ふつかめ 捕食者を忘れるな?
2日目。
____うわぁあぁあぁあっ?!
「?!」
聞き覚えのある声にすぐさま起き上がれば、一段と冷えた空気が早朝だと体へ伝えてくる。……この日はやけにスッキリした目覚めで、ユースティはあわてて部屋を飛び出た。
黄色の扉を開いて同じ廊下の部屋、赤と橙と黒の扉__恐らく赤と橙はロディとソレイユの部屋で、行き止まりにある黒い扉は誰の部屋かわからない__からはまだ誰も出てきていない。個室への廊下の合流地点、案内板のある場所。休憩室に向かっていけば、丁度反対方向から来たディセントと鉢合わせになる。
「おはよう霧空くん。今の聞こえた?」
「うん。あの声はマーケだ!」
二人は共に休憩室の左奥、マーケがいるであろう場所へ。ユースティは昨日の彼と執事とのやり取りを思い出しながら、入口から覗くようにして声をかけた。
「大丈夫かいマーケ、まさか本当に丸裸に__」
目の前に広がったのは、赤。
布団の上、震えるマーケ。その足元に横たわるヒト……ロディの執事だろうか。首から上がなく、身ぐるみや体毛をはじめとした全て、あるはずのものが無くなった肉体。散った血は、真っ白なマーケの全身や布団、床に赤黒く染み付いていた。
……それ以上を言葉にするにはあまりにも凄惨な光景に、咄嗟に目を逸らし口を抑える。
「ったく、朝からさわがしいわね、……っ?!」
同じく部屋から来たのだろう、ロディもロボット2号と共にその場に現れた。すぐに駆け寄るとその全身を見えないように布団でくるみ、その肌に触れて調べていく。
「____……ヒトに出来ることじゃないわよ。この子は冗談はキツイけれど……あなたに実害を与えたわけじゃないでしょうに」
ロディの疑いは第一発見者であり返り血を浴びているマーケへと向かう。当者は酷く憔悴した様子で震えながら首を横に振り、嘴を開いた。
「ち、がうんす……ちが……」
「どうした?」
続いて部屋着姿に護身用であろう長剣を携え、ソレイユが現れた。光景に目を見開きすぐさま腰につけた剣を引き抜く。
「あ……」
明確な殺意に身を竦ませて震えたマーケ。ディセントがソレイユの肩に手を置く。
「待ってソレイユ、まずは確実な証拠がないと裁けない」
「この場所は今、出入りの出来ない密室状態だぞ。殺人者を野放しにしていれば皆殺しだ。
就寝時間、執事とこいつ以外は自室で寝ている。その状況で執事のみが殺されているなら、こいつの他に誰がこんなことを出来る?
今はまともかもしれんが、例の病の可能性もある」
__例の病。彼女の言うことにユースティは納得のいかない視線を向けたが、ディセントは目を伏せて静かに手を退ける。
ソレイユが改めて剣先を向けると同時に空気が静まり、冷たく刺すような目が一斉にマーケへ浴びせられた。
「待って! その病ってのは、地上に行かせないための迷信だろ?! まさか今私刑をするつもりじゃないよなっ……?!」
咄嗟にユースティが前へ出ようとしたが、飛び出そうとしたのを察知したロボット2号に強い力で床に抑え込まれる。ソレイユは目線を向けること無く口を開いた。
「迷信だったならどれだけよかっただろうな。
ここに居る以上、何かあれば真っ先に責任を取らせる。そうこいつに説明はしていた」
その間にも、怯えて動けないマーケへ歩みを進めていくソレイユ。……このままどうされるかは明白であった。ソレイユのもつそれは対魔物用でもあるが、本物の刃だ。彼女が空の国の英雄として魔物を大量に屠ってきたそのもので、かつての被害者たちの嫌悪や憎悪を背負うかの如く鈍く光っている。
「マーケ……っ!」
「ゆーす、てぃさん……」
力は敵わず拘束は解けそうにない。彼の悲痛と恐怖に震えた声へ顔を上げると。
目の前のマーケの顔は、恍惚に満ちた笑みをユースティへと向けていた。
「__あなた が 」
あまりにも一瞬のことで見間違えたのかもしれない。しかし目の前で起こった断頭処刑をまっすぐ見ることも出来なかった。
「……見て、羽の裏。彼の首とおっきな包丁。何処からこんな物持ったのかわかんないけど、黒だわ」
極めて声と感情を抑えたロディの声が告げ。ソレイユの刃が血を払い、拭われて鞘に収められる音がした。
「御縁霧空。ヒトの言葉を解し、惨い騙し討ちを仕掛けるような魔族と私達は相容れないのだ。わかるだろう?」
ロボット2号の拘束が解ける。また、目の前でこぼれ落ちた。……今まで散々見てきた彼の笑顔より、最後の笑みが焼き付いて離れない。あれはこちらを責めるものか、殺害に対する愉悦であったのか。少なくとも助けを求めるものではなく、正解も聞けはしない。
ゆっくりと体を起こし、常磐色はただただ震える。
「__わからない、……っ!」
飛び出すように駆け、部屋に戻っていく霧空。……その姿を見送り、ディセントがつぶやく。
「まあ、それも仕方ないよねえ……」
そして休憩室の入口で霧空とすれ違い、色褪せ傷付いたロボットと目を点にしたライズ。どうやら天井からの水漏れがあったらしく滑って転びそうになり、叫び声を上げた体をロボット1号が支えて事なきを得る。
次に休憩室を出ようと歩いていくロディが抱えた布団に目線が移り、道を譲りつつも声をかけた。
「ロディ、何かあったんだッ?!」
「何も。代わりはいくらでもいるし。
……だけど、しばらく一人にしてくれると助かるかもね」
布団の中からはただならぬ色と臭いが香る。ライズは途端にきゅっと口を結んで見送り、天井の修理と床掃除を終えたロボット1号と見合った。




