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第X修 逃亡の果てに



 ユースティは抑え込もうとしてくる兵士の何人かとぶつかり、避け、すれ違いながら中央塔の中を走っていく。迷路のような道のり、同じ景色に見えるそこから外へ出られないまま。とうとう前後を兵士に挟まれてしまった。



「……!」



 じりじりと詰め寄られ、行き場を失ったその者にかけられる声。



【こっちだよ ユースティ 窓】


「! トエル……?!」



 その声とともに意識が向いたのは、廊下の窓の内の一つ。思考よりも先に、体が迷いもなく飛び出す。ただでさえ高所だ。姿の見えない幻想と話し外へ飛び出した人間へ、兵士たちから驚きの声が上がった。しかし人間にそのまま地上へ落ちるという選択肢もない。トエルの声に導かれるまま、外側に張り巡らされた建物のパイプを掴み、滑り降りて。



「っ痛……!」



 手の皮が荒れる痛みに一度階下の廊下へとうつり、渡り廊下を渡る。そして違う窓から飛び出てパイプを伝い中央塔の十三階からどんどんと降りて行った。最早無我夢中で人離れした動きを見せていく人間は、中央塔の上から空の国の街中へとあっという間に降りきってしまった。


 夜中でも窓越しに照明がついているのが見える高層ビルの並び。無造作に積まれたままのコンテナ。人間はひたすらに白い息を吐き切らし、脳内に語りかけてくるその声へ問いかける。



「ねぇ君って……これ、どこにむかってるんだい……っ」


【いいよ、そのまま走って】


「なんのために、おれを……」


【そんなの決まってるじゃない、____】


「っあ」



 意識が揺れ、足元が移動したような感覚を覚え。膝から崩れ落ちて地に倒れた途端に声は聞こえなくなる。



「……ああ、なんだよ、これ……っ」



 ただでさえ高い場所から降り、走り続けたことによる気圧の変化や酸欠に痛む頭。両手で押さえても、叩いても、掻きむしっても。霧がかった記憶は晴れてくれない。見て見ぬ振りをしてきた吐き気もすっかり戻って来てしまつた。


 なんだか途端に、全てが馬鹿らしくなってくる。



「あは、ははは……なんで、逃げちゃったんだ、おれっ?」



 ライズの言葉のせいではない。確かに自分の意志で逃げ出した。……仕方ないこととは言え、罪を肯定したようなものだ。


 これが冤罪だとはっきり言えたなら、どれほど良かったか。しかし自分で自分の無実が証明できない。もし自分が無実と仮定したとして、地上で本来知られている筈のない名前が出てきたあの音声が心を苛むのは変わらない。

 …………足を取られ立ち止まったことで一気に押し寄せた波。処理しきれず息が詰まる。(むせ)ぶ。涙、涙、涙____



「ユースティ」



 ふとかけられた、聞き慣れた声に全てが霧散する。顔を上げて、応えた。



「……コッペ、……ス……?」



 同じように息を切らした彼女は、人間を探しに来ていたようだ。安心少し、悲しみ大半な表情でしゃがんで、その顔を覗き込む。



「すでに国中でニュースになっていますよ。どうしたんです、あなたが殺人だなんてするはずがないのに。

 何も言わずに逃げて来たら、自分だって言ってるようなものでしょうが……」



 いつも通りに接そうとして、震える声と表情。__駄目だ。こういう時こそ、おれはいつものような笑顔でいなきゃ。



「なあ、コッペリウス。君にとってのおれは、まだ、おれなのかい……?」


「__は?」


「わからないんだ、もう」



 ソルリアは魔法でエトワールの元に帰った。何も心配することはない。こうなってしまった以上もう会わない事が彼のためになる。そして目の前の彼女も、もう巻き込むわけにはいかない。



「何を血迷ったことを」


「どうせ捕まるなら、君がいいな。なんて……ッ!」



 そこまで言って、口を抑える。自身で目が潤み、上げようとした口角がひきつっていることに気付いた。



「あは……何でもない、忘れてくれ!」



 ……コッペリウスはため息をつき、ユースティの腕を掴んで引きよせた。



「ほんと救いようのない馬鹿ですね、あなたは……!」



 ふらつくその体を無理矢理に起こし、引っ張って連れて行く。今のユースティには彼女に逆らう気力など一切なく、ただただ不思議そうな表情で告げる。



「どこ、行くの。そっちは中央塔の方向じゃ、」


「いいからきなさい!」



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