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第66修 明かす真名、きたる沙汰?



「ご縁と霧の空って書いて、御縁(みえにし)霧空(むく)

 ……はは、なんだか照れくさいな!」



 途端にいつもの調子で笑ってみせたが、ソルリアからの返事はない。……絶妙な間に耐えられず慌てたように続ける。



「ちょっと。聞かれたことはちゃんと言ったぞ! 何か反応をくれないとおれ、ショックだよ」

 

「……なんだろ、かわいい感じだなって」


「えぇっ?」



 ソルリアは自身の感想への同意を求めて、ユースティは予想外の返答にどう反応すればいいかの答えを求めて。二人の思惑は異なるが、揃ってハザックの方を見つめた。



「ハ。二人揃ってとんだ阿呆面しやがって」


「そんなこと言うなよな。お前はユースの名前、どう思うんだよ?」


「別に」



 あしらおうとしたハザックだが、見つめ続けてくる二人の視線は簡単に逸らせそうにない。それを察し、頭に手をあてて感想をひねり出す。



「なんだ……確かに、丸いな?」


「可愛い感じで、丸い……??」



 ユースティの表情があからさまに、答えの出ない難問を考えるような顔になる。



「おい、どう言うのが正解なんだよ」


「何言ってるんだよ、正解なんてないぞ」



 先程まで言外でハザックに同意を求めていた筈のソルリアがきょとんとした表情で答えた。



「テメェチビ……」


「俺はチビじゃない。それよりユース、その感想に対して何か思ったなら言ってみてっ」



 とうとうハザックからの睨みつけさえスルーしてしまって、人間から思考を引き出すように誘導していく。



「えぇ? なんだろう、おれはかっこいい方が嬉しいんだけどな」 


「かっこいいは、ないな」


「えっ」


「名前じゃなくてテメェ自体がそんな感じなんだよ。とことん馬鹿っぽ……いや、放っていたらどこぞへ転がりそうなくらい丸い」


「馬鹿っぽいってのは聞き捨てならないぞハザック!」


「そこは反応するのかよ。面倒くせぇなあ」



 そんなやり取りの間にも、ぐぎゅるるる……と、空腹の音が辺りに響いた。ユースティが静かに手でお腹をおさえた。



「そういえばお腹空いてたんだよな、俺たち」



 同情の目を向けるソルリア。これでようやく意味の分からない時間が終わるだろうと、ハザックがそのまま続けた。



「丁度よかったな。そこ、みてみろよ」



 指をさした先。そこには両足の裏側を天に向けて倒れ込んだ、大人のヒトの大きさの、真っ白な鳥が上流から流れてきていた。



「うわぁあああ死体ぃいいっ」


「……ハッ!!」



 浅瀬で流れ着いたその体が、声を上げて起き上がる。声を上げたソルリアと共に驚いていたユースティだが、その者へすぐに近寄り手を伸ばした。



「それは伝統芸なのかい、マーケ?」


「かもしれないっすね……!」



 翼と同化した腕を引き立ち上がらせる。彼は旅人相手に行商人をしているという、アウィスのマーケだ。彼はへらりと笑うと頭をかいた。



「またまた助けていただいたんすか? いやー、助かりましたっすよ〜!」


「テメェが勝手に上流から流れてきたんだよ、どんくさ鳥頭。さっきは食べるのに丁度いいとはいったが、テメェの肉はゆるくて不味そうだな」


「なんすかそれ〜誰かさんが酷い言葉かけてくるんでお腹が空きやした、ちょっといただきまっす!」



 心ない言葉も特に気にない様子で腕を広げ、浅瀬に影を作る。……じっとしていたがあるタイミングで嘴で魚を啄み、うねるそれを流れるように丸呑みしてしまった。



「うん、新鮮で美味しいっすねぇ!」



 呆気にとられたソルリアとユースティの横から投げつけられる魚。ハザックからだ。活きがよく、体に叩きつけられたそれぞれを二人はなんとか掴む。しかし何度もつるつると滑って取り落としそうになる。



