第67修 昇降機構の強行起動?
ソルリアが読み上げたタブレット……ブラックボードくんの画面表示に、途端に顔色を変えるユースティ。
「ソルリア。貸してくれ」
「貸してもなにもお前の物だよ。ほら」
そのまま手渡され、恐る恐る画面に触れる。躊躇いつつもそれを、耳にあてた時だ。
『この馬鹿者!!!!』
「わぁああぁ!!」
劈くようなハスキーボイス。びっくりして手元からブラックボードくんを落としそうになる。ソルリアも隣で驚きつつ、通話相手のただならぬ声に目をぱちくりさせた。
『あくまでも研修って体だったんでしょう、無事だったなら途中報告くらいよこしなさい!』
「ユース、もしかして通信機能ってやつが……! それ、誰の声っ」
訊ねるソルリアに返答はないが……ユースティが聞き間違えるはずもない。その声は地上へ来る前にお世話になりっぱなしだった、コッペリウスのそのものだった。
『こちとら位置検索機能だとか色々つけてやったのに全部反応無しになるわ何日たっても連絡繋がらないわで必死だったんですけど! ようやく電波が届いて自動修復をかけたんですね、人騒がせなっ』
「……めん」
ゆっくりと口元を片手で抑え、絞り出された声はあまりにも小さい。
『あの、聞いてやがります?!』
その間にも機械越しの声は響く。
「ごめん、なさい」
『何って、まったく聞こえませんけど!!』
「ユースティ」
体が震えた様子に心配そうにし、ソルリアが寄ってきたのも知らず。……人間は大きく息を吸った。
「だーかーらーっ! ごめんなさいって言ってるんだってばッッ!!」
「?!」
突然の大声に全身で飛び上がったソルリアをハザックが腹で受け止めた。
「いっ」
「テメェ」
「ゆ、ユースのせいだってっっ」
通話相手にもその大声が衝撃となったのであろうか、しばらくの沈黙を経てから続く。
『今度はやかましい、ったく。本当にあなたってやつは』
「はは、ごめん」
目が潤みつつも笑うユースティ。そんな状況の理解外にあるハザックと、様子を眺めたソルリア。
「相手はもしかしたら、ユースの師匠かも……?」
「師匠ぉ?」
「うん、そう呼んでるヒトがいるんだって!」
『他の方の声が聞こえますね。……こほん。はじめまして〜私、コッペリウスと申します〜。こいつの保護者みたいな者なんですけど〜
ちょっとこいつを神樹の麓まで引きずってやっていただけると助かるんですよぉ〜』
話も程々に、機械越しの声はその二人にも向けられる。声色は高くなり、話し方もゆったりとして変わったが、色々と手遅れだ。言葉選びも本性を隠す気がなさそうな辺り、どう反応していいか判断に困る。
「ええと、はじめまして。俺はソルリア。もうひとりはハザック。神樹って大きい木だよな、麓に何かあるの?」
「オレサマが聞いた話なら、空高く続く道が樹の中にあるらしいが?」
『そうなんです。そこから空の国へ来ていただくことはできるのですが、徒歩だとかなり時間がかかるので……麓まで来ていただければ、こちらから空の国への直通エレベーター……移動手段も使えます〜』
「「へえ……!」」
ソルリアは自分と重なった感嘆をあげたユースティへ、じとりとした目線を向けた。
「ユースも知らなかったのかよ」
「えっ? あー……えっと」
「どうせ使うつもりもなかったとかじゃねぇの」
「ハザック!」
横から口を挟んだハザックへ図星と言わんばかりの反応に、コッペリウスのわざとらしいため息が聞こえた。
『とにかく、こちらでは軽く騒ぎになっていますので一旦帰ってきて貰いますよ。話はそれからになります』
「あ、でも、でもねコッペリウス。おれ、神樹の中も歩きたいっていうか」
『とにかくきやがれ下さい馬鹿野郎歩いたら一週間じゃすまないでしょうがちゃんと文明の力を使えわかりましたねついたら連絡下さいでは』
有無を言わさずまくしたてられ、通話もぶち切られた。
「どうしよう、めちゃくちゃ怒ってる」
「俺もちょっと怒ってる。お前研修とか言ってたけど、それって本当の目的だったのかも怪しいな」
「オレサマもだな、お陰で思い切り頭突きされて、とんだとばっちりだ」
「ええっと……嘘をついたつもりは一応ないし、頭突きはその、ごめん」
二人から向けられるそれぞれの目線に申し訳なさそうにしつつ、ユースティは辺りを見回す。
「神樹の麓って言っても……ここからどっちに行けばいいんだろう」
「あっちだよ、ここからならかなり近い。まっすぐ歩ければ開けた場所につく」
ハザックが一方向を指差す。
「わかるんだね、もしよかったら麓まで__」
「悪いがオレサマはパスだ」
これ以上の面倒事はごめんだからな。ハザックは広げていたものを素早く仕舞うと、さっさといってしまった。ソルリアもこれには納得せざるを得ない。
「あいつもなんやかんや付き合ってくれたからな」
「それもそうだよな……ソルリア。君も一回フッブに帰った方がいいかもな」
「え?」
しかし自身にかけられた言葉には思わず聞き返した。その様子に触れることなく、ユースティが続ける。
「コッペリウスの言葉そのまま受け取るなら、おれは一度空の国に帰ることになる。だったらソルリアも一旦」
