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いつかめ 証を忘れるな?



 __月の光が照らす、中央塔本部奥の廊下。ユースティの前から飛び退いたその影は、人型をしていた。

 両方に三つ編みのおさげがある長髪の女性。両足でまっすぐ凛々しい立ち姿、確かな強者の圧。ユースティは確かに目の前の剣士がソレイユだと認識している。


 実力差がある相手に対し、その攻撃を避けて防ぎきるには限界がある。ユースティの体は回復が早い方のようだが、それも明らかな劣勢の中では意味をなさない。それぞれ人並み外れた二人の駆け引きは、一方的なものに思われた。



 眉間を貫いた、その銃弾。



 隙をひたすらに窺い、訪れたその瞬間を逃さなかった。今までの劣勢が嘘のように目の前で崩れゆく剣士の体。しかし諦めていないのか、這ってでもこちらへ攻撃を続けようとする。次はそんな彼女の左胸の臓器を撃ち抜く。

 ようやく動きが止まったその体は、魔物とは違い消滅はしない。


 とうとうヒトを、自らの手で。



「__は、はは……」



 ……それは自身が非常に恐れていたことの筈だった。しかし緊張感と死の淵の重圧から開放された心は、安堵と快感に塗りつぶされていく。

 気付けば、あの愉悦の笑みを浮かべていた。



「あははははははっ!」



 調子の狂った笑い声と共に、証拠となる自身の銃で廊下の窓ガラスの一つをヒビ割れさせて、そこへ勢いよく投げ入れれば____



 ____……っっ?!」




 五日目……しかしまだ日が登る前。ユースティはライズの持ち込んだ布団の上で飛び起きた。全身が一気に冷めた感覚、頬を伝う汗。

 咄嗟にケープの中をを探るが、先程まで手にしていた銃がどこにもない。もぞもぞと動いたユースティの気配で目を覚ましたのか、ライズが珍しくぼんやりとした声をあげた。



「ん__どしたあ」


「ラ……イズ、おれ、あれから影を追いかけてった?」



 何を言ってるんだ、と言わんばかりに返事は遅れて返ってくる。



「なあに言ってんだよお。あれが窓から出てからは、何もなかったろおッ?」



 対してユースティの記憶は霧がかったようにぼやけていた。無我夢中であったからか、夢も現実も曖昧に感じられる。

 そんな二人の耳に、近くを通る複数人の忙しない足音とぴしゃりと張り詰めた様子の声が聞こえてきた。



「!」



 位置的にすぐそこの廊下だろう。ユースティは不安に駆られ、寝ぼけているライズを背にすぐに部屋を出ていく。窓が等間隔に並んでいるその廊下には、先程の会議にいたディセントとロディ、そして鎧を着た空の国の兵士たちがいた。彼らは何かを半円状に囲んでいるようだ。



「ああ、霧空くん。遅かったね」



 声をかけようとした人間にディセントが真っ先に気付く。人間の名が呼ばれれば、周囲の者たちからはざわりと声が上がった。



「……なにが、あったんだい?」


「とぼけた振りはよしてよ、わざわざ見せなきゃだめかな」


「は?」



 目線を誘導された先。彼らに囲まれていたのは、眉間と心臓を撃ち抜かれ、血を流して倒れているヒト。


 それはソレイユと名乗っていた女性の死体だった。


 彼女のすぐ近くにある窓が乱雑に割られ、血が飛び散っている。荒々しい殺人現場であるのに、その急所を確実に狙った弾痕には一切、迷いが見られない。



「____!」


「……君には、無実であってほしかったんだけど。その行動さえ嘘だったのかもと考えると……胸が痛いよ」



 確かに撃ち抜いた記憶と同じ位置のそれ。言葉を失うユースティに、ロディが腕を組み顎髭を触りながら告げる。



「この建物は空の国の浮島から渡り廊下で繋いではいるけど、確実に離れた場所。真下は地上なのよねぇ」


「今日は丁度五日目だ。……窓を割ってまで唯一の証拠を下界へと落としたんだよね」



 示された廊下にある内の一つの窓ガラスは、確かに何かを投げ入れて割れた形をしていた。



「君は賢い手段を取ったね。

 でも英雄ソレイユを支える仕事を選んだ、僕らの国の兵士はそれ以上に優秀だった。すぐに見つかったよ」



 ディセントの懐からは、ユースティの使用していた金古美の蔦の装飾がある白い銃。そしてソレイユを貫いたであろう、二発分の鉛弾が袋に入れられた状態の写真がとりだされた。