「な、なに! 何?!」


「そこの鳥頭が全部食っちまう前にテメェらもさっさと食べろ。ほら、調理器具ならそこに広げたから」



 早くも魚を捕まえて二人に投げてきたハザックはその間にも、包丁やまな板、立てかけて焼くことができる焚き火のセッティングまでをこなしていた。



「速っ……ありがとうハザック……?!」


「勘違いすんなよ。テメェの腹が五月蠅いからさっさと黙ってもらうだけだ」


「わ、わかった!」

 

 

 まな板の上に魚を置き包丁を手に取るまではいいが、捌く手があまり進まない。艶のある青白い表皮。見た目では安全で美味しそうに見えるが、問題はそれ以外にある。



「……この動いてるの、食べるの……?」



 ソルリアにいたっては、なんとか腕に抱えた動く魚を見つめて立ち止まってしまっている。マーケはうんうんと頷く。



「それ、永遠のテーマっすよねぇ。魚は人魚を連想しちゃいがちだし、トリ肉食もおいらみたいにヒトと話すトリが出てきたってのに、存在し続ける。

 何万年と続いてきた生活の基盤っすから、上手く変えることができないんっすかねぇ」


「確かに複雑だよね。でもおれの故郷では……」


「何かあるのか?」



 空の国の話をしかけて一度止まりかけたユースティだが、ソルリアに促されて続けることにした。魚を受け取って、いただきます、と言いながら二人分の拵えを済ませ、串に刺すと火を借りて焼いていく。



「うん。本物を使わず肉や魚の味を再現した疑似肉ってのがあるんだ」


「ええ?! それって美味しい?」


「十分美味しいけど、何か足りない。たとえ疑似肉で育ったとしても、本物を食べたら二度と戻れない……って位には違うよ」


「模造品はあくまでも模造品、ってことなんすかねぇ」


「なあ、話してるところに悪いが」



 ハザックも食事を取りつつ、マーケへと質問を投げかけた。

 


「テメェはこんなところまで何しに来たんだよ? 変わり者ならともかく、世界樹の麓に来る位の旅人なら、どっかの街や国で買い物はとっくに済ましてるだろうに」


「そうだ、おいらここを抜けて早く行かなきゃいけないところがあったんすよ!」



 思い出したように浅瀬から上がると、自身の商売道具が入った大きな鞄を背負い、流れ着いた帽子を被り、手提げのバッグも肩からかけて。川に向かって翼を合わせた。



「行かなきゃいけないところ?」


「大きな取引をしてくれるヒトがいらっしゃるんすよ!」



 焼き魚を手渡されてから恐る恐る口にして食べていたソルリアはふと立ち上がって、マーケの大きな背負い鞄の端っこを引っ張った。



「ん。どうしたんすか、ソルリアさん?」


「なあマーケ、空にある国のこととか、ウォロスって知ってる?」



 あまりにも唐突な質問に、水色の目をぱちくりとした。



「空にある国と、ウォロス? 行ったことはないっすよ。その場所でなにかあったんすか?」


「いや……。なんでもない」


「そうっすか。ではおいらはこの辺で失礼しまっすね!」




 去っていくマーケを見送ったあと。ソルリアのことをハザックは見つめ、ユースティが首を傾ける。



「行っちゃったね。それにしてもソルリア、何で今、ウォロスのことをマーケに聞いたんだ?」


「んー……なんとなく__」



 言葉を続けようとした彼を遮るように、大きな音__電子音で構成された曲と声が鳴り響く。怪訝そうなハザックをよそに、ユースティが焦ったような顔をした。



「次はなんだよ。イカれた歌だな」


「これ、って……ソルリア、ブラックボードくん出してみて!」


「言われなくても、音っ、こいつから出てるみたいだしっ」



 辺りに響き渡る音。あわててポーチを開きブラックボードくんを取り出すと、遮るものがなくなった音はより大きく鮮明になる。全員で画面を覗き込めば、そこに書かれていた文字は。




「中央塔……からの、着信?」




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