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第69修 認知と引致?



 そこは人々の往来がある、大きくにぎやかな空中都市。日の光を反射する水路の輝きと立ち並ぶ高層ビル、家、マンション。頭上に晴れ渡る水色の空には、ヒトを乗せた飛行自動車も走っていた。国の周りに広がる真っ白な雲海と爽やかで冷えた空気が、二人の五覚を冴えさせる。



「ここが、空の国……!」



 広場に続く道へ到着し、二人が乗せられた箱がゆっくりと開く。降りた足は人工芝のタイルを踏みしめた。



「おかえりなさい、そしてはじめまして」


「!」



 箱の到着を待っていたのは全身が金属でできた、ヒトに近くも丸くデフォルメされた形のロボット。どうやら腰の辺りから下半身は足パーツが格納されており、タイヤで滑るように動く。

 小さな光が集合し明滅する瞳を瞬かせて二人を真っ直ぐに見つめ、肉声とまではいかずとも極めて自然な抑揚で話す。



「あなた達の入国は許可が必要です。ついてきて下さい」



 ソルリアはまじまじと見ることはしないが、不思議そうに目を瞬かせてユースティへ耳打ちをする。



「おしえて、研修生。あのヒト、全身がカチカチだけど、丸い。鎧ってわけでもないよな?」


「あれはヒトが作った鉄製のロボットだよ。頭脳も人工で、組み込まれた数式の中で計算して動いているんだ」


「えっ、魔法とかでもないのに、鉄が喋って動くの?!」


「厳密に言えば、発声装置と動力パーツを組み合わせてヒトと同じように見せてるんだけどね。空の国ではお馴染みさ!」



 ロボットに先導され、道を進んで行く二人。周囲の者たちは一定の距離を保ちつつ、見つめてくる。その熱心な視線はロボットの方に向けられていた。



「お馴染みにしては、この視線は……?」


「中央塔のロボットだからかも。他よりも偉いんだ」



 一方、ロボットの後に続く二人に対しては怯えたような、怒りのような……冷たい視線を向け、避けるように距離をとっていく。



「アレが例の……下界の生物か?」


「離れなきゃ、下界の病もうつるかもしれない」



 ふと聞こえたその会話。ソルリアは不思議そうに目線を向ける。



「……? 病って?」


「ただの迷信だ。気にしなくていいよ、ソルリア」



 なんとも言えない表情で告げるユースティに瞬きしつつ口を閉じる。ふと周りの人々の中からとある女性が割り込み、手を振りながら大きく声を上げた。



「ユースティー!」


「!」



 黒い肌と桃色のくるくるパーマ。嬉しそうな声で元気よく駆け寄ってくる。一転して驚いた様子のユースティだったが、そちらを見ればすぐに表情を綻ばせた。



「ユキじゃないか!」


「久しぶり、元気だった?!」


「ああ! この通り五体満足さ!」



 ……ピー。

 高いお知らせ音が鳴り、先を定速で歩いていたロボットが振り返った。



「認証エラー 連行対象はあまり離れないで下さい 通行者も連行対象に近付き過ぎないで下さい」



 先程までの抑揚があった声とは違う無機質なメッセージ。ユキと呼ばれた相手は慌ててユースティから離れ、ユースティはロボットの側へ駆け寄った。



「そのロボットってことは……中央塔からのお呼び出し、しかもソレイユさん直々じゃん! 何したのー!」


「ソレイユ?」



 新しい名前に、ソルリアが声を上げて首を傾げる。ユキはそんな彼を見るなり、何この子かわいい一体何処の子ー?! といった黄色い声をあげつつも答えた。



「ソレイユさんはねー、空の国に襲って来た魔物をぜーんぶ倒して戦って。空の国の皆を救った勇者様だよ。めちゃくちゃ格好いいんだー!

 今は代表者の一人として、この国を引っ張ってくれてるんだよー!」 


「へー…………」



 ロボットはその間も進んでいく。ユキとの会話もそこそこに、ユースティは手を振って別れた。幸い二回目のお知らせ音が鳴ることはなかったが、きちんと追いついて苦笑まじりの不満をこぼす。



「まいったな。再会の喜びを分かち合う会話さえ許してくれないなんて」


「……それくらいの悪いことをした自覚はある?」


「っはは、ないとは言えない」



 反省しているのかいないのか、微妙な反応をするユースティをじとりと見つめたソルリアは、ふと頷く。



「でも……なんだろう。居心地悪いな。

 フッブの皆もあんな風に俺に呆れた様子は隠さなかったけど、こんなに冷たくて痛くなる目線じゃなかった。……ユースティはそういうの、感じてない?」


「おれは同じように感じてる。最初に皆が君を虐めてるんだって思いこんだのも、その目線が冷たく感じたからだよ。

 だけど……強いて言うなら、確かに空の国は慈愛とは程遠いな。コッペリウスも、おれも含めて。隣人も、友人も、親でさえ。結局は全員他人だって、言えてしまう」



 振った話の中で零れたその言葉に、驚いたようにして見つめる。人間も『らしくない発言』に気付いたのか、慌てて繕おうとした。

 


「あっ、ごめんな。そうなったのにはおれにも原因はきっとあるし、空の国が駄目って言いたいとかじゃなくて」


「いいよ」



 少年はやんわりと止める。



「そういうの、お前はもっと吐き出してみてもいいと思う」


「そうなのかい?」


「うん、きっとそうだよ」



 大きな道路がある通りを進み、中央塔へと向かって行く。やがて肉眼で見えるようになってきたのは、道で通り過ぎたどのビルより高く、幅も広い大きな建造物。壁面には真っ白で複雑な装飾が施されている。



「うわでっか……なにここ」


「ここが、中央塔。

 空の国の中枢、偉い人たちが時々集まって、話し合ったりする場所さ!」



 入口にあるセンサーへロボットが顔をかざせば、電子音と共に両開きのドアが自動で開いた。にぎやかな街の喧騒とは一転、音もなく静かなその内部。

 緊張したのか二人は口数も減り、ロボットの稼働音と白のカーペットの廊下を進む二人の足音だけが静かに響いていく。細長い廊下を歩き続け、やがて渡り廊下の先に別棟への自動ドアが見える。


 自動ドアの前で同じようにロボットが顔をかざし、エレベーターに乗って十三階へ。一転して黒い壁とカーペットが続くその場所は、更に空気が重くなった感覚がした。



「……おれも、こんなに奥まで来たことはないや……」



 廊下の窓ガラスから下は地面がなく雲に覆われており、落ちればひとたまりもない。ようやく絞り出した会話はすぐに途切れ、一つの行き止まりへと辿り着いた。その扉の前で、ロボットが道を外れて停止する。



「こちら 中央塔本部会議室 既に国の代表者の皆さまが中でお待ちです」



 ユースティは相手の立場に関心はない方だが、今は地上に住んでいるソルリアが隣にいる。深呼吸して自身の両頬を叩くと、同じく深呼吸したソルリアと目を合わせ、頷きあった。

 手の甲でノックをして。その先にいるであろうヒト達へと、大きく明るい声で告げた。



「失礼します!」


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