第6歩 休息も大事
赤の記憶を見た後、橙の森を歩いて行くユースティ、アザーディ、ハザックの三人。その歩いた後から葉が浮き、葉の裏側に隠れて生きる小さな生物たちが時折顔を見せる。視界の端には大きな落ち葉の山。そこへ寝転べばふかふかで心地よいだろうが、この森は魔物もウンブラ族もいる。油断は許されない。
「よーし。この辺りで休むかぁー!」
だからこそユースティは、そのアザーディの言葉に意外だと言わんばかりの表情を見せた。
「いつもこんな森の真っ只中で寝るのかい?」
「ん? オレは寝なくてもいいけど、夜だからな。お前は寝たほうがいいだろー」
指で上を示されて空を見上げるが、相変わらず生い茂った木の葉と霧であまり見えない。指摘されてようやく辺りが暗くなっていることに気付いた程だ。
「おれも眠くはないぜ?」
「眠たくなくても寝るんだよ、お前は若いんだから余計な。見張りは任せろー!」
見た目だけで言えばアザーディも年齢は変わらないこともあり、違和感は拭えない。複雑な顔をしたユースティの頭にぽん、と手が乗せられて。
「その代わり、もしオレに食欲が戻ってきたりしたら。喰われる覚悟はしといてくれな」
「えっ」
見張り役の彼に襲われては本末転倒である。ハザックが早々に木の上に登り、少し辺りを警戒してから寝転がった。
「くだらん。お前に何があってもオレサマは止めないからな」
「ハザック?!」
「寝るのは待ってくれ、ハザック。野営で使えるもの貸してくれたりしないかー?」
「無い」
抗議の声をあげたユースティを無視し、アザーディを一蹴した彼。次第にいびきが聞こえてくる。……相変わらずの寝付きの良さである。
ぎゅっと下唇を噛みしめつつも、八の字眉毛のしょんぼり表情を見せたアザーディ。ユースティが似たような表情を返すと、耐えられなかったようで吹き出した。
「まあいいや。普通の赤の葉はいくつか持ってるし、火はなんとかなる。オレはお前の分も狩りをしてこようかな!」
ユースティにとってもその申し出はありがたいが、今までのことを振り返るとどうしても不安が拭えない。
「選り好みはあまりしたくはないけど、人肉だけはやめてほしいな」
「えー? どうしよーかな」
「頼むよ」
念押ししてみれば、ふと悪戯っ子のような表情になる。
「じゃあ代わりに……ちょっと変わった狼の肉はどうだ?」
そう言ってすぐ、側にあった大きめの石を思い切りハザックの寝ている木の上へと投げつけた。
「…………チッ」
いびきをかいていた筈だった彼もそれを腕で掴むと、アザーディをギロリと睨んだ。一触即発といった空気が流れ、ユースティは慌てて二人の間に割って入る。
「嘘だろ待ってくれアザーディ! おれたち予知夢で示された! 君の記憶を取り戻すための仲間!!」
「それはそれ、これはこれ! 適度な戦闘は愛情表現だぜ。折角だからな!」
「何が折角なんだい戦闘狂!!」
「テメェ、オレサマに石を投げてくるとはいい度胸だ。二度と起き上がれないようにしてやる」
「ハザックまでなんで乗り気なんだ!」
どうやらこのままでは喧嘩が始まってしまう。ユースティは頭を抱えるが、ふと上を見上げてはっとしたように指をさす。……例の手段を使うためだ。
「おおっと! あれはもしかして幸せの青い鳥かー?!」
「?! なんだそれ?!」
ユースティに透視が出来ない以上、ここから空を飛ぶ鳥など見えるわけがない。しかしアザーディは再び引っかかってくれる。先程までのやり取りをそっちのけでユースティの指差す先を夢中で探しだした。
ハザックはそれを呆れたように見ていたが、無愛想な舌打ちをして再びいびきをかき始める。なんとか衝突は避けられたようだ。
「ユースティ、幸せの青い鳥って何?! 青いだけじゃないのか?! どこ?!」
相手が戦意を喪失したことにも気付かず興奮しているアザーディに、ユースティも軽いため息をついて目を細める。
「__嘘だってば」
再び騙されていたアザーディはすん、と大人しくなる。少し恨めしげにユースティを見て低い声で告げた。
「お前なんかずりい……」
「ずるくて結構! 一緒に行動する以上、必要以上にお互いで消耗し合う意味がわからないからな!」
止められる理由に納得が出来ていないらしく、唇を突き出して反論する。
「別にいいじゃんか、減るもんじゃなし。平和主義者なんてつまんないだけだぞ」
「おれは平和主義者じゃない」
「じゃあ何者だよ」
「何者、……っていわれても」
今までのように答えられなかった人間。唐突な質問に戸惑ったその様子を、アザーディは不思議そうに見る。……そういえば人間は腹を鳴らしていた。きっと空腹で疲れ、戦いどころではないのだ……と、またもや自分なりに解釈をして納得し、切り替えた。
「飯。めちゃくちゃ美味しい魔物の肉にしようか」
「えっ」
「ん?」
「……いや、何でもない」
対してユースティは唐突に提示された、魔物を食べるという概念に身構えた。相手は魔物食も一般的だといったような様子である。おそらく他にもあるであろう、ウンブラ式の食の選択肢は未知数。対象がある程度理解できる内はまだマシだ、と覚悟を決めた。
「おれに出来ることはあるかい? 火を使うなら、なるべく乾燥してる枝とかも持ってきたらいいかな」
「お、そうしてもらえると助かる。じゃあまた後でなー!」
その会話の後、二人は早速と言わんばかりに別れた。少し特殊な環境ではあるものの、一般的な森と同じように枯れ葉や枝がそこら中にある。必要量もすぐに手に入る筈だ。
適度に歩いた先でしゃがみ、枝を集めだしたユースティはふと鼓膜をくすぐる声に意識が向く。
「?」
それはすぐ近くの草むらの先から聞こえてくる。無邪気な子どもたちの声と、力みすぎで不安定ではあるものの堂々とした歌声。……ユースティは音を立てないようにひっそりと歩き、陰から様子を覗き込むことにした。




