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おしえて、研修生!  作者: きりぞら
第参章 踏み出せ、掴め。ヨンギの風
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第16歩 際の優しさ


 聖域での話を終え、巫女服の少女が帰るのを見送った後。ユースティは再び動物の姿の練習をしつつ、アザーディ、()()()()と深緑の森を歩いていた。



「おい、ユースティ」


「ん?」



 戻る時の服のことだが。……ハザックからの唐突な声掛けに首を傾げ、向き合った。



「テメェがその姿の時点で服を持っておくか体に巻いておけばいいんだよ。あとは本人がイメージしておけば、魔素の動きが補完してそのまま着れる」



 人間と今の姿は体格が違う上に、巻くだけではそのまま戻っても裸巻きになりそうなものである。

 


「やってみたいけど……もし出来なかったらとんでもないことになるぜ」


「どちらにせよ見るに耐えない貧相な体だろ」


「流石に殴ってもいいかい?」


「は、テメェの拳なんざ効かねえよ」


「はーいそこまでそこまで。まあせっかくだしやってみようぜー!」



 珍しく仲裁役でアザーディが割り込み、ユースティへケープなどの衣服を巻き付ける。そして覚悟を決めたように変化を試せば……なんと、そのままもう一度虎の姿へ、人間の姿へ。何度繰り返しても着衣に乱れがない。

 最終的に人間の姿に戻ったユースティは、不思議そうにその場で自身の体を見回す。



「__本当だ……!」


「まあ、変化の魔法の基本だろ」


「最早何でもありじゃないか!」


「現実だって何でもありって点では負けてないぜ。あっち見てみろよ!」



 アザーディが指差した先。霧のない、水色の草木__海草のように薄く伸びる植物や、石にサンゴ礁のようなものが生えている__、そんな場所があった。

 木の葉はまるで細かく小さいビーズのように、中心に丸く穴が空いているものが集まっている。緑の森から地続きのそこは地上のはずなのだが、ゆらゆらと揺れる視界、定期的に白い泡が登っていく様子はさながら水中だった。



「なんだい、あそこ」


「水色の森。オレがヨンギで一番好きな場所だー!」



 好きすぎて名前貰った時に髪が水色になったくらいだからな! と、アザーディは本当か嘘かわかりにくい声色で告げる。そのまま駆け寄り、一番に目の前の森へ飛び込んだ。



「ほら、……最初は、冷たく……感じるけど、ほんのり、暖かくて安心する、んだ」



 笑顔でゆっくりと着地し、振り返ったその声も同じように遅くなる。ユースティとハザックは顔を見合わせた。



「ん、どうした、二人共。来ない、のか?」


「話せてるってことは空気はあるんだよな? そっち、まるで水中に見えるから……」


「……はは。どうだと、思うー?」



 境界の前で立ち止まっている二人。ニヤニヤと得意げにしたアザーディは突然二人の腕を掴み、一気に水色の森へと引き込んだ。



「わぁあ?!」



 水の中のようであればと、水面を破る際に感じるような衝撃に備える。冷たい感覚。反射的に息も止めて目を閉じた二人だったが……



「っははは、地上が水中なわけ無いだろ!」



 途端に流暢に話し出す声。目を開けると水色の森の中、呼吸も踏みしめた地の感触も地上そのものだった。



「ドッキリ大成功ー!」



 ……直後言うまでもなく、アザーディは二人のデコピンを喰らうことになる。しかし完全な嘘でもなかったらしく、ユースティ達は全身に空気を纏ったような重さと浮遊感、ほんのりとした優しい暖かさを覚えていた。



「確かに心地良い場所だね」


「……だろ?」



 アザーディは痛む額を左手で押さえつつ、右手で辺りの草を千切って食む。薄く柔らかそうに見えた葉はどうやら乾燥しており、パリ、と音がなった。



「ちなみに、ここの草は全体的に塩っ気がきいてて美味いぜ」



 ユースティも真似をして草を食べる。潤いのある見た目とは裏腹にパリパリとした食感のギャップ。驚きの表情を見せるその隣でアザーディがハザックにも草を差し出したが、無言でそっぽを向かれる。仕方がない、とそのまま自分の口へ入れた。

 そのまま水色の森を歩き出した一行は、地面に埋まりかけた白い肋骨を発見する。ユースティは辺りを見回すことも忘れて近寄った。



「なんだい、これは」


「あ。近付かないほうがいいぜ」



 え? アザーディの声に立ち止まったユースティは、目の前の白い物体が細かく動いている所を見てしまう。



「うえっ?!」



 確かにそれは骨であったのだが、表面には屍を分解をしていた丸く小さいふわふわとした生物がびっしりと群がっていた。

 よく見れば足元にもその列は続いている。そんな彼らの移動方法は……



「全身で、転がってる……!」


「そうそう。ちなみに浮遊もする」



 周りを見れば確かにその生物が、まるで植物の胞子のようにふわふわと飛んでいた。黒い二つの点が目であるようで、マスコットのような愛らしさを感じさせる。



「なんだか可愛い……」


「そうかあ? ……あ、こいつらの成体があれなんだよ!」



 指で示された先から、何かが飛んでくる。目を凝らそうとしたユースティだったが、もふり。

 成体だという粉っぽい毛玉が顔一面にぶつかった。



「?!」



 そのままくっつかれてしまったが、後から追いかけてきたタコのような軟体生物が触手で絡め取り捕食。ついでに墨を周囲に撒き散らして去っていった。



「うぶえっ……なに、何?! 何があったの?!」



 奪われた視界が開放されたと思えば、墨に覆われて。混乱の声をもらすユースティ。その一連を見守っていたアザーディが口を開いた。



「墨の魔物に助けられたな!」


「わけがわからない、どういうことだい……!」


「あの白い奴の成体は基本、屍肉に産卵する。だけど生きてるやつの眼球の中とかにも、遠慮なく卵は産むんだ」



 墨を払いながらの会話だったため理解が遅れたが、つまりあの成体が、先程の骨に群がっていた小さな綿の幼体を産む。

 一つの屍肉にあれだけの幼体が孵化し、骨だけになっていたということは。万が一眼球の中で産卵されれば__


    

「前言撤回だ、全く可愛くない!!」


「っはは、そうだなー!」



 一連を眺めていたハザックも呆れた様子で、アザーディを適当に親指で示す。



「こいつがいるからまだマシだが、本来は魔物もウンブラ族とやらも襲ってくる筈なんだぞ。簡単に気を抜くな」


「おー! イイこと言うじゃんハザちゃーん!」


「ちゃん付けするな」



 アザーディが後ろから肩を組む。仏頂面でそんなうざ絡みを受け入れている……というよりは、とうに諦めているのかもしれない。

 


「……。

 そうだね。ありがとう、ハザック」


「__テメェは、すぐ野垂れ死にそうだからな」



 フン、と鼻で笑う。ユースティは苦笑いすると無意識に頭をかいた。


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