「発見時の捜索隊音声もある。聞くかい?」



 返事を待つこと無く、写真と同じ場所からディセントが取り出した録音機器のボタンが押される。

 長時間の録音のようで、早送りをしたあともう一度押されると、ザザ……、とノイズが走ったあと、声が入る。



 ____『見つけました! これが凶器ではないでしょうか』



 録音機器を使った人物であるようで、一番近い場所からその声は聞こえている。周りから空の国の兵士たちであろう歓声が上がった中、突然違う声が割り込んできた。



『知らない顔だな、なんの騒ぎだ?』



 現れたその者に、歓声とは打って変わってざわつく声。



『真っ黒……?! 何者だ?!』



 真っ黒だというから、現れたのはあの森に住んでいた影の一人だろう。一触即発の空気に、録音している者が歩く音が聞こえる。



『騒がしくてすまない。聞きたいことがある。この銃をみたことがあるか?』


『……ああ、ある。この森でふらついていた白い服の人間が持ってたな』



 再びざわつく兵士。



『おい、なんだって? 今言ったことは間違いないのか、そいつの名前は知っているか!』



 ……突然、複数の羽音が姦しく響く。ようやく見つけた証拠だ。興奮し焦った兵士に脅されたのだろう。影の者であろう声は戸惑い怯えた声をあげ、やがて告げる。



『間違いない! この銃は白い服の人間だ、……とやらが……みえにしむくとやらが、持っていた!』



 ____そこでボタンが押され、音の再生が終わる。新しく駆けてきた兵士がディセントに耳打ちをすれば、その目は鋭さを増した。



「たった今、現地での指紋検査も君のものと一致したって。これを今まではどこに隠してたのか、今となっては些細なことだ。……もう逃げられないよ」



 一方でユースティはその証言を聞いてからというもの、目を見開いて呆然としてしまった。

 心の奥底から、割れるような音と同時にドロドロと滲みだしてくるような。自身でもその理由に思い当たらないというのに、確かに感じている不可思議なほどの激情。



「……。どう、して……?」



 思わずこぼれた呟きの意味を理解出来たのか、出来なかったのか。ディセントは続ける。



「よりにもよって最後に英雄に手を出すなんてね。……科学や技術は遥かに僕らの方が上だ。敵うだなんて考えない方がいいよ」 



 立ち上がった彼の周りに、先程録音でも聞こえた姦しい羽音をたて、一斉に浮かんだ大きな蜂の群れ。実際には蜂を模して作ったロボットを兵士が操作し、針を突き出す姿勢で威嚇させる。



「地上のやつらもこうやって知らないモノで脅せば、つよーい魔法と勘違いして無力化出来る。タネを知ってる君にはきかないけどね」



 人間は言葉が出ない。ただただ、その他にあるはずがない心当たりを必死に探そうとしていた。



「ちょっと、反応が薄いわねえ。もしかしてまだ逃げられると思ってる? 確かな証拠がもう一個あるのよ、御縁ちゃん」



 薄い反応へ痺れを切らしたロディが示すのは、ソレイユの手の中。フッブで貰った、ユースティの名前が刻まれた銀のブレスレットだ。



「__っ、」



 ユースティはそれにも目線を向けて、今までそれをきちんと身につけていた腕を見る。そこにブレスレットは無く、ソレイユの手の中のそれが本物だと言うことを理解した。

 兵士たちが詰め寄る中、ただただ立ちすくむしか出来なかった人間。



「やっぱり、今までも……?」


「何ぼーっとしてんだ、逃げろ、ユースティーッ!」


「!」



 ライズの声に、目を見開いて。ユースティは(いしゆみ)に弾かれたように走って逃げ出した。代わりにそこにはライズが立ちはだかり、兵士たちの邪魔をしようとする。



「な……何してるの、兄さん?!」


「ライズ様、お気を確かに!」


「ディセント、ロディッ! お前らこそしっかりしろ、オレとあいつはずっと一緒に居たんだッ!

 んで聞いてくれ、オレのっ__……ぅ、?!」



 ドンッ。……鈍く響く音と共にライズの体が崩れる。突然のことにその場の全員が驚いたが、素早くライズの背後に現れていたロボット2号が告げる。



「安心して下さい 軽い手刀です

 皆様 あの人間を追って下さい」

 


 ロボット2号の活躍により、あまり遅れを取ることなく兵士たちはユースティを追い始める。

 


「……ディセント、逃げるような悪い子は取っ捕まえて尋問ね。ワタシはソレイユの状態も確認しておくわ」


「ああ……あれは晴れて重要人物の殺害犯だ。全て空の国を侵略するための行動だった可能性がある!

 ロボット、兄さんがあの汚れた魔族たちに魅入られている。すまないが塔の牢でしばらく見張っててくれ!」


 

 そうしてその場に残されたロボット2号とライズ。……一瞬遠退いた意識がひくりと震え、なんとか顔を上げたライズがロボット2号を視界に収めれば……不思議な力で歪み、変化していくその姿が見えた。

 ろくに動けないままのライズへひたひたと歩いてくるロボットは、黒の毛混じりの白い体、体躯がニメートル程ある鋭い赤目の狼男へと変貌していた。



「どれだけ真実の預言をしようが、もうお前の声は聞き届けられないだろうな、神の御子」


「__人狼…………、いつの間に紛れ込んだッ?!

 お前、霧空に恨みがあるのかッ?!」


「こちらが求める神以外の存在は要らない。邪魔なだけだからな」



 ライズの問いかけに答えているのかも曖昧なその一言しか告げず、彼を担ぎ、連れて行く。



「ここまでくれば全員始末をしてしまうことも出来たが、折角の機会だ。

 何も出来ない檻の中から、愚かな奴らの踊りでも見ていると良いさ」


「…………!」



 ろくに抵抗も出来ない小さな体は、場違いにも安心したように項垂れた。

 



__________



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