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時を経て、再び?


 朝の訪れを告げる空の色へ染まり始める街並み。気温の変化により水路から発生した濃霧に紛れて。躓くことも気にせずおれの手をひき、階段を駆け登っていく彼女。

 そんなに荒い息を吐いてまで、一体どうして……だなんて。わざわざ聞ける訳がなかった。


 段々と視界が開けていくと共にたどり着いた廃公園。そこには遮るものも、踏みしめられる道もない。あるのはいつぞやと同じ、真上に広がる宙の蒼と、真下に位置する雲の海だけ。

 彼女が立ち止まり、おれを前に移動させて。パラシュートの類であろう部品を付けていく間……はじめて、怖いと感じた。


 この薄明に溶け込んだら、おれはきっと。__そう簡単に考えていた自分が、今となっては恨めしい。



「よし……前回も渡したパラシュート、装着完了しました。今度はあの時とは違いますよ」



 嗚呼。肌を刺すように吹くこの冷たい風と共に、覚悟を決めろとばかりに軽く背中を押された。いくらでも吐き出せそうな弱音を抑えつつ振り返れば、白長髪の白衣を着た女性__コッペリウスが薄紫の瞳でこちらを見つめ、一転して大げさに告げてみせる。



「さあユースティ。長いようで短い研修期間は終わりました。あなたは今日から本当の探求者になるんです!」



 まるでこれからショーが始まるかのような前口上。自分は今、どんな表情をしてしまっているだろうか。寒さには慣れている筈なのに、体の震えが止まらない。



「……どうすれば、いいんだい……」


「大丈夫。スカイダイビングは二回目でしょう」


「そうじゃなくて」


「薄明だってこの前と変わらず美しいままですし、私の発明品もついてます」


「君の発明品、おれなりには大切にしてたんだ。なのに無くしちゃった、持ってたものも壊しちゃって……」


「そんな時もあります」


「ここから降りてもすぐ捕まったり、地上のみんなが悪いひとたちじゃないってことさえ証明できずに、死ぬかもしれない。そしたらもう、あとは……」


「私はあなたの師匠なのでしょう。見捨ててほしかったのなら、私に縋るべきではありませんでしたね」


「っそういうことでもなくて!」


「まだ留まるというなら私も一緒に落ちますが? あなたが壊してパラシュートはもうその一つしかないので、私は無事ではすまないでしょうね」


「──……っはは。相変わらず酷いな。それでいて君は」



 ここから生身一つで地上に行くなんて、ただの自主投身そのもの。無理矢理でも引き留めるか勝手にしろと見捨てるのが周りの反応としては正しい。


 それなのに彼女は自分の発明品を渡し、見送りまでしてくれた。おれよりもおれを信じてくれる。とっても素敵で最低なお人好しだった。



「まぁ、面倒にならないようにやれるだけのことはする。私はそういう主義なので、これからもご心配なく」


「…………いきたくないよ、コッペリウス」


「冗談言わないでください。一回目はさっさと飛んだくせに。さあ、押しますよ」



 彼女の両手が優しく背中を押す。体が再び宙へと投げ出された。

 こんなことをされてしまったら。……そんなこと、君はわかりきってる筈なのに。

 


「いってらっしゃい、霧空。

 必ず無事で帰って来なさい」



 お願い、もうこれ以上____



「約束、ですからね」



 声を最後に、そのまま落ちて行く体。


 冷たく叩きつけるような風。浮遊感。確かなものがなく、不安で怖くて……それでいて死の隣で、高揚する感覚。こういう時に限って気を失えない。覚悟を決めた時でさえ不快感が拭えなかったのに、今となってはこの時が苦痛でしかない。


 雲を抜ければ地上の様子が見える。空想しては憧れた、鮮やかで輝くような異世界。それを見下ろすことは二度とないと思っていた。

 そして気を失うか、それともおれが起動しないか。そこまで考えられているらしく自動的に開くパラシュート。呆然と身を任せるまま、スピードが緩む。



 ……前、降りた時は、この後__



 プシュッ、そんな嫌な音がした。



「?!」



 顔を上げて、大きく穴が空けられたキャノピーと、空で羽ばたく何かの影が一瞬視界に入った後。体の落下スピードが加速した。叫ぶ間もなく途端に絡まり自由を奪われる感覚……そこで思い出す。


 前に降りた時も途中までは順調だった。……そう、途中までは。



 ああ、そしたらおれ、どうして無事だったんだっけ?



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