よっかめ 志を忘れるな?
四日目。
ユースティの監視役を名乗り出たライズは、窓から差し込んだ明るい陽射しに目を醒ます。ベッドの上から、小さくくるまるように寝ているユースティの布団の上に転がり乗った。
「おーーはーーーよーーーーうッ!!!!!!!!」
「おはよう……?!」
耳元の大声にすぐさま体を起こすユースティ。ソルリアの起こし方がかなり優しいものだった事を今になって実感しつつライズを見れば、にしっとした笑顔とかちあった。
「ほら、オレは無事だったッ!」
「……そ、そうだね……?」
起きぬけのユースティはキーンとした頭痛と、かすかな安堵を覚えつつ頷いた。
「とにかく皆に報告だ、部屋から出るぞユースティッ!」
その後も強引に身支度を整えさせられ、玄関まで押し出されたユースティ。そうして扉の取っ手をつかみ、外側へ押す……
が、少ししか動かない。
「あれ……何か、引っかかってる?」
「ならばオレも手伝おうッ!」
ユースティは背中で全体重を押し付け、ライズが両手のひらで押し。足で踏ん張り。二人の力でようやく開いた扉の下には。
「おわぁあッ?!」
……バラバラに壊され、傷付いた色褪せているボディ。コードを引き裂かれたロボット1号がそこにいた。
__________
ソレイユ、全員が休憩室に集まる。ロボット2号がそれぞれの飲み物を給仕し、部屋の隅に待機する。……中心に集められたロボット1号の力尽くで壊されたような大きな破片たちに、全員の顔が引きつった。
「嫌がらせどころか恨みがありそうな壊し方じゃないかい、これ。まだこの中に犯人がいるってことだよね。……まさか、次は霧空くんとか?」
「ユースティじゃないぞ、ディセント。近くにいるオレがちゃんと見てたし、預言の確実さはお前が一番知ってるだろうッ!」
「それは、そうだけど……」
じゃあ一体誰がこんな事を出来るのか。ディセントは眉を顰めつつ、地に落ちそうになった会話のボールを打ち上げる。
「良く考えてみれば既に誰かに病が伝染して、目撃者も自覚がないってこともありえるのか」
狭まるどころか広がっていくことになる疑いの対象。ロディはため息をつく。
「確かにそれもあるのね。今のところ一度に一人しか手を出されてないけど、だからこそ人数もわからない。何もしないとこのまま全滅よ」
「そうだね……」
ディセントは顎にあてていた手をどけると、話の成り行きを見守っていたソレイユへ向く。
「それなら今日は僕の首をとってもらって良いかい、ソレイユ」
「なぬーッ?!」
「ちょ、ちょっと待って?!」
思わぬ話の展開に再び大声で驚くライズ。ユースティも慌てて立ち上がった。
「少なくともおれが地上で行った場所では、そんな病は聞かなかった。マーケが感染源だと仮定しても、君たちがあんな短時間で疾患するなんてとんでもない確率だとおれは思うっ」
ロディが頬杖を崩しながら見やる。
「そんなに焦らなくてもいいわよ。あの子や地上の商人はともかくとして……アタシ達は国の代表者である前に、神樹の人柱でもあるのよ。十分長生きしたし、とうに未練なんてないわ」
「だからって死んで解決出来ることなんて無いだろ……!」
「それ飛び降りた側が言う?
どちらにせよソレイユの退魔の剣がアタシ達にも効くのか効かないのか、やったこともないからわからないのよね」
「だ、代表者なら地上への出入りが自由なんだろ、ちゃんと病に免疫もあるんじゃないのかい?」
必死に説得しようと試みるユースティ。そこまで黙って話の成り行きを聞いていたソレイユは口を開く。
「私達は表立った代表者ではあるが、実際の決定はまた上がいる。代表者の下界堕ちも国の許可がいるぞ。
最近は報告事例がなかったから、そもそも免疫ができるのか、下界の病に対抗できるような免疫があるのかも分からない」
……どうやらロディが地上に降りていたことは知られていなかったようだ。
ユースティはそれ以上を口には出さず、改めてロディを見返す。相手も悪い顔をしてニヤけていた。
「……どういうこと? じゃあ、おれの勘違い……?」
「アンタこそ必死に抵抗してたのに、もうあの白い烏さんを病のせいだと割り切れたのねえ……?」
ユースティはむっとして自分の質問への答えがが先だと示すように黙りこみ……二者の間で静かな睨みあいが始まる。
「あーッ! なんかお前ら二人バチバチしやすいな! オレがついていけんからやめろォッ!!」
相変わらずのライズの大声。渋々と座り直したユースティは、ロボット1号の破片に目を向ける。
しばらく見つめて……軽く首を傾げた。
「……? ライズ、このロボットって一日目からこんなに傷ついていたかい?」
そう言って目線を誘導すれば、ライズは改めて破片に寄り、まじまじと見つめた。
「塗装が剥がれたのかと思ったが。良く見たら……コードらへんの傷と同じものに見えてきたな、これッ!」
ソレイユもそちらへ歩きロボット1号の破片を覗き込む。
「……鋭い爪の痕だ。ヒトがつけられるようなものでもなければ、考えうる凶器もない」
労るように触れると、その一片を掴み額の前で祈るように翳す。
「本格的に外部からの侵入を考えなきゃいけないか。
よりにもよってこういう時に……下賤な魔族め……」
その言葉と共に、恐ろしいほどの圧を醸し出すソレイユ。ユースティは何か言おうとした口を結んで、ディセントへ向く。
「とにかく確実じゃないし、明日で五日目! 私刑は止めよう! な!」
「……それもそうか。わかったよ、霧空くん」
なんとか阻止できたようだ。……ライズもほっと息をつき、改めて大声で宣言する。
「よし。変わらずユースティにはオレが監視役でつくからなッ!」
「じゃあアタシは長い付き合いだったこの子のお化粧もしてくるわ」
解散の空気に席を立ったロディは、重量のあるロボット2号の破片をまとめて持ち上げる。
「じゃあね御縁ちゃん。明日、お互いに無事で会えたらいいわね」
「うん。そうだね」
お互いに交わすその言葉に、それ以上もそれ以下もない。ディセントも満足行く解決が思いつかず歯痒そうにしていたが、部屋に戻っていく。
「……兄さんも、危なくなる前に周りに助けを求めてね」
「おうッ!」
ロボット2号はすっかり充電中の表示に変わっている。
「……よし、オレたちもそろそろ戻るかユースティ、わわわッ?!」
「ライズ、また転けかけちゃってるじゃないか。大丈夫かい?」
「ああ、ありがとなッ!
