みっかめ 役目を忘れるな?
三日目。
夜に明かりを消した部屋は薄暗いまま。窓から暖色の光が差し込む部屋で寝転がり、呼吸以外では動かない人間。
ふと、インターホンが鳴らされる。何を言っているかもわからない叫び声が耳を通り過ぎていく。
いくらか間が空いて、もう一度。少し短くなった間の後に、また一回。やがてインターホンのチャイムはとどまりを知らずに連打され、扉がドドドンと叩かれていく。
「__おい返事しろ、ユースベリーなんちゃらッ!!」
バンッ。……扉が開かれ、ロボット二体とライズが入ってくる。これではプライベートも何もあったものじゃない。ようやくそこで飛び起き、そちらを見やった。
「な、なんだい……?!
ところでどうして足をかばって歩いてるんだ?」
「廊下を走ったらバナナの皮が置いてあって足をぐねったッ!」
「なんで?!」
「じゃなくてだなっ。飯を食べろッ!! こんまま引きこもるつもりかッ!!」
色褪せて傷もついたロボット1号がライズと並び、主に様々な役をこなしているロボット2号は食事を持ってきてくれていた。心配そうに窺ってくる彼らに、俯き気味に一礼をした。
「……ありがとう。でも、お腹いっぱいで食べられないよ」
「んなわけあるかッ!! あれからお前一日以上経ってるんだぞ、しかも夕暮れだッ!!」
そのまま中へずかずかと進んでくるライズの小さな体に、吐き出した血などの処理物をそのままにしていたことを思い出す。
「待ってゴミが、」
「オレはゴミじゃなくて、ライズだッ!」
さらりとすれ違いを起こしたライズをそっちのけで周りを見るが、ゴミをまとめた袋はどこにもない。いつの間にか部屋の外へ片付けられていたらしい。
「……気付かなかった」
遅れてそれが自分に対しての言葉じゃないと気が付いたライズは、なにがだッ?! ……と見つめる。しかし人間が首を横に振って話を終わらせた。
次にロボット2号が食事のお盆……一椀の根菜粥を押し付けるように手渡してくる。
「初日にあんなに美味しく食べてくれましたから。こういうときこそ力になりたいと思いまして」
「だから悪いけどおれは……」
直後響いたお腹の音に目線を浴び、口を止める。生きている以上、どのような状況であっても他の命を喰らうことが必要になる体。……腕に思い切り爪を立てようとした手をライズが掴み、代わりにスプーンを持たせた。
そこまでしてようやく食事を始める人間。ひとすくいを口に運ぶ。しっとりとした薄切りの人参と玉ねぎの甘み、スープがしみたあたたかいじゃがいもがほろりと口の中でくずれ、とけていく。
「な、うまいだろッ?」
一転して穏やかな声色に訊ねられれば、静かに、しかし力強く頷く。……そのまま手を止めず、一つずつ口に入れてはしっかりと噛みしめていった。ライズとロボットたちに見守られながら、静かな晩餐を味わう。
「ごちそうさまでした」
手を合わせ、鼻に引っかかった濁り声で告げる。ロボット2号はきちんと平らげられた膳を丁寧に下げ、部屋を出ていき。ライズはほっと顔を緩ませた。
「……ユースベリー……」
「おれはユースティだよ。ありがとう、ライズ」
少し笑みを含んだ息をこぼす。ようやく真っ直ぐに顔を合わせる二者。ユースティはそのまま少し表情を堅くしてライズへ話す。
「中央塔では、もう何も起きてない……?」
「ああ、マーケってやつがやった証拠があるし、あいつがやったのは確実だなッ!」
「…………例の病、……可能性があったんだよな? おれは迷信だと思ってたんだけど、ありえるものなのかい?」
例の病。それは空の国に滞在したものならば一度は耳にするものだ。
下界に降りしばらく滞在すると発症するというその病。突然予測できない行動を起こしたり、むごい殺人衝動に襲われる。しかも当人にその時の記憶が残らないのだから余計にたちが悪い。
「オレはそもそも空の国のヤツが下界に滞在する事を知らない! でも実際にその病のようになったヤツも見たことがあるなッ」
「そうなのか……なら、おれも可能性がある?」
「ありえる!」
はっきりと告げられた可能性に揺れる瞳。しかしライズは元気の良い応答を続け、黒髪で隠れた目のかわりに歯を見せて笑う。
「でも大丈夫だぞ。オレ、今日はお前が無実だって預言を受けたからなッ!」
「__預言?」
「そうッ! 巫覡って知ってるか?
オレは神様と話して、吉兆をみんなに伝える役割なんだ!」
そうして不思議な柄の服の振り袖を広げ、くるりとその場で回って見せる。
「オレが伝えた事を元に、ディセントが色々考えて指示を出す。今までそうやって空の国を支えてきたんだぜッ!」
「……すごい、な?」
「だろ? 実際ここまで何とかやってるし、信憑性はあるぜッ」
ライズは胸を張って続ける。
「ディセントが居てくれたお陰で、預言を空の国のお偉いさん達は信じてくれる。
……今回は裏付けもするために、今日からお前の部屋で過ごすぜッ!」
「えっ……?!」
超常現象ともいえる本当の話。脈絡がいまいち読めない展開に、ユースティは文字通りベッドの上で飛び上がった。
「大丈夫。お前は真っ白だからッ!」
「いやそういうことじゃなくて……っ、神様を疑うわけじゃない、でも、あまりにも短絡的過ぎるというかっ」
どうするべきかと悩んだが、話をそらすためにライズの側にいるロボット1号に意識を向ける。
「そ、その子は喋らないんだな。色褪せて傷もあるし!」
話を振られればライズは目をぱちくりとさせて。1号をまじまじと見つめてから手のひらでやさしく撫で、告げる。
「一応は中央塔の専属なんだけど、古い型でな。預言だけで代表者になったオレでも、ちゃんとついてきてくれんの。言葉は喋れないけど、ピーピーって言うッ!」
言葉自体は理解しているように、ピーピーと高く可愛げな音を発してみせるロボット1号。
「今日はこいつにはこの部屋の入口で見張っててもらうぞッ!! ってことでオレはこの場所を借りるッ!」
気が緩んだユースティを横目に床へ、どこからか持ってきた布団を広げ始める。話を逸らすことに失敗したユースティはまた慌てることになる。
「ま、待って。もうここに居る事が確定なら、おれがそっちもらうから!!」
「オレが押しかけてる側なのにかッ?!」
「そうッ!!」
下手なことして君の弟くんに何言われるかわかんないからだよ! なんて叫んだユースティにライズは不思議そうにしたものの、促されるままにベッドを使うことにした。




