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第68修 初見の諸縁?



 昇降機の箱の中、強烈な速さで重力に逆らった二人は開放された。からえずきをしながら、四つん這いの姿勢でうなだれる。



「うぇ、吐くかと、思っ」


「意識が失えない分、飛び降りた時より長く感じたよ」


「想像しちゃうだろ、そんなこと言うなよな……」



 すっかりしょぼくれたソルリアが顔を上げれば、そこは全面コンクリートで複雑な配線が露出し、絡み合った薄暗い施設の中だった。



「ここが……空の国?」


「いや、おれはこんな場所知らない……」


「え」



 警戒しているのか、静かに告げたユースティの言葉にソルリアはぎょっとする。視界の先では長い廊下が続いているだけで、現在地の情報だけでは何のための場所なのかもわからない。不安気に辺りを見回した二人に向かってコツコツと固く響く足音が聞こえてきた。



「ここは空の国の地下……つまり浮遊島の内側。かつて地上へ落としたような兵器を作った、研究所の跡地です」



 ユースティたちが振り返ったその先。毛先が水色がかった白い長髪の、長身で白衣を着た女性がいる。彼女は薄紫の目で二人を見て、おどけるように両手の平を向けてにこやかに挨拶をした。



「どうもぉ」



 ……先程機械越しで聞いた声が、猫かぶりをしている。ぱちくりと見つめるソルリアと、ユースティは顔を晴れやかにして肩の力を抜いた。



「彼はソルリア。さっきの通話を聞いていた一人だから大丈夫だよ、コッペリウス」


「__ああ、そうですか」



 身内だとわかれば、仮初の笑顔はたちまち仏頂面に戻る。ユースティは彼女の猫かぶりさえ名残惜しく思ったが、本来の彼女のことも好意的に受け入れているため何も言わない。

 そうして向けられたコッペリウスの目線に、ソルリアは何かを感じ取った様子で相対する。



「はじめまして、コッペリウスさん。

 俺、ユースには沢山助けてもらったけど、最近は特にこいつ危ないやつだなーって目で見てるソルリアと申します」


「はじめまして、ソルリアさん。

 私はこの馬鹿につきまとわれている……と思えばいつの間にか置いていかれていたコッペリウスと申します」



 コッぺリウスからしゃがんで差し出された手をミトンの両手でしっかりと受け、やけにしっかりとした握手を交わした。はじめましての割には非常に親し気な様子の二人に、ユースティが戸惑いを見せる。



「な……?! なに、二人とも?

 もしかして何処かで知り合いだったのかい、とんでもない偶然だな!」


「そんな訳無いでしょうがお馬鹿」


「俺達初対面だってば」


「じゃあどうして……?!」



 あなたに苦労させられている者同士のよしみですよ。……コッペリウスはそう口に出さなかったものの、案の定鈍いどころではない反応が返ってきた。呆れ混じりの吐息をつきながらソルリアとの握手を終えると、早速本題へとうつる。



「今回は国にエレベーターを使う申請をさせられていますので、注目の的となることはご了承しやがれ下さい。ここで一度止まったのは私の独断なので……手短に済ませますよ」


「ここで止まる必要があったりしたんですか?」



 ソルリアは首を傾げた様子だが、ユースティが苦笑した。



「あー……まさか、中央塔への連行?」


「そのまさかですよ愚か者」



 中央塔。いかにも国の中枢であるような名前だが、ユースティの反応からして良い場所とはいえなさそうだ。さらに連行だなんていわれれば、悪い印象が更に強くなる。



「証人無しで失踪を上手く誤魔化せるのは数日が限界です。なのにあなたとは数週間、……数ヶ月。タブレットでの連絡が一切つかないと来た。何してたんですか、お鈍間」


「そ、そんなに経ってたっけ。タブレットは、落ちた衝撃で電源が壊れちゃって……」


「ならばどうして突然繋がったんです。発信や受信の機能は空の国からの電波で直ることはあれど、大抵が機器の問題である筈の電源も、それで直った……なんて。言いやがるおつもりですか?」


「ううん。電源自体はエトワール……地上にあるフッブの国にいる長のヒトに直してもらった」


「ふうん。成り行きを詳しく聞きたい所ではありますが、それは後でも困りませんね」



 怪訝な表情をしたコッペリウスはそう呟いた後、逸れかけた話を本筋へ戻す。



「中央塔の会合は、私も恐らく同席となります。しかしあくまでも一介の研究者ですから、発言力はないに等しい。フォローなんて器用なことも出来ませんので、嘘をつく方が面倒なことになりますよ。……ユースティ」


「? うん」



 名前を呼ばれたユースティが何も疑うことなく一歩歩めば、コッペリウスは腕を回してそのケープをめくり、触りだす。目視で裏側を確認すると納得したように頷き、離れた。



「__では、操作室に行って昇降機をもう一度作動しますね」


「コッペリウス」


「はい?」


「向こうでソルリアがいきなり何かをされるとかは、ないよな?」



 踵を返したコッぺリウスを、今度はユースティから呼び止める番だった。不安そうに訊ねた様子をしばらく見つめた後、再びため息を一つ。



「あなたはこの国にとっては未開の地である地上へ飛び降り失踪した、最早死んでいて当然である人間。それが沈黙を経て数ヶ月後に生きていたことが発覚した。しかも、地上に住んでいる者まで引き連れていやがるんですよ?」


「そっか……ソルリア、やっぱり魔法でフッブに帰るかい。

 ……な、なんて、言わないけどっ」



 人間はこれまでにないほど深刻な顔をして告げたが、少年がむっとした様子ですぐに口を開こうとした。言外に返ってきた否定に慌てて言葉を繋げたものの、手遅れである。



「言ったな」


「う……」



 拗ねる真似をして見せたソルリアと、申し訳なさそうに縮こまったユースティ。そんな二人の会話に、コッペリウスは誰にも気付かれない程度に表情を和らげていた。



「……ソルリアさん。タブレットはこれから、あなたが持っていてくれますかね」


「? わかりました」



 コッぺリウスの発明品であるそれの所有権の話はあまりにも唐突で、えっ? と間抜けな声がユースティからもあがる。しかしコッぺリウスがそれ以上言及することはなく、今度こそ操作室へと踵を返していった。

 間を開けることなく辺りに響く動作音。再び二人を透明な長方形の箱が包む。コッペリウスがボタンを押せば、……今度はゆっくりと上がっていった。



「あっ……流石に、もうあのスピードで打ち上がることはないか」


「こっから打ち上がると、宇宙まで行っちゃうかもな!」


「うちゅう……わ、笑い事じゃないぞ」



 天井を抜ければ、日の光に照らされて目が眩む。ユースティとソルリアは腕で目を覆い、暫くしてからゆっくりとその景色を視界に入れることになる。



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