……ディセントは一度決めたら頑固なんだよ。だからああ言い出した時、ヒヤッとしたぜ〜……それもありがとなッ」
椅子の足に躓いて転びかけたライズをすぐに支えて起こし、頷いたユースティ。破片を見つめ続けるソレイユに振り向けば、すぐに気付いて頷いた。
「私も実行を留まることが出来た。助かったよ。……明日にさえなれば猶予期間も終わる。感染対策をさせた兵士を呼んで諸々の検査も出来る筈だ……とにかく、今夜は十分に気を付けるんだぞ」
「うん、ありがとう。ソレイユ」
______
……時間が経つのは早く、その日の就寝時間を過ぎた夜。ライズの顔がユースティのすぐ目の前にあった。
「た い へ ん だ ッ !」
「……な、なにが?」
大声と近い顔から距離を取るために体を反らせていたユースティは、ライズに合わせて体を真っ直ぐ立てる。
「預言ではお前も、ディセントも、ロディも皆まっ白だってッ!」
「__預言って、ちょっとずつしか聞けないのかい?」
「神様が美人すぎてオレがガタガタに緊張するから、一日一つぐらいしか聞けない……すまんッ!」
堂々と告げられる理由に、ユースティは二重の意味で言葉に迷う。現在ライズの預言をあてにし続けることは難しい事実と、すべてが白紙に戻ってしまった状況が残った。
「と……にかく、預言通りなら……おれと一緒にいて何も起こってないライズも無罪だよな。一旦外からの介入がないと仮定したら……ソレイユが犯人ってことになる……?」
「ソレイユなら、一晩でさっさと皆を掃除しちゃうほうが早いぞッ!!」
……ユースティは咳払いをしてから、ライズをじとりと見つめた。彼の言う通りマスターキーのようなものをもっているであろうソレイユたちには、さっさと皆を掃除できる環境が揃っている。
「おれの部屋を開けた君のように、ソレイユも顔認証で全員の部屋に出入り出来る。プライベートも何にもないもんね……」
「なんだか、すまんなッ」
責めるような目線に、流石のライズも謝る。ユースティは頷くとすぐに思考を切り替えた。
「だとしたら、次は犯人の侵入口を探す必要があるのか」
「……そういえばッ」
「ん?」
「オレ、ちょっと考えたことがあってなッ__」
続けようとしたライズを遮るように、ガタン。重いものが落ちたような大きな音と共に部屋の明かりが消え、視界が真っ暗になる。
「!」
「なんだーッ?!」
月明かりの微かな光を頼りに、扉の外からした大きな音に二人は目を向ける。ギィィ……と、軋みながら開く扉。消灯時間が過ぎた廊下も暗くなってはいたが、そこに誰も居ない。
ユースティが動こうとした時だった。外から勢いよく入り込み、二人に迫りくる何かの影。
「!」
咄嗟にライズを引き寄せ、武器をケープから取り出す。森で拾った、金古美の蔦の装飾がされた不思議な白い銃。……かつて無我夢中で使っていたそれがやけに手に馴染み__迷わず、発砲。
「わぁあッ?! どっからそれ出した、ユースティッ?!」
「内緒、!」
撃ち出した弾に籠もり、巻き込んでいく魔素の流れを本能的に認識出来る。しかしこちらに迫りきていた何者かもただでは攻撃を喰らわない。布を翻すようにして躱した。
それ以上距離を寄せ付けないよう撃ちつづければ、銃弾が一つ、当たった。……相手は其の場から溶けて搔き消える。二人を通り過ぎ、細い影が窓から出ていった。
「うおおッ?!」
「大丈夫かい、ライズ!」
「ありがとう、無事だッ! ……けど、今のは……ッ?!」
「窓から逃げたっ」
しかし窓へ体を向けた刹那、視界に広がる大きな影。驚く間もないユースティの肩を掴む翼と同化した腕、指の感覚。その者が耳元で何かを囁いた……
気がした。
「…………!」
その場でよろめき、へたりこんで瞬きをするが、視界は何事もなかったかのように窓に飾られた夜空をうつす。
「どうしたユースティ? 何かあったのかッ?!」
「いや、なにも……、あ、れ……?」
途端に酩酊する視界。ぐわり、と歪み頭が床へと落ちていく。ろくに状況を理解することもできないまま、鈍く重い感覚と共に意識を沈ませた__
「ユースティーッ?!」
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