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おしえて、研修生!  作者: きりぞら
第参章 踏み出せ、掴め。ヨンギの風
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第17歩 火種の燻り


 水色の森の探索を続ける中で、ふとよそ見をしていたアザーディが何かにぶつかった。目の前で跳ね返ったのは、小さなウンブラ族。

 


「あ」


「!……き、貴様、いや、……」



 彼は先程現長の側近だと名乗った影だ。その体は水色の砂に汚れ、弱ってぼろぼろに傷付いているように見えた。同化も自然回復もしていないことから、怪我してから間もないと察することが出来る。

 そんな彼はアザーディへなにか言いたげに口を開いたものの、先程説教を受けたこともあってか目線を泳がせて黙り込んだ。一方しばらくそれを見て待ってはいたものの、結局通り過ぎようとしたアザーディ。


 目の前にユースティが立ち塞がる。



「……いや、明らかになにかあった様子じゃないか。無視するなんてないだろ」


「んー、無視したいわけじゃねえけどさあー。コイツさっきオレにめちゃくちゃ言ってきたしー」


「アザーディ?」



 明らかにぴくりと体で反応した影の前、ユースティがたしなめるようにその名を呼ぶ。拗ねる真似をしていたアザーディは、くすっ。何処か懐かしむような微笑みをこぼした。



「……っはは、わかってるよ。リリーといいお前といい、本当にお人好しなんだから」



 そんな男に改めて向き直られたウンブラの子はどぎまぎして、居心地が悪そうにより小さくなった。



「さっきは、ごめんなさい。……聞いてほしいことがあって、」


「いーぜ。誰を助ければいい?」


「え」


「ほら、いってみ」



 目線と動作で話をさらに促せば、すでにアザーディが手助けする心積もりであるということを理解し、戸惑いながらも説明を始める。



「ボクはよく……空の国の兵士とかがいつ攻めてきてもいいようにって、友達二人と模擬戦をしていて」



 先程聖域にて現長のために、と一人強がっていたであろう態度はすっかり剥がれている。どうやらこちらが自然体らしい。ユースティはそれでようやく、かつて現長へ近況を報告していたウンブラ族と彼が同じだと認識した。



「それで、いつもこれを使ってた」



 彼が握っていた手を開き見せたのは、あの黒く丸い錠剤、マーダ。



「そしたら、今度は二人だけが戻れなくなっちゃった」


「戻れなくなったっていうのは?」


「暴走した、あのボクと一緒なんです。続けて飲んでると、たまにいつもより強そうな姿になれるんだ。でも次第に考え事がまとまらなくなって、訳がわからないまま、暴れだしてしまう……」



 つまり彼の友達は、マーダによる魔素の過剰摂取によって体が耐えられず怪物化し、現在進行系で正気を失っている。

 ユースティの表情が悲痛に歪む隣で、アザーディは目を細めた。



「色々な理由付けでこれを拡め、内戦か混乱でも起こして。お偉いさんの対処が追い付かないうちに、国や集落はぼろぼろになる。……そうやって、他の場所でも手遅れになって旅人が減ったのかもな。

 いや、どうあっても回りくどい。単にやっこさんの人不足か、他に理由もありそうなものだが……?」



 そんな呟きを聞きながら、子はすっかり泣きそうな声で元長へと飛びついた。



「ヨンギも危ないってことですか?! そんなのだめっ。お願いします、あの時貴方がボクを爆発で戻してくれたように友達を……二人を戻すのを手伝ってもらえませんか!」



 アザーディは子が来た方、その先を見据える。怪物化した彼の友達は今も水色の森の中で漂っているようだ。



「悪い。手伝うっていうか、オレらに一旦任せてくれ」


「えっ……?」


「代わりにお前は長の言葉を代弁する者……側近として。この黒い錠剤は禁止にすることを皆に伝えてほしい」


「!」



 子は責任重大な役目を担うことに喜んだが、ふと俯く。



「でもボクさっき、決闘のこと甘く考えてたりして、側近失格だから……」


「いーや。もう素直に謝れたんだから十分だよ。

 それに後輩自身、お前のことを側近として認めてたしな。いざというときのため友達と模擬戦もしていたっていうのも、気合があって好印象だー!」



 ちょっと見栄っ張りなのがキズだっただけ。アザーディがしゃがみ、その頭に左手を乗せ優しく撫でる。

 安心した表情で、友人がいるであろう方向へ立ち上がった彼は遠慮がちに口を開く。



「あっ、あの……ボクがなんとか戻れた後、一瞬だったんだけど、すごく気分が悪くなったんだ。本当は数秒なんだけど、何時間にも感じるくらい苦しくって。もし戻れたとしても、友達もそうなっちゃう……と、思う。あの時だけでも全部忘れられたら楽になるはずなんですけど……」



 アザーディは少し考える仕草を見せたが、すぐにユースティとハザックへ向いた。



「まあとにかく、いくぞー!」



 ハザックはそこでようやく口を開いた。



「オレはパスだ。ウンブラを助けても得はないだろうからな」


「なっ、ハザック……!」



 共に助けに行くために説得を始めようとしたユースティを抑え、アザーディが口を開く。



「そうだな、今は恩人になっても、ウンブラは後々狩りになれば平気で襲うだろうし得はない。好きにしてもらっていーんだけど、一つ条件がある」


「……何だ」


「オレらが行ってる間、水色の森にあるオレの記憶の葉を探していてほしい!」



 約束な? と、有無は言わせない声色で笑う。そのままユースティを連れて森の奥へと向かったアザーディを、ハザックは冷めた目で見送り、鼻で笑った。


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