいぃー!!」



 興奮した様子で身を乗り出したアザーディ。一瞬に全ての集中を込めていた体がふらつき、体勢が崩れたユースティ。しかしその眼光は戦意を失ってはいない。



「本当なら今すぐにでも、倒れたいけど……!」



 苦笑いで告げるが、それが叶わぬ願いだということも明らかだ。__あっという間に一体目を倒した魔弾に、浮遊する二体目の警戒がユースティたちへと向いていた。先程の魔弾を撃つことで元に戻せるとして、相手を確実に仕留める力を込める時間の為、大きな隙をつくる必要がある。

 幸い、ユースティには思いついていた策があった。



「アザーディ、君は耳を塞ぎながら動くことは出来るかい」


「いきなり無茶言うなよ、出来るぜ!」


「出来るんだね。……じゃあおれが耳栓をつけてる間、お願いするよ。

 今度はあいつに、もう一度同じものを撃ち込む!」



 新たに取り出したのはフッブでアイシャに貰った深い緑色の耳栓。迷いのないユースティの行動をアザーディは見つめる。



「すっかり本調子だな、ユースティ!」


「……うん。おれ、やっぱり自分から頭を突っ込まないとやってられないみたいだよ!」



 そう告げたユースティが次に手に取るのは、先程拾った二つの道具。アザーディが耳を塞ぐ意味を察すると同時に、金色の鶏卵のような道具のボタンが押された。流れ出す愉快な音楽。聞いた瞬間に体が強制的に踊りだすコッペリウスの発明品、きょーせーだんしんぐくん。


 なんと怪物にも効能は同じなようで、相手は浮遊しているにも関わらずその場でリズムを取り、愉快な音楽とともにくるくると向きを変え、体を傾かせて踊りだした。



「っわ。あんなの見せられたら二度と怖く見えねーなあ……」



 滑稽な光景にぼやくアザーディだが、ユースティも耳を塞いでいるため会話は一切成立しない。

 愉快な音楽と景色はかなり脱力を誘うものとなっているが、銃を構え怪物を見据えるユースティの周囲だけが、異空間のように張り詰め、静まっていた。


 __発砲。


 瞬く間に広がる鎌鼬が怪物を解き放つ。黒い魔素の煙が晴れる頃、そこには気を失った二人のウンブラの姿があった。ユースティは無事、マーダによって錯乱した彼らを解放することに成功したのだ。



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