「俺は空の国について行くぞ」
ソルリアは言い切られる前に同行の意志を示した。
「……だよなぁ」
「なんだよ。通りすがりのハザックはともかくとして、今更俺を仲間外れなんてないだろ?」
前のめりに圧をかければ、ユースティは嬉し恥ずかし、そして不安がこもった表情を見せた。
「わかった。わかったから。……だけど、これだけは約束してほしい」
「なんだよ」
「危険な目にあいかけたら、すぐフッブに戻る呪文を唱えるんだ」
「危険なのか?」
「わからない。でもウォロスでおれが言われたように、よく思わないヒトもいるかもしれない」
ソルリアはあぁ、と納得した声を上げてから、からかうような表情で首をかしげる真似をする。
「でもその時はお前がまた、いつもみたいに助けてくれるよな?」
「!」
「それに……何度だって言うぞ。俺だってお前を助けたい。お前が助けてって時は、ちゃんとおしえて!」
ソルリアの言葉に、人間は笑みをこぼした。
「はは、そういわれちゃ敵わないな」
「ホントのことだからなっ」
ハザックの指差した方角へ歩いていたユースティたちは、すぐにもう一つの開けた場所へ出ることが出来る。
みずみずしい草木と、一体に葉の影を落とし、堂々とそこに存在する大樹の幹。見上げてもその枝の終わりは見えることがない。根本には入口だと言うように大きく開いている箇所があり、そこから中へ進むことが出来るようになっていた。
「ここが神樹の麓だね」
「魔物を産み出すっていうから、なんだか毒々しい色だと思ってたけど……普通に緑の木だ……」
ユースティはブラックボードくんで再び連絡をするために画面を触る。接続音がなる中、エレベーターの影も形もないその場を見回していたソルリア。そんな二人の背後から、割り込む声。
「見つけたぞ、オプファ!」
振り返れば、そこには影のような者たちの追っ手が二人程来ていた。先程の時とは違い、一人一人手元に何かを持っている。
「オプファ? ……ソルリアのことを言ってるのかい?」
「違うって言ってるんだけどな。でも、多分悪いやつらじゃないんだ」
複雑な表情をするソルリアの隣で目をよく凝らしたユースティは、驚いたように見開いた。
「待って、彼らが持ってるの、おれが落とした師匠の発明品だぞ?!」
「えっ」
二人の動揺に、影も反応を返す。
「そう、なんか落ちてたの拾ったんだー!」
なんとそのまま金色の鶏卵のような形をした発明品のボタンを押してしまった。
「! やばい、あれは!」
「なっなに、なに? なにか来るのユース?」
しばらくし、その発明品から流れ出すへんてこな曲。
「……おわ、わわっ?」
不思議なことに、意識はそのまま、ソルリアとユースティの体が動き出す。
「うわああ体が勝手に動くっ」
気付けば使用者含め、その場にいる全員が踊り出していた。
「これは、きょーせーだんしんぐくん!」
「強制ダンシングくん……?」
「約1〜3分ほど、へんてこな曲に強制的に踊らされる! 時間はランダムだが独創的な踊りが出来るぞ!」
「なんだそれ?!」
独特な曲の流れる中、影たちも独創的なダンスをしながら。もう一つの発明品であるペンライトをユースティに向ける。
「オプファを返して貰うまで、逃さないぞー!」
「あれは何、ユースっ」
「ひとときのとまどいくん!」
「??」
「ウサモドキって魔物の力を発想に得ているらしくて、その光をみると記憶が一瞬消える! でも直視しない限り大丈夫だから__」
説明してる間にも影はそのライトをつけ、ユースティが光を見てしまう。途端に人間の説明が止まった。
「おい嘘だろお前そんな簡単に」
丁度へんてこな曲も途切れ、ふらりと脱力したユースティの様子にひやりとしたものを感じるソルリア。様子を確かめるように下から覗きこめば、人間は目をぱちくりさせた。
「……うわ、あなた、誰ですか」
本当に心当たりがなく突き放すような声色。ソルリアは少し口を結んで詰まったものの、叫ぶ。
「こら、俺のこと忘れんなーっ!!」
「…………! ソルリアー!!」
どうやら効果は短いらしくすぐに元の調子に戻り、ユースティからソルリアを抱きしめた。
「ごめんソルリアぁあっ!」
「ばーかっ。それよりユースティ、通信はっ?」
「そうだ、ここに来てもコッペリウスが昇降機を起動させてくれないと!」
すると突如二人を囲う透明で大きな長方形の箱。なんと防音のようで、影たちの声が聞こえなくなる。そのまま様子を見ると影たちはこちらを見失ったようで、辺りを見回していた。通話もいつの間にか繋がっていたらしく、コッペリウスの声が聞こえてくる。
『何かごちゃごちゃしていそうですね。このまま引き上げますよ、二人とも!』
どう引き上げられると言うのだろうか。なんとなく嫌な予感がして、心の準備の出来ていない二人は不安げにお互いを見合う。……突如グワッ、と勢いよく箱ごと二人の体が引き上がった。
「ひぇ」
まるで下から打ち上げられたかのように、エレベーターは勢いよく飛び上がる!
「わぁああぁあぁああ…………!」




